桜の妖精 3
「ねぇ、まだ時間ある?もう少し話さない?」
彼女の誘いに僕は頷いた。
土手に座り、しばらく無言で景色を眺めていた。
何をどう切り出していいのかわからずにいると、彼女が口を開いた。
「どこから来たの?」
「東京」
「そうなんだ・・・私、まだ行ったことないんだよね、東京」
「そんなに変わらないよ。ここも素敵なところだね」
「ありがとう。私、この町が好きなの。特に桜の咲く、この季節が」
彼女の隣で、僕はゆっくりと頷いた。
「いつか東京においでよ!その時は、僕が案内するよ」
「本当に!ありがとう。楽しみができた」
無邪気に笑う彼女が、とても可愛らしかった。
「ねぇ、名前聞いても良い?僕は鈴木智史」
「私、桜の花って書いて桜花(おうか)って言うの。安藤桜花」
「桜花・・・君にピッタリな名前だね」
僕がそう言うと、彼女は不意に立ち上がり、
「でしょう?」
と振り返って微笑んだ。
それから、僕達は他愛のない話をしながら桜の道を歩き続けた。
彼女は僕よりも二つ年上で、会社員だという事。
休日には、この土手沿いを散歩するのが日課だという事。
好きな食べ物や学生時代の話。
ずっと笑顔で話し続ける彼女を、時折相槌を打ちながら眺めていた。
「後悔しないように、やりたい事は全部やってみるの」
彼女の言葉が、僕の心に響いた。
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