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市民革命とともに生きた作曲家、ベートーヴェンを聴く  ための日 #17

今日にぴったりな、今日のための音楽を紹介

L.v.ベートーヴェン(1770–1827)/  交響曲第3番 変ホ長調『英雄』

先日、2012年に公開された映画『レ・ミゼラブル』を観た(今更!)内容は知っていたしミュージカルでも見たこたがあったので、なんとなく話題作だったけれどスルーしていた。しかし、すごく、ものすごく、良かった。フランス革命(1789–1799)の起こったすこし後の時代で、革命期を生きたパリ市民の社会情勢や生活ぶりが描かれたストーリーは、いまこの時代に生きている意味について深く考えさせられた。わたしたちは、パンひとつを食べるために一日中仕事を探し続けていたり、権利を求めて仲間とともに死を覚悟で戦うことはできるのだろうか?
ラクして生きてるなあ、と思ってしまう。革命は、また起こるのだろうか?

市民革命とともに生きた作曲家、ベートーヴェンを聴こう

ドイツ、ボンで生まれたベートーヴェンは、ハイドンの弟子となりウィーンで音楽活動を始める。宮廷や貴族たちのためにつくる音楽から、大衆向けの音楽へと移行していった初の”職業音楽家”としても有名な彼。それはこの権利を得ようと戦った革命期だからこそ生まれたものである。
そしてフランス革命の英雄といえば、ナポレオン。この交響曲第3番はナポレオンを讃える曲として作曲した。しかし完成直後にナポレオンが皇帝に即位したことを知ったベートーヴェンは激怒して彼への献辞を破り捨てた、という逸話がある。

しかしこの曲は、いわゆる英雄を描いた標題音楽ではない。直訳するとsinfonia eroicaで「英雄的な交響曲」となる。そのため彼の他の交響曲で標題のある、交響曲第6番『田園』とはまた違った意味を持つ。(聴いてみると、ああ、なるほどなとなるかもしれない)

革命が起こった頃、それまで平凡に暮らしていて特別に訓練などもしていなかった市民たちをまとめるために、軍歌やブラスバンドのような大勢が参加できて遠くまで聞こえるような音楽が流行った。ベートーヴェンの力強いメッセージ性、そして有名な第九の合唱も、たくさんの戦いの中から生まれたものだ。彼がもし革命のない時代に生まれていたとしたら、きっといまある交響曲たちはなかったはずである。

なんてことを思いながら音楽を聞いてみるのもなんだか楽しくなる。そしてわたしはいつも思うことがある。どの時代の音楽を演奏するときも、もちろんその時代背景を理解することは大切だが、それよりも今生きている時代の感性を取り入れて表現するべきだと思う。それが表現するものたちの使命であって、クラシック音楽のおもしろさである、と信じている。
(パンが買えずに権利を求めて血を流して死んでいく痛みや辛さを、わたしたちは知らない)


『レ・ミゼラブル』からここまで思想を膨らましてしまった。きっとまたすぐに観よう。
そういえば今年はベートーヴェン生誕250年のアニバーサリーイヤーである。こんな世界情勢なのでアニバーサリーの演奏会はほとんどが中止になっているけれど、年末の第九は、街中で盛大に流れるといいなあ、と願う。


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