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プラ容器が変形したら食べないほうがいいでしょうか?二分する回答に化学的な原理を添えて

今回はプラ容器関連でもう一つ気になっていた内容だ。次の質問は調べていく上で良く目にした。
「電子レンジでプラ容器、あるいはラップが溶けてしまいました。それに触れた食品は食べても大丈夫でしょうか?」
これには回答が二分されている。

・プラ容器が溶けてしまっても食品は食べても大丈夫です。
・プラ容器が溶けると有毒な成分も溶け出していて食べてはいけません。

私がさらに調べ、この回答に、プラ容器が溶ける状態についての化学的アプローチを添えてみたらより回答が明快になったので記すことにした。今回のキーワードは、融点・耐熱温度と燃焼である。

食品向けプラ容器の熱可塑性という性質

前回までの記事で、あえて詳細に触れなかった熱可塑性(ねつかそせい)という性質がこの疑問を回答するのに役に立つ。
熱可塑性(ねつかそせい)とは、熱を加えると溶けるものを指す。食品用のプラ容器やラップはすべて熱可塑性プラスチックだった。
この熱可塑性(ねつかそせい)だからこそ、様々な形状のプラ容器が製造できるのである。
そして、電子レンジなどで加熱しすぎると形状が変化する、つまり溶けることになる。

耐熱温度と融点は同じ溶ける温度を指す言葉

電子レンジでこれらプラ容器が溶けたということは、固体が液体に溶ける温度、すなわち融点に達したということである。各材質の融点と耐熱温度は以下表にまとめた。

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一つ疑問に思うのは、プラ容器やラップの製品パッケージには、融点ではなく「耐熱温度」と書かれていて、融点よりも低いということである。
この耐熱温度とは、「継続して使用できる温度」のことである。
要するに、熱可塑性(ねつかそせい)プラ容器が、溶けずに形状を保てる温度ということだ。
融点に達したら即座に溶けてしまうのだが、耐熱温度は何秒か耐えたのち溶けていくということで、溶ける温度という意味ではどちらも同じであると考えている。
残念ながら、何分耐えられるのかという耐熱温度の定義は1つに決められておらず、メーカ側に謳い方は委ねられているため温度表記はまちまちである。

溶けただけでは有毒とは言い難いと考える

融点に達すると溶けるのだが、溶ける状態をもう少し化学的なアプローチで理解しよう。以下の構造式を見てもらいたい。構造式とはプラスチックを構成する原子の結びつきが見えるまで拡大したもの、と思ってもらえたらわかりやすいと思う。

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C:炭素
H:水素
Cl:塩素
m、n:個数(1、2、3、・・・)

代表した二つのプラスチックは、分子レベルまで拡大すると炭素と水素と塩素の組み合わせでできていることを表していて、一つの決まった組み合わせがm個あるいはn個つながっていると思っていただきたい。
説明用に構造式をそのまま使ったラフな図で申し訳ないが、これらプラスチックが溶ける前はガッチリ固定されているが、溶けたときはこの結びつきが緩くなり割と自由に動ける状態である。このとき、構成そのものが崩れることはない。

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構成がそのままであるならば、普段無害な食品用プラスチックが溶けて形状が変わっただけなので、有害になることは考えにくい。氷は無害だし、溶けた水は有害になるわけではないことに近いニュアンスがある。

※なぜ温度が上がると分子同士の結びつきが緩くなるかは、熱エネルギーと分子運動というような化学理論を深堀する必要があるのでここでは割愛いたします。

有毒という回答になったと思われる理由

溶けたら有害だという回答を調べていると、耐熱温度を超えたから溶けて有毒な物質も溶けだしている、と主張がされているものが多い。

先ほど述べたように耐熱温度は分子の構成そのものを崩すほど熱を与えていない。もしプラ容器から有毒な物質が発生することがあるとしたら、塩素を含むプラスチックが燃焼した時にダイオキシンが発生する現象のことだろう。

燃焼とダイオキシンの発生の関係

燃焼は、融点よりもさらに高い温度である「引火点」に達した時に、燃焼に必要な3つの要素「熱、酸素、可燃物」が揃うと発生する現象である。
燃焼は分子同士のつながりを切るだけの大きなエネルギーが働く現象だ。燃えた後、焦げた箇所は黒い塊が残ると思うが、あれは燃える前の物質に含まれるC:炭素だけが残ったと考えてもらうとわかりやすいと思う。

ダイオキシンは発がん性物質と評価されていてとても有毒な物質だ。
これは300℃~400℃程度の燃焼するには低温、いわゆる不完全燃焼した場合に発生すると言われている。

ダイオキシン類の分子構造はこちら。六角形のベンゼン環はすべてC:炭素で構成されていると考えてほしい。

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特徴的なのはCl:塩素。プラスチックの引火点は300℃程度のものが多い。そのため、ポリ塩化ビニリデン(PVCD)のような塩素が含まれるプラスチックが家庭で燃えてしまうと、ダイオキシンを構成する塩素と不完全燃焼する温度が揃ってしまっている。
もし、塩素が含まれるプラスチックを電子レンジから煙が出るほど加熱してしまったとか、コンロの火で焦げてしまったとかなどは燃焼したと考えられる。
燃焼していればダイオキシンのような有毒な物質が発生している恐れがあるので食べないほうがいい、という回答になると考えられる。

まとめますと

1、温度が高くなりプラスチックが溶けるのは熱可塑性(ねつかそせい)という性質による
2、溶ける温度は融点または耐熱温度で示されている
3、溶けただけでは分子の構造は変わらないため有害物質は発生していないと考えられる
4、燃焼すると分子の構造が変わることになる
5、塩素が含まれるプラスチックが家庭で不完全燃焼してしまうとダイオキシンのような有毒な物質が発生すると考えられる

調べた結果、プラスチックが溶けただけでは、それに触れた食品が有毒な物質を含んでしまうとは考えにくい、という回答が有力と考えた。
プラ容器が溶けるといった異常な状態を目の当たりにすると不安になる気持ちもよくわかる。ただ安全ですという回答では私自身は満足できなかったのでもう少し化学的にアプローチをしてみた次第である。

プラ容器が電子レンジで溶けるという一つの現象から、今回のようにいくつかの記事にするほど広がった事例は今回が初だった。他の身の回りの現象についても、その原理を踏まえて少しでも理解を深めていけるような内容にしていきたいと思う。

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