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学び続ける組織をつくるには、「学習観」と「評価システム」をすり合わせる:ドラゴンボール、キングダム、ワンピースの違い

"学習"とは何か?"学ぶ"とはどういうことか?

この問いは非常にシンプルに見えますが、実際にはその答えは多種多様です。学習の定義は、個人の年齢や職業、これまでの人生経験、価値観などによって大きく異なります。この記事では、あらためて「学習観」の違いについて探り、組織づくりや評価制度との関連について考察します。

なお、この記事は以下のVoicyで音声解説していますので、ぜひあわせてご視聴ください。

人によって、"学習"の捉え方は異なる

「リスキリング」といった言葉が示すように、現代では学びは「新しい知識やスキルを身につけること」として広く認識されています。しかし、この100年間の学習論の研究史を振り返ると、学習はもっと広く、豊かなプロセスとして捉えられてきました。歴史については、以下の記事で詳述しています。

ある人は「学び」を、学校の教室での授業や試験で測られるものとして理解しているかもしれません。一方で、他の人は新しいプロジェクトに挑戦したり、新しいスキルを実践的に習得することが「学び」であると感じているかもしれません。たとえその人が自分を「勉強が苦手」と称していても、実際には日常的に多くのことを学び続けている、ということはよくあります。

個人レベルではこのような学習観はバラバラで、それもひとつの個性としておけばよいのですが、組織づくりの観点でいえば、組織の学習観をある程度統一して、理念やカルチャーと一致させていくことが重要です。

学習観の違いは、評価システムによく現れる

特に学習観の特徴は、その評価のシステムによく現れますから、経営理念⇄学習観⇄組織文化⇄人事制度に一貫性があるかどうかが重要です。要するに大事にしていることとシステムが噛み合っているかどうか、です。

組織における文化と構造の整合性の重要性については、以下の記事でも解説しています。

組織が大切にする学習観に対応した評価システムになっていないと、学び続ける組織はデザインできません。逆にいえば、どんな評価システムが構築されているかによって、自然と環境における学習の動機は方向付けられます。

学習観と評価システムの結びつきについて考える上で、バトル系の少年漫画の世界観の違いが参考になります。

少年漫画によって学習観とその評価システムは大きく異なる

①ザ・個人能力主義:『ドラゴンボール』

例えば、『ドラゴンボール』では個人の「戦闘力」が客観的なスコアで測定されます。高める方法はとにもかくにも「修行」です。

戦闘力1万のキャラが2名で共闘しても、その相性の良さや連携によって集団戦闘力が3万になったりはしませんし、たまたまベジータの尻尾を運良く切り落としたとしても「実績」によって評価は変わりません。

あくまで、強さとは、個人に内在する数値化可能な能力であると考えるのが『ドラゴンボール』の世界観です。

②率いることができる兵数が指標:『キングダム』

一方、『キングダム』では、何人の兵を率いているか、リーダーとして統率可能な「組織のサイズ」が主な評価軸になっています。

百人将から始まった主人公の信が、数千人将を経て、いまは数万の軍勢を率いる将軍になっています。人数を増やすにはとにかく戦争で武功をあげて、良いマネージャーを採用して、練兵のキャパを上げていくしかありません。実際に、『キングダム』では孤独に剣を振るって修行するようなシーンはほとんど描かれず、育成や練兵の重要性が強調されています。

いうなれば、10人のスタートアップCEOより1万人の大企業社長のほうが偉くて強い、みたいな価値観といえるでしょう。実際に、数名のスモールチームをマネジメントできるリーダーよりも、数十名の部門をマネジメントできるリーダーのほうが評価が高い、というのは多くの会社で一般的かと思います。『キングダム』がベンチャー経営者やビジネスパーソンに愛される理由もなんとなくわかります。

③強さよりも社会的影響力:『ワンピース』

『ワンピース』では個人の「強さ」もそれなりに重要な変数で描かれますが、それだけでなく「海における危険性」や「影響力」などが総合的に判断されて、「懸賞金」が社会的に決定される点です。

それゆえ、実力がアップしていなくても、事件を起こして目立ったり、強い仲間を引き入れて存在感を強めたりすることで、「懸賞金」が跳ね上がることがあります。逆にいえば、いくら修行しても、社会に働きかけない限りは懸賞金は上がりません。

他方で、個人に付与される懸賞金は、個人の力量だけでなく所属海賊団の評価と相互作用的に決まるので、「ヤバい海賊団」に所属していれば、たとえ実力が弱いままでも懸賞金はあがっていきます。船長が事件を起こして知名度があがったり存在感が強まれば、自然と仲間のレピュテーションも高まるからです。

あくまで社会的な評価という意味で、SNSのフォロワー数や出版した著書の売上部数などにも似ているといえるかもしれません。強くて地味な格闘家よりも、ブレイキングダウンの選手のほうがSNSフォロワー数が多かったりするのと同様ですね。

大切にしたい学びに合った評価システムをつくる

このように、学習観と評価システムは深く結びついていて、この世界観はプレイヤーのモチベーションや学習スタイルに直結します。

もし信が『ドラゴンボール』の世界に生きていたら、練兵よりも自分自身の修行に専念するでしょうし、もし悟空の仲間たちが『ワンピース』の世界にいたら、「精神と時の部屋」に籠る機会は減るかもしれません。どんな学びを"望ましい成長"として捉えるかによって、適切な評価システムは変わるのです。

上記は漫画なので極端な例ですが、自身の組織の学習観と評価システムを見つめ直すきっかけとして、参考にしてみてください。

このような組織づくりに関する考え方は、2024年内に出版予定の新刊『冒険する組織のつくりかた(仮)』で体系的に解説する予定です。

出版に向けて、Voicyチャンネル「安斎勇樹の冒険のヒント」では組織づくりや探究に関する知見を日々コツコツ発信しています。ほぼ毎日、毎朝7時頃に発信しておりますので、よければアプリでフォローしてお聞きください。


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