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桜の妖精 8

結局一睡もできないまま、簡単に身支度を済ませ、桜花からの手紙を握りしめてホテルを出た。
 
暖かな日差しがきつい。
いっそ雨でも降ってしまえばいいのに。
桜花のいないこの町に、もういる意味なんてない。
 
満開の桜を見るために、たくさんの人で溢れている。
人込みから外れ、桜花と最初に話した土手に座り、川の流れを眺めていた。
握りしめていた手紙は、クシャクシャになっていた。
手でしわを伸ばし、ゆっくりと封を開ける。
綺麗に折りたたまれた便箋と、桜をモチーフにした、この町のゆるキャラのシールが入っていた。
「なんだよ、これ」
思わず口元が緩んだ。
こんな時でも笑えるんだな。心の中で冷静に呟く。
 
僕は手紙を読み始めた。
 
智史君へ
もし万が一、約束を果たせなくて、逢えなかった時のために、この手紙を書いています。
智史君に届くことを信じて。
本当はちゃんと再会できて、読まれる前に無事に回収出来ているといいんだけどね(笑)
 
元気ですか?
写真を送ってくれてありがとう。
智史君と過ごした時間は、私の宝物です。
あの時、智史君に出逢ったことで、私は救われました。
智史君に出逢う少し前、体調が悪くて検査を受けたの。
生死に関わる病の可能性があって、すごく動揺していて。
生きる気力を失いかけていたの。
そんな時に智史君に出逢って、とても楽しくて。
こんなに楽しい時間があるのなら、もっともっと生きていたい、後悔しないように、やりたい事は全部やってみよう!この先の人生を楽しもうって思えたの。
これは智史君のおかげ、ありがとう。
だけどね、あの時は、これからどうなっていくのかわからない自分が怖くて、智史君に負担をかけたくない、嫌いにならないでほしい。
そう思って、次に逢う時まで、連絡を取らない事を決めていました。
ごめんね。
病の方は治療を続けているけれど、大丈夫だよ、心配しないでね。
でも、人生明日はどうなるか分からない。
一日一日を大切に過ごそうね!
元気な私で逢いに行けますように。
約束の場所で逢えたら、話したい事がいっぱいあるの。
 
楽しみ♡
桜の妖精 桜花より
 
追伸 そのシール私だと思って大切にしなさい(笑)


(イラスト saku)

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