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小説「ムメイの花」 #11模倣の花

ボクの名前はチャーリー。

ボクは偉い!
だって今朝も休まず自分の家の前に立ち、
両手に3本の花を持っているから。

ボクは人から真似されるべきムメイ人だ。
そのためなら何だってする。

年下からも同い年からも年上からも
ムメイ人みんなの最前線に立って
真似される偉い人になるんだ……

「わあ、また真似したあ!真似っこチャーリー!」
「真似って思われたなら、ごめんってばあ」

なのに、学校では同い年の女の子たちに
こんなことを言われる日々。

「真似してるからごめんって言うんでしょ〜!」

女の子たちはボクに真似されることを嫌がる。
女の子同士で真似し合うのは大好きなのにさ。

毎朝、誰にも言えないこの気持ちを
家の前で3本の花にぶつけていた。

✳︎


ある日の休日、家でパパと話をしていた。
ボクのパパは学校の先生。

「いいか、我が愛しのチャーリー」

パパはボクに1枚の写真を見せた。
黒板の前でパパを真ん中に40人くらいの生徒が写っていた。
黒板には「先生!最高!大好き!」の文字。

「先生はな、みんなのお手本になるんだ。
 真似をされるっていうのは、
 立派で偉いことなんだぞ」

「だからみんなに最高って言われるんだね!
 ボクもみんなのお手本になってパパのように偉くなるよ!
 パパ大好き!」

パパはボクの頭を優しく撫でた。

「我が愛する息子、お前はそれに相応しいムメイ人だ」

✳︎


「ちぇっ」

無意識に、気持ちだけでなく言葉もぶつけていた。

ちょうど良いタイミングで
アルファが家から出てきたのが見えた。

アルファはこの街をロケットで有名にし、
ムメイ人から尊敬されている偉い家の人。

にも関わらず、アルファはいつも無表情。
ボクには全く意味がわからないことだ。

ボクとアルファは昔から見た目が似ていて、
近所のムメイ人に「兄弟みたいだね」と言われる。
またどうせボクは真似っ子扱いだ。

アルファは最近、ずっと同じことをしている。
自分の家の前に立って、手に持つ1本の花を見る。



そういえば、数日前。
アルファはボクにこんなことを聞いてきた。

「チャーリーは花を見るチカラって何だと思う?」

ボクはその言葉のイメージとおりに答えた。

花を見るチカラは
『花を観察するチカラ』だ。



どんなことでも答えが出せれば、
アルファは物知りだと思って、
ボクを尊敬するに決まってる。

自信を持って言ったのに、
今考えてみると少し恥ずかしくなった。
しかも自分で言った言葉が自分に向かって刺さった。



なんてこった。
ボクの両手にある3本の花が
「真似されること」を教えてくれているのか?

……アルファをずっと見ているし、憧れている。


人から真似されるべき存在のボクが
真似することを経験させられているじゃないか!

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