【エッセイ】警備員のおっさん
昨日は2年間お世話になった職場の最終日だった。
ノンフィクションのストーリーとして、心に残ったことをエッセイにして残しておきたいと思う。
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<今日の一曲>
憂歌団 / おそうじオバチャン
この前ライブハウスで少し演奏したので憂歌団が頭に残ってます。代表曲的なこの曲、今回の内容ににぴったりなのでチョイスしてみました笑
おばちゃんじゃなくて、警備員のおっさんですがww
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警備員のおっさん
お世話になったいろんな人たちに挨拶をするために職場に向かう。
途中でふと、職場じゃないところで、どうしても挨拶したいひとがいることに気づいた。
あ、、”警備員のおっさん”に挨拶しないとw
何人かいるけれど、若手のぽってりしたやつでなくて、ベテランの方で少し背が低くて角刈りのひと・・そのひとが頭にうかんだ。
その人は、みんなの名前を覚えていて、挨拶をする時に必ず名前や肩書きなどで声をかけてくれる。
「部長!いつもお疲れ様です!」
「中村さん、お客様の登録は大丈夫です!」
などなど。他の人にもきいてみると、みなそのように言われているようで、僕だけではないようだ。そんな素晴らしい対応をしてくれる警備員にはあったことはない。
「警備員のおっさんに、最後に挨拶しよう」何となく僕はそう思って職場に向かっていた。
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職場の挨拶は、リモート型の働き方になってから
いい意味でも悪い意味でも簡素化されている。
ちと寂しいけれど、リアルではさっぱりした付き合いになったもんだな〜と思う。大々的な送別会ももちろんないし、職場の最後の挨拶的なイベントもない。
幹部連中は、ほぼ全員在宅勤務だったので、机にお菓子を置いて、この名刺も今日で最後だな〜とか思いながらメッセージの書き置きをしていた。
下の階にいる仲良くしていた部長が、わざわざ朝イチに顔をだしてくれた。
一緒に苦労して働いたときの思い出話に花が咲いた。
こういうフランクで自然な雑談・・今となっては貴重になったなとつくづく思う。
プロジェクトで関わっていた担当メンバーは結構出社していた。
私が最後の日だから、少しは気をつかってくれているのかもしれない・・
声を掛け合って、皆でランチにいくことにした。
こうやってランチにいくのも、はじめてだったかもしれないな。
メンバーは新人さんも多いけど、こんな雰囲気で、わいわい話す時間はなかった。今更ながら職場での人とのコミュニケーションが変わったことを実感する。
そんなことを思いながら、楽しい雑談の時間を過ごした。
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職場にもどる途中、僕はみんなと別れてから、お菓子を買いにスーパーに寄った。警備員のおっさんの好きそうなものはスーパーの方があるような気がしたからだ。
チョコレートのカカオ70%の安いやつと、3つで300円のお菓子をなどを適当に買い込んだ。
職場の4階の受付にもどると、お目当てのおっさんが受付席に座っている。
声をかけようとする前に、向こうから声をかけてきた。
「部長!今日が最終日ですか?」
「そうなんですよ〜、ほんとお世話になって、おじさんは名前も覚えてくれてたし、最高の警備でしたよ! チョコでもどうぞ〜」
買ってきたチョコを渡して、はじめて警備のおっさんと雑談。
私は、おっさんがいつも顔を覚えていて、自分の名前を呼んでくれたり、他の社員にも同じようにしてくれていることが凄いことで、嬉しいことだと、喋りまくって感謝を伝えた。
おっさんは嬉しそうな顔で、話を聞いてくれて、ひとこと訊いてきた。
「部長、タバコは何吸われてますの?」
急な質問にびっくり。
何でタバコ?僕は、二年前に(ほぼ)禁煙しているし、警備のおっさんと喫煙所とか言ったこともないし・・?!
唐突な質問にびっくりしながらも、思わず答える。
「いやー僕はセブンスター一筋ですわ、パチンコしながらセッタが定番ですわ。最近はパチンコはやってませんが笑」
「ほう〜、わたしはショートホープですわ・・・」
「おお〜、しぶいっすね!ショッポ、かっこいいです」
そこからは、まるで20年前の男のタバコ部屋トーク。
僕はすごく懐かしい気持ちになって、おっさんにいろいろ質問した。
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警備のおっさんは、実は営業歴が40年!都内で楽器の営業をオーケストラやらを相手にバンバンやっていたらしい。まさかの営業歴20年ぽっちの僕の大先輩ということになるw
もともとは楽器を教える学校の先生になりたかったらしい。
しかし、当時の学校は不良が多く、授業どころではない現実を、教育実習で感じ、少しでも大好きな楽器に近い仕事をしたくて、楽器の営業職についたとのことだった。
思わず僕も、営業一筋で同じようなキャリアだと話をすると
「部長は、他の人と違って、来訪のお客様と話されたりする雰囲気が違ってましたね〜 やっぱり迫力がありますね〜」
警備のおっさんは、僕の今までの営業対応をすごく褒めてくれた。
なんというか・・ちょっと愕然とした気持ちになった。
いままで、何となく元気な角刈りの名前を覚えてくれる、ただの警備のおっさんだと思っていたひとが、営業の大先輩だったとは・・
少し見下していた自分が恥ずかしくなった。
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夕方、職場を出るときに、警備のおっさんに挨拶して帰ろうとすると・・
「部長!これでしたよね?さっきのチョコのお礼です。どうぞ!」
そういうとおっさんは、ポケットからセブンスターを出して僕に差し出した。
そうか、さっきタバコの話を聞いてきたのは、自分が大好きなタバコを僕にプレゼントしたくて聞いてきたんだな・・
そう思うと、ただ唐突にタバコの話をしたわけではなくて、昔の営業トークを僕にしてきただけなんだと気づいた。昔はみんな特に営業はタバコを当たり前のように吸っていた。休憩時間にタバコを一服。
おっさんはショッポ、僕はセッタ。「よくそんなきっついタバコ吸えますね〜」とかいう、あるあるトークが聞こえてきそうだ。
そんな営業トークに花が咲く、タバコのプレゼントをいただいた。
「本当にお世話になりました!また顔忘れずに覚えておいてください!」
営業の大先輩に大きな声で挨拶をして、僕は職場を後にした。
警備のおっさんは営業歴40年の超ベテラン。
ビルに出入りする全社員の名前と顔を覚えることくらい朝飯前。
ちなみに僕は人の名前を覚えるのが大の苦手・・笑
営業としてはまだまだ未熟者。
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なんかすごく切ない気持ちになった。
もっと早く警備のおっさんと雑談していたらよかったな〜
とか思っても後の祭りwww
僕も明日から新しい仕事に就く。
営業魂はそのままに、警備のおっさんと同じ40年はがんばってみたい😊
©️Mahalopine
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