①ZINE『わたしの移住歳時記』より「扇風機」
香川県の鉄道といえば、「ことでん」こと高松琴平電気鉄道だ。イルカのキャラクター「ことちゃん」を知っている方も多いのではないだろうか。ことでんは琴平線、長尾線、志度線の三つの路線からなり、特に琴平線は、高松築港から金比羅さんのある琴電琴平を結ぶ主要路線として利用客が多い。
しかし、地方の鉄道会社が軒並みそうであるように、経営は不安定のようだ。二〇〇一年には、バブル時代の見通しの甘い経営がたたって当時の運営会社が民事再生法の適用を申請し、一度潰れかけている。それでも廃線にならなかったのは、通勤通学者の利用が多く、わたしのように運転にあまり自身のない人や高齢者などの生活の足としての需要が無視できないからではないかと思う。ただし、引き続き経営難であることに変わりはない。最近では、電車が接近しているにも関わらず踏切が閉まらないなど、冗談では済まない不祥事が立て続けに起き、社長が引責辞任した。何を置いても安全だけは確保してほしいと願うばかりだ。
さて、こんな事情から、ことでん各路線には京浜急行、京王電鉄、名古屋市交通局など他社から譲り受けた中古車両が塗装を変えて走っている。香川県で「第二の人生」を送る車両たちの姿を見に来県する鉄道ファンも多いと聞く。京浜急行というと「飛ばしまくる電車」という印象がある。品川から金沢八景方面ゆきの赤い電車に乗ると、本当に大丈夫なのかと心配になってくるような猛スピードで通過駅に進入するし、逆方向ゆきの電車とすれ違う時は、窓が「ダーン!」と爆音を立てるので、心構えがなければ飛び上がってしまう。せっかちで、長らく湘南の海に親しんでいた京急の車両には、瀬戸内海はどう見えているのだろう。
お下がり車両には扇風機のついているものがある。夏になると、冷房から出た冷たい風を車内全体に行き渡らせるべく、一生懸命稼働している姿を見ることができる。これを「レトロでかわいい」と見るか、「ああ、本当にお金がないんだな」と見るか。夏から秋にかけては「車内が暑い!なんとかして!」、「朝夕は涼しいのに冷房が寒すぎる」といった相反する苦情の投書もあるようで、乗務員さんたちは対応に苦慮しているのではないかと思う(駅に貼り出されている「お客様の声」は、言い掛かりもないではないが、経営難の痛いところを突くシビアなものも多く、怖いもの見たさで時々チェックしてしまう)。
そういえば、東京に暮らしていた頃馴染みのあった東京メトロ千代田線でも、扇風機のついた老獪な車両がえっちらおっちら、やってくることがあった。調べてみると、扇風機つき車両は二〇一八年秋に運用を終え、車両基地に保存されたり、あるものはインドネシアへ譲渡されたりしているそうだ。東京から香川へ、あるいはインドネシアへ。鉄道車両も「移住」することがあるんだと考えると、より身近に感じられる。
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