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小説「ムメイの花」 #6沈黙の花

「なんで黙っているの!」


いきなり朝から大きな声が聞こえた。

どうやら隣の家からのようだ。
隣の家はデルタの家。

僕は急いで屋根から花を摘み、
朝ごはんも食べず家の前に立つことにした。


朝の日課。
家の前に立つ。
右手には1本の花。


隣の家を覗いてみると
玄関の前でデルタのママがお怒りのご様子。

何があったのか、
デルタの洋服は花の灰で真っ黒だ。

通り過ぎる人たちはこの出来事より
ロケットの発射時間を気にして
自分の朝を優先していく。

デルタはずっと何も言わないから
余計にママはヒートアップする。

「お部屋もお洋服も真っ黒じゃない!」

ママの言うとおり、
花の灰は確かに一度付くと厄介だ。
気持ちは充分わかる。

一方、何を言われてもデルタは黙っている。
僕はこの出来事の背景を考えた。

部屋が真っ黒とは、
花を家に持ち込んだのか?

謎だ。


そういえばこの前、
デルタが花びらを使って
ママに何かを言うことを決めていた。

その答えだとしたら?


「おーい、アルファ。おはよう」

考えているとブラボーが走ってきた。
片手には「注目される方法」という本を持ち、
近くまでくるといつものようにつまずく。

躓いたことに対して
全く気にしていない様子のブラボーは、
肩で息をしながら興奮していた。

「おはよう、ブラボー」
「すごいニュースがあるんだよ」

「今のデルタが怒られている状況より
 すごいことだったら聞くとしよう」

ブラボーは本に挟んでいた
1枚のチラシを差し出した。

『あなたの作品は、学習生活のアイコンだ!
 みんなの学習帳コンテスト 
ファイナリスト発表』


「僕たちが学校で使っていた、あの緑のノート?」

「この星で表紙を募集していたみたいで
 選ばれた5人にデルタが入ってるんだよ!」

ファイナリストの一覧には
一緒に応募作品が印刷されていた。

こころを込めて書かれた絵がある中、唯一、花の写真。
右下にさりげない「撮影者デルタ」の文字。


僕たちの会話を遮るように
さっきよりも声量を増したママは
デルタに問い続ける。

「なんで黙ってるの!!」

なんでと言われてもデルタは黙り続ける。


今、僕の手には
ママの気分を変えるものがある。
それは花とデルタの功績。

ママに渡せばきっと、顔色を変えるだろう。

なのに僕はデルタと同じように
沈黙という形にしてしまった。


僕にできたのはただ、右手の花を握りしめことだけ。

沈黙する花。
花も「あえて」黙っているんだろうか?

黙ることには背景があるはず。


「なんで黙ってるの」
花に向けて言葉をぶつけてみた。

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