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ボタ子(赤松利市/新潮社/山本周五郎賞ノミネート候補作品)

<著者について>

赤松利市さん

1956年、香川県生まれ。2018年、「藻屑蟹」で第一回大藪春彦新人賞を受賞。他の著書に『鯖』『らんちう』『藻屑蟹』。『ボダ子』が四作目となる。



<山本周五郎賞とは?>

大衆文学・時代小説の分野で小説・文芸書に贈られる。エンターテインメント性が高く、日本の大衆文学賞として「直木賞」の対抗馬的な立ち位置だといわれることが多いが、大御所やベテラン作家が受賞する直木賞に比べて、山本周五郎賞は中堅作家が受賞する傾向が強い。ちなみに、山本周五郎は、直木三十五賞において授賞決定後に辞退をした史上唯一の人物です。


<あらすじ>

バブルのあぶく銭を掴み、順風満帆に過ごしてきたはずだった。大西浩平の人生の歯車が狂い始めたのは、娘が中学校に入学して間もなくのこと。愛する我が子は境界性人格障害と診断された…。震災を機に、ビジネスは破綻。東北で土木作業員へと転じる。極寒の中での過酷な労働、同僚の苛烈ないじめ、迫り来る貧困―。チキショウ、金だ!金だ!絶対正義の金を握るしかない!再起を賭し、ある事業の実現へ奔走する浩平。しかし、待ち受けていたのは逃れ難き運命の悪意だった。実体験に基づく、正真正銘の問題作。


<感想>

お金になろうがなるまいが、とにかく書きたい人が書いたであろう熱と毒を感じさせるノンフィクションです。

題名にもなっている通称ボダ子(ボーダーからの愛称)ではなく、どうしても作者と同一視させられる語り手の父親、浩平が主人公です。

漫画喫茶で生活する「ホームレス作家」赤松利市さん、63歳。デビューから1年の新人作家です。

主人公 大西浩平は、大学卒業後消費者金融の会社で働きすぎで、妻に愛想を尽かされます。
その後脱サラし、バブルの波に乗り、豊かな生活を享受します。

3度目の結婚相手に生まれた娘の恵子は、理性が吹き飛ぶほどの可愛らしさで、浩平は「この子だけは何としても幸せにしたい」と、
ますます商売に精を出します。

順風満帆だったはずの浩平の人生ですが、東日本大震災発生で事業が破綻してしまいます。
一方中学生になった娘は「境界性人格障害(ボーダー)」と診断され…。
子育てにほとんど関わらなかった浩平は、手首を切ったりもしている娘の変化に気づけずにいたのです。

娘を叱ることも向き合うことも怖くて、「絶対主義の金を、億を越える金を握るしか!」と、浩平は東日本大震災被災地の復興バブルにかけます。

娘も、娘の母も一緒に仙台に移住すると、ボランティア活動に生きがいを見出した娘は、被災者からの評判が良いとのこと。
浩平が話を進めている「防災タワー」の受注ができれば、大金が手に入り、全てうまくいくはずだったのだ
が…

娘を救い出すチャンスは、何度かみられるのに、逃してしまう。それでいちょっとお金が儲かると、女性に遣ってしまう。
幸薄かった母の面影を追ったマザコンと言えば聞こえがいいけれど、特殊な愛し方です。男性には分かるのかな?

その母親譲りの浩平の口癖は「何とかなる」この言葉のおかげで、浩平も生きていけてるし、私も読み続けられました。

読後、体に残る毒は何なんでしょうか?最後まで差し込む光を見せてくれないからでしょうか?

岩井志麻子先生のズバッとコメントを読んでやっと楽になり感想書いている私です。

岩井先生コメント…
『彼はものすごいダメ男として描かれているが、クズ男ではない。ダメとクズは似て非なるものだ。クズ男やクズ女は彼の職場や娘の入院した病院、ボランティアの現場などに遍在し、よく読めば光り輝くダメ男は浩平ただ一人である。娘は、ピュアすぎて透き通るような唯一のダメ女だ。』


 浩平の生存への渇望や成功への熱意、娘を守る為の活力、全うな力なのに、普通じゃないんです。

この世の中、すべての人が美しい希望や正しい規範で生きたくないんだなぁと、。自分の普通って何だろうと、みんなボーダーなんだろうか?考えさせられます。

私が新宿に出れば、路上でも小説を書くという赤松先生と一緒に、ボダ子の面影をきっと一緒に追ってしまうだろう、この小説にはそんな力があります。

怖がらずに是非ご一読を。



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