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生徒指導という名の免罪符

今日は四年目教員の研修として
研究授業と協議を、教科会全員でやる日だった。
それなのに。
一人の先生が、授業が始まっても、教室へ来ない。
十分ほどしてからあわててやってきて
授業の途中も何度か出たり入ったり。
 
教科担当は全部で七人。
一人が四年目で、この研修の授業者。
指導主事からの指導案への助言を受け
今日がその本番。
うちの教科は若い教員が多く
二年目の教員や
先ごろ採用試験の二次試験を受けて
結果待ちの常勤講師の先生もいて
特にこの先生は今後の進展に影響するから
授業者以上に緊張していた。
そういう事情をも考慮して
先週の教科会では皆で指導案を検討吟味したし
校内体制として
授業者の授業を教科も皆が参加できるよう
教務に時間割を調整してもらったりと
時間と手間を相当割いて準備していた。
 
それなのに。
急な生徒指導のあおりをくらって
協議の時間に代行授業が入ってしまった。
ベテランのその先生の協議での発言を
ぼくも他の先生たちも楽しみにしていたし
その先生自身も
協議に出たかったに違いないのに。
 
授業前の休み時間に
職員室がざわざわしていたので
なにかあったのだなと、思ってはいたが
内容を聞くと自転車通学の指導だとか。
生徒指導部の教員が指導に当たり
その教員の授業ができないので
穴埋めとして、だれかが
授業をしなくてはならなくなったのだ。
 
補導の事案には
授業を変更してまで
急な対応をしなくてはならない場合もある。
指導する内容にもよるが
対応が遅れて取り返しのつかないことに
なってしまう可能性だってある。
たいていの場合、はやめに対応する方が
かける労力は少なくて済む。
今日から試験一週間前で部活もないから
さっさと終わらせて
放課後ゆっくりしたいのもわかる。
 
それにしても。
チャリ通。たかがチャリ通ではないか。
 
今日の研究授業と協議は
もともとその先生は予定していたことだし
時間割を確認してみたが
ほかにだれも代行授業ができない
というわけでもなさそうなのに。
 
うちの学校はなんでも生徒指導が最優先。
 
授業者にも教科会にも
なぜその先生が協議に出られないのか
生徒指導部からの説明は一切なかった。
自分たちだけで
学校が回っていると思っているなら
とんでもないおごりだ。
 
生徒指導や補導の分掌に
わかいころは中心的に関わっていた。
こわもての指導で生徒を力で押さえつける。
生徒はおとなしくするから、
自分には指導力があると、おおいに勘違いする。
卒業式は、中学校生活のしめくくり。
教師にとっては
三年間の指導の成果が、花開く日。
受験も終わって、卒業式を目前にひかえた生徒が
髪を染めて登校してくる。
裏切られた、などと
これまた勘違いをかさねてしまう。
実際には指導が入っていたわけじゃない。
怒られるのが怖くて
高校進学にひびかないように
言うことを聞くふりをしていただけなのに。
そんなことにも気付かないまま、落ちこみ傷つく。
そんな教員は、いまだにけっこういる。
かつての自分も、そんな一人だった。
 
生徒指導や補導は
中学校がブラックな職場になる原因の一つだ。
問題行動を起こす生徒もその保護者も
教師の勤務時間など考慮してくれない。
いまさらそんなことは言うまでもないことだが
生徒指導というとなんでも通る
そんな空気は学校現場ではいまだに支配的だ。
 
生指主任をしていたときに
生徒指導の指導主事あがりの管理職から
補導屋にはなるなよ、と言われた。
何か問題があったら呼びつけられる
補導処理の便利屋。
授業も担任業務も放免される代わりに
そんなことが常態化すると
本来の教師としての成長は
間違いなく阻害される。
「生徒指導ができる教師」は
実際は「補導処理ばかりしている教師」で
そのうちに
「なにもできない教師」に成り下がる。
このままではまずいと自覚しはじめたとき
たまたまある事情で生徒指導の畑から退いた。
結果として、遅まきながら、
業務の大半を学習指導のために割けるようになり
「なにもできない教師」にならないように
若いころの時間を取り戻す努力をしている。
 
中学校でながく続いてきた父性的な指導が
容認されなくなってきたこのごろ。
怒鳴る、ほどでもない、声を多少荒げるだけでも
ここ数年の生徒たちは
あきらかに拒否反応を示すようになってきている。
といってもそれは
かつて校内暴力が吹き荒れていた
八〇年代の中学生とはまるきり違う。
理不尽な言動をする教師に対しは
生徒たちはそれらの行為に
正面からあらがったりはしない。
冷ややかに、相手にしない、という反応を返す。
保護者のカスハラは一定数存在するが
これから数は減っていくように思う。
みずからをアップデートできない
旧態依然とした教員は
生徒からも保護者からも
相手にされなくなるだけだ。
教育者としてのリスクマネジメントに長け
コミュニケーションスタイルに秀でた若手の教員に
ますます業務が集中する。
まさに、年寄りの尻ふき役。
そんな教師に、だれがなりたいか。

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