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【ショートショート】女同士は難しい

「アタシ、あの子キライ!」
2人で家に帰ってきて、リビングルームのドアを乱暴に開けながら彼女が言う。
「そんなこと言うなよ。オレは良い子だと思うけどなぁ」
バン!とハンドバッグをテーブルに叩きつけながら彼女が振り向く。
「良い子?アンタ、ああいうタイプが好みなワケ⁈」
「ち、違う、違う、そういうことじゃないよ。オレの親友の彼女だしさ」
「だから?」
「仲良くやって欲しいんだよ」
「やってるじゃない!頑張って笑顔作ってるわよ!」
「分かってる、分かってる。感謝してるよ」
今日の仕事は一段とハードだった。
ダンスショーが終われば、たくさんのファンに寄って来られて握手をする。
写真もあちこちから撮られる。
その間、笑顔を絶やしてはならない。
オレも彼女もいつ途切れるか分からない人の波に、四方八方から押されていた。
そんな時、親友とその彼女が通りかかると、人の波はあっという間に彼らに向かって行った。
オレは助かったとホッとしたが、彼女はそうではない。
「だいたいさ、何にも知らないようなウブなフリしてさ、みんなありがと〜なんて手を振りながら、絶対自分が一番だと思ってるわよ、あの女!」
「まぁ、そうかもしれないけどさ、仕方ないよ、彼らの方がキャリアも長いし人気もあるんだから」
「アタシたちだって初期メンバーじゃない!」
彼女が全体重をソファに放り投げるように、大きな音を立てて腰を下ろす。
「そうだよな、君も頑張ってる。それはオレが一番分かってるよ」
オレはそっと彼女の隣に座り手を握る。
それから優しく手の甲を撫でる。こうすると彼女はいつも落ち着いていくのだ。
「ホント?」
「もちろんだよ。君にだってたくさんのファンがいるじゃないか」
「そう?」
「そうさ!一番のファンはオレだけどね」
彼女の表情が和らいで、いつもの優しい笑顔に戻る。
「ありがとう、ドナルド」
「愛してるよ、デイジー」

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