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小説「ムメイの花」 #10 満開の蕾と八分咲きの花

朝の日課。
家の前に立つ。
右手には1本の花。

空を見上げていると
ロケットが遠くの方へ消えていく。


「おーい、アルファ、おはよう」

いつものようにブラボーが走ってきた。
相変わらず、足元には不注意なヤツだ。
石に つまずいて、片手に抱える
「注目される方法」と書かれた本を落とす。

今日はそれだけではなく、
がさがさと音がする。
ブラボーは袋をぶら下げていた。

「おはよう、ブラボー」
「ふう、袋は落とさなくて良かった。
 家の近所にあるパン屋さんが焼きたてを分けてくれたんだ。
 アルファと半分ずつ食べようと思って持ってきたよ」

ブラボーは袋の中からパンを取り出した。

半分に分けようとするとパリッと音がし、
ふわふわとした食感の生地、
良い香りの湯気が立ちのぼった。

ふたりしてパンに見惚れていると
風の如く、ふたりの間を鳥が勢いよく飛んできた。
鳥は僕の家の屋根に止まる。

ブラボーの手元にあったはずのパンは
なぜか、鳥が咥えていた。


この出来事を見ていた人たちは
横目に通り過ぎていく。

今朝こんなことあってさあ、と
話題にすることだろう。

「君はさすがだ、ブラボー」
「なんて朝だ!鳥のヤツめ!」

鳥は僕たちを見下ろすように、パンを堪能する。
満開の花が咲いている屋根で食べるパンは、格別だろう。
鳥の姿は、前にブラボーが発言していたことを連想させた。

ブラボーが考える「花を見るチカラ」について。


花は『全盛期』を表すワード、
花を見るチカラは『成功を見据える』こと。



「ブラボーが考える『花を見るチカラ』のことなんだけど、
 全盛期ってどこなんだろう?」

「さあ、どこかなあ。偉人の言葉を本で読んだことがあるんだ。
 困ったときは歴史から読み解けって」

ブラボーはこの話以上にパンが気になっていた。
鳥は変わらず、僕たちを見下ろしている。

「自分史の盛り上がっているところ?
 僕の全盛期は一体どこだ?」

「鳥に見下されているこの瞬間でないことは確かだと思う。
 きっと鳥は成功を想定して上から見ていたんだな!
 そう思うと尚更くやしい!」

「それなら鳥より更に高いところに
 いたらいいじゃないか。ブラボーは背が高いしさ」

「それはそれでパンの湯気が見にくいし、
 香りも弱くなりそう。
 ほら、アルファが持つ花も見えないかもよ」

「遠すぎることもなく、近すぎることもない。
 高すぎることもなく、低すぎることもない……
 つまり、ちょうど良い高さってことか」


今、右手に咲いている花。

花より高いところから見ている
僕にとっては満開で全盛期に見える。

でも花にとっては、
満開だと思ってなかったりするの?

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