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小説「ムメイの花」 #5決意の花

朝の日課。
家の前に立つ。
右手には1本の花。

今日は花を分解してみることにした。

分かったのは花の構造。
5枚の花びらと茎。

それだけ。



花を摘みなおしに仕方なく
自分の部屋へ戻ることにした。

窓を開け、屋根に咲く花をつかもうと
手を伸ばしていると、あるベンチが目に入った。

ひとりの女の子が
ベンチに向かって何かをしている。

デルタだ

デルタはカメラが大好き。
いつもカメラを首にかけ、
いつもカメラを覗き込んでいる。

本当に撮影しているかは気になるところだ。


見てのとおり、それ以上の特徴がある。
顔の半分がメガネ。


いつかの朝、こんな会話をした。

「おはようデルタ。メガネ、重くないの?」
「そろそろ外したいんだけどねぇ。あ、おはよぉ」
「その前にカメラを下ろしたら?コンタクトにするの?」
「ううん、カメラを目にしたいなぁと思ってぇ」
「どういうこと?」

「メガネよりカメラの方が
 世界が良く見えるから、
 カメラを目にしたいんだけど
 ママに止められるのぉ。

 カメラは首にかけるものだってぇ。
 どうしたら良いと思うー?」

デルタの世界が広がっていた。


今朝のデルタは、
カメラをベンチに置き
何か作業をしている。

花を1本摘み、右手に持った僕は
目に留まったベンチに向かった。


「イエス。ノー。イエス……」

デルタは小声で呟きながら
花びらを1枚ずつベンチに置いている。

この答えはイエスに決まっている。
わざわざ花を使う程でもない。

デルタは僕の姿に気がつき、
何か言いたげに僕を見ている。

「ねぇアルファの花、借してぇ?あ、おはよぉ」

僕が黙って花を差し出すと、
また花びらを1枚ずつ置き始めた。


「ノー。イエス。ノー。イエス……」

「何を決めているの?」

「さっきの私の花は
 アルファの花をイエスかノー、
 どっちから始めるか決めたのぉ」

「え?僕が渡した花のイエス、ノーは?」

「ママに黙ってるか決めてるのぉ」

僕の花の方が本題のようだ。
今日も独特な世界が広がっている。


デルタが最後の花びらをつかんだとき、風が吹いた。

ベンチに置かれた花びらたちは
風に遊ばれ、舞っていた。

デルタの運命はイエスだったのか。
それともノーなのか。

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