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#80 朝令暮改は果たして悪なのか?

~人は常に2年以内に起こる変化を過大評価し,10年間で起こる変化を過小評価する(ビル・ゲイツ)~

経営者が優柔不断で方針が定まらず常に意見が変わる,いわゆる「朝令暮改」では組織としてのベクトルが定まらず,経営は混沌の渦に巻き込まれてしまいます。しかしながら,先行きを見通すことが困難でVUCAの時代ともいわれる昨今,果たして方針や戦略を変えることは良くないことなのでしょうか。このような状況下では,柔難に戦略を変更することも重要な経営マネジメントとなってくるでしょう。

それでは,良くない「朝令暮改」と有効な「戦略変更」の違いは何なのか,筆者はこれを「枠と軸」で捉えています。つまりフレームワークなどツールとしての戦略は「枠」であり,環境変化においてもぶれない経営目的や経営理念が「軸」だと説明できます。最近,パーパス経営という考え方が注目を集めていますが,これも経営における「軸」の重要性という観点から捉えることもできるでしょう。そして「枠」を柔軟に変更するには,定石や理論にとらわれない直感的な一種のアート感覚が求められます。そういう意味では現代の経営者には,右脳と左脳の両方を働かせて意思決定することが求められていると言えます。

ところで,戦略の「軸」とは何なのでしょうか。それは理念やビジョン,目的やパーパスに至るまでの道のりが,ストーリーあるいはナラティブとしてつながって表現されている「シナリオ」だと捉えることができます。そしてそのシナリオは,不確定要素を含み可変可能な,柔軟性を備えたものでなければなりません。

ちょうどそれは,航海に出る際に用意する海図にも似ているでしょう。航海中には嵐もあるし大波もある,船内で病気が蔓延するかもしれないし,海賊に襲われるかもしれない,様々な予測不能な事態が発生するでしょう。それでも,その時に最良最適の判断を行い,計画を修正し,海図をもとに目的地へ向かうのです。ラルフ・W・エマソンはその著書 "Self-Reliance":自己信頼の中で,「どのようにジグザクに進んだとしても,最終的には目的地にたどり着くという自己信頼が大切だ」と言っています。

これからの時代は,一度決めたものは「初心貫徹」しないといけないという誤った強迫観念や,意見をコロコロ帰るのは男らしくないといった無意味ななバイアスを払拭し,変化を受け入れる覚悟を持つことが必要です。長期的な視座に立ってシナリオを描いたならば,それをぶれない「軸」として固持しつつ,短期的な変化には柔軟に対応してツールとしての「枠」は変更する。このような強さとしなやかさを備えた意思決定の態度が,これからのパラダイムを生き抜く経営戦略には必要になってくるのではないでしょうか。

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正しいことより「適切なこと」に重きをおく,プラグマティックな実践主義コンサルタントです。経営の鬼門はヒトとカネ,理屈ではなく現実を好転させることをモットーとしています。 お問い合わせは,https://prop-fc.com/mail/mail.html