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【エッセイ】渋谷の酒場

今年は12月に入ってから
少し前の制限された日常が、うそのようになくなって
三年前のように連日の忘年会が続いていた。

***
今晩の飲み会は、昔お世話になった会社の大先輩と久しぶりの会。
いまはそれぞれ違う仕事、違う立場、違う人生の時を生きている中で、
数時間の同期した空間を楽しむ時間。
真面目な話をしたり、談笑したり、まったりした空気を楽しんだり──

仕事話はさっきまでの会議室の中まで──
とはいえ、飲み会の談笑の中、脱線すると仕事の話になったり。
会議の後の会食はだいたいそんなもので、
半分は会議の延長線だったりする。
共通の知り合いの話、仕事・時事ネタ・趣味などなど。
気の合うひととの楽しい時間はあっという間に過ぎる──────。


会計が終わり階段をあがって外に出る。

「今日は、もう一軒つきあってほしいのよね〜いいよな!」
「あ、はい、いいですけど、どこいくんすか?」

21時前に早めの一次会が終わり、そのままタクシーに乗り込む。
向かったのは渋谷の隠れ家的な酒場──────。


お店に入るとカウンターとソファー席は常連さんで満席状態。
ちょっとサーファーっぽいマスターとバーテンは今時の若者。
お客さんは様々だけど、みんな仲良しなローカル仲間っぽい。

「お〜!久しぶり〜!元気にしてたか!〇〇」
「おめ〜、俺のこと呼び捨てで呼ぶな〜」

とかいいながら、殴り合うのかと思いきやハグをするw
ちょっとイカつい人や、業界っぽいひと、一人でのんでるお姉さんなどなど
先輩はみんな知り合いっぽくて、ほぼ全員に挨拶をしてハグしている。

カウンターがいっぱいで座れなかったので
テーブル席で少し待つように言われる。

「カウンターはマスターと喋れるから順番待ちなのよ」

お店にチェックインした時の儀式みたいなのがあって
テキーラが人数分運ばれてくる。
みんな親指と小指でテキーラのショットグラスを器用に持って乾杯する。

「はじめまして〜!なんて呼んだらいい?」

テキーラを一気飲みして会話が弾む。
はじめての僕も先輩について来ているだけで
みんなと昔からの仲間になったような気持ちになる。

「どうよ、この店の雰囲気いいでしょ?」
「最高っすね〜」
「みんないいやつばっかなのよ、結構すごい仕事してるやつもいるよ」

先輩は10年来、この店の常連らしくて
週1ペースで顔を出しているようだ。
今日も僕と飲むことを口実にして、
早く帰ってこいという彼女に言い訳したらしい。


しばらくするとカウンター席が空いて、
僕たちが座る順番が来た。

「どうも〜、はじめまして!○○といいます!よろしく〜」
「あ〜こいつもめっちゃいいやつよ!」

少し狭いカウンター席で、ひとりで来ている常連のお兄さんと隣になった。
先輩の隣にも、別の常連さんが来て、さらに賑やかになる。

「今日、うちの娘がついに大学の内定とりました〜!!」
「お〜〜それはめでたい!おめでとう〜〜」
「おめでとうございます!!!」

カウンターでは、またさっきの儀式的なテキーラが運ばれてきた。
またまた親指と小指でショットグラスを挟んで乾杯する。


一人でバーとかにいかない僕にとって
これだけ常連さんたちが仲良い空間は初めての体験かも──


東京にきて20年。
こちらのローカル文化に触れてきたつもりだけど
こんなホットな空間には、初めているような感覚──

みんな仲良し、飛び交う会話は全てポジティブ。
すごく純粋で新鮮な気持ちになる。

ところどころで、会話にはいったり、あいづちうったり、
気ままに聞き流して、お酒を楽しんだり
みんな好き勝手、自由でポジティブな空間と時間が流れている。

「あ、さっきの話されてた会社の社長、僕の友だちですわ〜」

ちょっと仕事っぽいモードで僕が会話に割り込んだら──
「そうやって、マウントとりにいくな〜、ここはそういうとこじゃない」
すかさず横の先輩から小声でツッコミが入った。

いきなりまじめに言われて、ちょっとびっくりしたけど、
確かに僕の一言は、
周りの自由でポジティブな空気とは違うものだった、と一瞬で感じた。



───2時間ほど時間がたって。
先輩は相変わらず、来る人みんなと
大きな声でポジティブトークをして
みんな大きな声で笑っている──。
今日はさすがに電車で帰ろうと、少し遠慮がちに席をたった。

「そろそろ帰りますわ〜」
「おう!今日はありがとな〜〜〜!」

お、引き留められるかと少し思ったけど
最後まで自由でポジティブな反応はすごい。

ぶらぶらと渋谷駅まで歩いて
ひとりで電車に乗ってスマホをみると──

「今日はありがとうございました!」 22:48

先輩からなぜか敬語でメッセージが届いていた(笑)


田舎者の僕にとって、
いつまでたっても都会の東京、
その中でも、
一番都会っぽくて少し苦手な渋谷の酒場は、

気の合う仲間が集まって
自由でポジティブな会話と
笑い声が絶えない空間だった。

そんな中で、
ちょっと卑屈な自分が恥ずかしくなった。

2022年ももうすぐ終わる、来年はいよいよ50歳になるな。

行きつけのお店──────
来年はちょっと背伸びして、ひとりでふらっといける
"渋谷の酒場"みたいな場所をつくりたいなと、ふと思っていた😊



©️2022 Mahalopine

記事執筆のための、いろいろな本の購入費用として活用させていただきます!