Past Chapter "Mess" 【ジョンウィック二次創作】

※「ジョンウィック:コンセクエンス」の二次創作です。未視聴の方はご注意ください。



「ニホンのラーメンと本場の拉麺の違いを知っているか? コウジ」
 水餃子を口に運びながら、サングラスをかけたスーツ姿の男は問いかけた。チャイナタウンの路地、埃の匂いが少し漂う中華料理屋にいる彼、いや”彼ら”は、周囲のネオンに満ちた風景からは少し浮いているように見える。
 小さい円卓を囲うように座る三人は明らかに異質であった。サングラスの男は中国人のような顔つきで、彼の椅子の背もたれに立てかけるように杖を置いていた。
「……日本のラーメンは麺を伸ばさない」
 コウジと呼ばれた男が回鍋肉をつまみながら淡々と答えた。サングラス男の向かいに座るコウジは、彼と相対するように和服を着こなしている。体つきは大きいが見た目からも日本人であることが容易に分かる。和服の襟元にはヤクザ映画のようにシルクのスカーフを覗かせ、腰もとには時代劇さながらに長い刀の鞘を吊るしていた。
「なんだよ、知ってるのか。なぜ伸ばさない? 拉麵の『拉』は伸ばすって意味だぞ、一言で矛盾してる」
「日本のラーメンは独自で進化したものだ。それとは既に別の食べ物だと思え」
「おいおい、餃子まで焼いた上にラーメンまで別のものにするのかニホンは? 拉麺は本場の方が美味いだろ」
「優劣の問題ではない。それぞれに魅力があるんだ、ケイン」
「『一長一短』ってやつか。ニホンは何でも美徳にしたがる。けど言わせてもらえば実際は――」
「点心、お待たせね」
 二人の議論が白熱しそうになったが、店員が円卓に蒸籠を置いたことによって中断された。サングラス男、ケインは咳ばらいをひとつして、円テーブルをわざとらしく強めに回した。
「なぁ、お前はどう思うんだ。ジョン」
 ケインは箸を向けながら、左隣に座る男に声をかけた。その問いに、彼は、ジョン・ウィックは何も答えることは無かった。彼は円テーブルが回る様子をじっと眺めていた。
「……」
 円テーブルはやがてゆっくりと動きを緩める。その様子をチャイナ服の店員は若干不思議そうに眺めていた。ゆっくりゆっくりと。そして蒸籠がジョンの前で止まる――その瞬間、ジョンは蒸籠を店員の顔目掛けて一気に投げこんだ。
「哇!(うわっ)」
 店員は思わず両手でガードをする。その片手には、運んできたお盆の裏に隠し持っていた拳銃が握られていた。その怯んだ隙を逃さず、ジョンは店員の足に自身の足をひっかけてよろめかせる。そして後ろへ倒れこむのと同時に、手元の箸を掴んで店員の首元へ刺し込んだ。
 店員の転倒音をきっかけに、周りで食事をしていた客が一斉に立ち上がり三人に向けて拳銃を向けてきた。それより早く、蒸籠を投げ込むと同時にケインとコウジは立ち上がっていた。ケインは胸ポケットから拳銃を取り出し、一発ずつ器用に敵へ打ち込んでいく。コウジは円卓の上に飛び上がり、鞘から日本刀を抜いて高くジャンプをした。そしてこちらへ向かって来る敵の二人の腕と胴に向けて一太刀を食らわせた。
「ぐぅう!!」
「うわぁあ!」
 悲鳴と銃声が店内に響き渡る。雄たけびを上げながらジョンの背中に向かって一人襲い掛かってきた。ジョンは後ろから首絞めのようにホールドされたが、すぐさま肘鉄を食らわせる。そして振り返り、腕を掴むとそのまま一回転宙に浮かせて地面に叩きつけた。そして腰から拳銃を素早く抜き、脳天に向けて二発撃ち込む。そして横目で二人の様子を一瞬伺う。
「コウジ、後ろだ!」
 ジョンが叫ぶと、コウジはすぐに振り返る。そこにはすでに敵が間近に迫ってきていた。コウジは半身で構えなおすが敵はそのままタックルの形でぶつかってきた。しかし、コウジは片手で持っていた日本刀を手放し、敵の肩に添えるように触れた。
「ふん!」
 そして、タックルのスピードを利用したまま背中から担ぎ合気道の形で敵を投げ飛ばした。敵は悲鳴を上げながら近くにあった銅鑼へぶち当たり、銅鑼の音が鳴り響いた。
「这里是铜锣湾吗?(ここは香港か?)」
 ケインは倒された円卓の裏でマガジンを入れ替えながら呟いた。円卓には容赦なく弾が撃ち込まれていく。その弾幕が途切れる一瞬を狙って、ケインは円卓の横から体を少し出し、杖を支点にして銃を構え、敵を撃つ。肩を撃たれた敵の一人が少しよろめいたが、また銃を構えて狙おうとした所へ、閃光に似た日本刀が容赦なく体へ切り込んでいった。コウジはそのまま侍のように敵をなぎ倒して進んでいく。だが部屋の曲がり角に潜んでいた敵がコウジへ向けて銃を構えていた。そしてその引き金を引いた瞬間、射線を遮るようにスーツの裾を掴んで広げたジョンが現れた。防弾スーツで弾をはじくと、ジョンはすかさず銃を敵に向けた。
「可恶!」
 敵は後ろへ倒れ込みながら下から上へといった形でジョンの腕を蹴り上げた。ジョンの手から拳銃がはじかれる。そして敵がそのまま一回転して立ち上がると、数発素早い空手をジョンの腹へ打ち込む。なんとか耐えたジョンだが、ガードするので精一杯だった。
「受け取れ!」
 その様子を見ていたケインが自身の杖をジョンへ向かって投げ込んだ。敵が回し蹴りのモーションに入ったのと同じタイミングでジョンが片手でそれを受け取った。そして蹴りを繰り出した足を杖で防ぐ。バランスを崩した敵がなおも態勢を整えようとしたが、ジョンの攻撃が早く、杖をそのままバットのようにかざし、しっかりと振り下ろした。
 バキッと鈍い音を最後に、銃声と悲鳴はやんだ。
 コウジは日本刀についた血をぴっと振り落とし、鞘にゆっくりと収めた。ジョンは杖を持ち、ケインへ無言で渡した。無表情で渡してくるジョンを見て、軽く二やつきながらケインは杖を受け取る。
「それで――」
 ケインは胸ポケットに拳銃を戻しながら二人に話しかける。
「誰の友達だ?」
「私ではない」
「……俺じゃない」
「そうか。なら俺でもない。俺らが狙っているターゲットの手下か。散々な食事だった」
 三人は瓦礫と死体の山を避けるように店の外へ出た。外の様子は特に変わりなく、今しがた店内で殺戮が繰り広げられていたなど知る由もないようだ。
「それじゃあお互いの仕事へ戻ろう。偶然飯が食えてよかった」
「ああ」
「……」
 三人はお互いの顔を見るとすぐに振り返り、それぞれ別方向へ歩き出そうとした。
「俺は」
 その瞬間、ジョンが急に話し出した。ケインとコウジは不思議そうにジョンの方を見返した。ジョンは背中を向けたまま、たった一言だけ。

「日本のラーメンの方が好きだ」

 そう言い残してまた歩き出した。ケインはふうんと納得したように頷くと、コウジに『俺の負けのようだ』と手話を残して歩き出した。コウジは歩き出した二人の背中を見つめながらそっと呟いた。
「やはり良いものだな、友というのは」
 そして、彼もまたその場を後にしたのだった。

Fin


映画観てずっと妄想していた話です。ケインとコウジのキャラクターが良すぎて、過去編は仲良く三人で共闘とかしてたのかなと思い、公式が過去編作る前に書きました。続きも一応あります。勢いだけで書いたので文が荒れ気味です。

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