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⑤ZINE『わたしの移住歳時記』より「錦鯉」

  大勢の観光客がしきりにシャッターを切っている。「何を撮っているんだろう」と手元を覗くと、まるで絨毯を広げたかのような色とりどりのニシキゴイが無数に集まっている。「なーんだ、ニシキゴイか」とがっかりして通りすぎつつ、思い返す。初めて栗林公園のニシキゴイを見た時、カメラを向けずにはいられなかったことを。「当たり前」ができるとは、なんと贅沢で散慢なことか。

  栗林公園には七〇〇匹以上のニシキゴイがいるそうだ(二〇二〇年時点)。コイヘルベスの流行に伴う病死や殺処分によっていなくなってしまった時期もあったらしいが、寄付金の募集やふるさと納税制度の活用で集まったお金を利用し、以前を上回る数のコイが戻ってきたのだという。

  赤、黄、白、黒、色も模様も様々なコイたちが思い思いに泳ぎ、目を楽しませてくれる。人の姿を見付けると、パクパクロを動かしながら近付いてくる。おねだりすれば人間が食べ物をくれると知っているからだ。売店で餌を購入すれば、コイとの触れ合い(?)も楽しめる。

影を食べられそう!?
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  ところで、冬から春にかけてはコイの餌やりが禁止されている。水温の低い時期に餌を食べすぎると消化不良から内臓障害を起こすことがあるらしい。だから、餌の量が管理事務所によって調整され、園内の餌販売も売店での手売りからカプセルトイ形式へと切り替えられているのだ。毎年寒くなるとお目見えする立て看板で「食事制限」が始まったことを知ると、なんだか同情してしまう。

  ただし、コイの食事制限についてはまだまだ知らない人も多いのではないだろうか。そこには国際化も関係していそうだ。日本語で「売り切れ」の貼り紙がされたカプセルトイの近くの池で、外国人観光客の家族連れが楽しそうにコイにバン屑をあげている姿を、公園関係者と思われる方が少し離れたところから見つめている場面に、一度遭遇したことがある。英語で「冬の間はコイに餌をあげてはいけないんですよ」と表現するにはどう言ったらいいか、あれこれ考えながら何も言わずに通り過ぎてしまったことを、今でも忘れられずにいる。

11月の池。奥に集まっている鯉たちは、観光客が餌をくれるのではないかと期待しているのです。
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ZINE『わたしの移住歳時記』が完成しました。

季語をめぐるショートエッセイが60本ほど収録されています。また、これまで発表した俳句をそのところどころに添えています。

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