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夏休みパスタ

“グルテンフリー”という選択肢が日常に組み込まれつつある昨今において、パスタと聞くとファストフード並みの罪悪感を覚えるようになってしまった。
わたしは思う。夏という時間は、暑さに振り回される日々を自らの欲望でコントロールするような背徳感を得たくなる季節なのだと。
たまには、そんな季節のせいにしてもいいじゃないか。そうだ、パスタを作ろう。

たっぷりの塩を含んだお湯の入った鍋でパスタを茹で、具材を炒めているフライパンにその茹で汁とパスタの麺を投入する。フライパンを返すたび、ちゃきちゃきっと音を立てて麺が茹で汁と絡まってゆく。その乳化の様子を見ながら、しめしめと口元が緩む。この旨みを口に運ぶまで、あと少し…!


冷凍むきえびとキャベツと玉ねぎパスタ

まずは、残り物パスタ。
冷凍むきえびは本当に優秀である。殻をとる必要もないし、ただフライパンに放り込めばすぐにぷりぷりの身に復活する。優しいピンク色の見た目があちこちに転がるさまがかわいらしい。キャベツと玉ねぎの甘みに包まれたえびたちが、パスタの海をすいすいと泳ぐ。
味付けは、鶏ガラと茹で汁。いつも、調味の完全体と言っても過言ではない「鶏ガラ」の存在に頼るたび、「この味って、誰でもできてしまうんだよなあ。」と少し悲しくなる。でも、裏切らないあの味を求めてしまう。相当な時間をかけて鶏を煮出さなければ出会うことのできない出汁を、一振りで調味することに対し、わたしはいつも何かに謝っている。


玉ねぎがいささか多かったトマトパスタ


冷蔵庫の奥で、ある日瀕死の状態で発掘されることが多い「トマト」。(たぶんわたしだけ)
赤色には緑色が欲しくなる。それは、わたしが苺好きだからでも、クリスマスが待ち遠しいからでもなく(半分そう)、植物界で赤色の対照となるのは緑色だと思っているからである。赤信号が止まれで、青信号が進めであるように。鮮やかな色の拮抗を中和するように玉ねぎを投入。しかし、1/4分を入れるはずが1/2分入れてしまったようで、フライパンはごった返していた。パスタサラダを食べたような気持ちになった。


みんな大好きナポリタン


先ほどの、赤色緑色理論(ながい)が適用され、ピーマンを投入。
ケチャップとウスターソースを混ぜた、ちょっと濃厚ナポリタンを目指した。
フライパンにケチャップを焼き付けるようにして、トマトの酸味を十分に飛ばす。最後にパスタを入れて絡めるときに、まるで布が染色していくようにじんわりとパスタに色がついていくところが美しい。
味は期待通りであったが、ベーコンをもっとカリッとさせたほうがよかった。
ピーマンはもう少し薄切りにしたほうがいい。わたし的に、ナポリタンのピーマンは定食でいうお漬物のような役割だと思っている。甘みと旨みを無心で口に頬張っているところに、ふっと目の覚めるようなピーマンのシャキシャキ食感と奥に潜む苦味が句点を打つ。そうして、また味が仕切り直されてゆく。けれど、今回は一口に対してのピーマンが大きすぎて、これではたくあんがどんと皿に盛られているようなものだと落ち込む。大きなピーマンのつやつやした背中が、次の料理への応援幕に見えて。どうかしている。


パスタを作るぞと意気込み、スーパーのパスタコーナーの前で立ち止まる。
まじまじと見ると、パスタにもたくさんの種類があるものだ。茹で時間、麺の太さ、グルテンフリーか否か、形状。
わたしはうどんかそばかでいったら、うどんが好きである。なぜなら、麺が太いから。口の中を圧迫するあの麺の密度を、もぐもぐとする瞬間が好きなのだ。パスタにはそれほどの太さはないが、できるだけ太い麺を選びたい。そう思って、「Barilla(バリラ)」という1.8mmのパスタを購入した。3回もパスタを作ると、茹で時間9分にも慣れた。
まだ麺が残っているので、今度はクリーム系のパスタを作ってみようと思う。

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