ミミクリアート部

アートはビジネスに活用可能か?:アート思考に関する研究動向

八重樫文先生(立命館大学)らの共著論文「ビジネスにおけるアートの活用に関する研究動向」(八重樫文・後藤智・重本祐樹・安藤拓生(2019)立命館経営学 第58巻第4号)を読みました。# 八重樫先生は安斎の出身研究室の兄弟子にあたり、大学院生時代から大変お世話になっています

ビジネスにおける「アート思考の活用」はホットトピックであり、関心の多い方もいらっしゃるのではないでしょうか。

本論文は、Journal of Business Research, Volume 85(April 2018)の特集“The arts as sources of value creation for business: theory, research, and practice”の中で実証研究を扱った論文20本についてレビューし、ビジネスにおけるアートの活用に関する研究動向について、以下の3つの潮流にまとめています。

1.マーケティングにおけるアート活用
2.組織開発におけるアート活用
3.創造性とイノベーション創出のためのアート活用

1.マーケティングにおけるアート活用

マーケティングやブランド活動において、アートの活用がどのような効果を持つのかを検証した研究群です。高級ブランドのアーティストコラボレーションや、広告へのアート活用などの研究が象徴的です。

Ex)アートと高級ブランドのつながりを定性的に分析し、関係性を探索した研究 → アートはブランドの特別性、希少性、神秘性を強く引き上げるが、商業化によってそれらを減退させるパラドックスを抱えていることを指摘
Ex)ブランドを文化的遺産・相続財産として再定義する枠組みから、ブランドミュージアムの持つ価値を検討した研究
Ex)広告にアートを挿入することで、製品の認知的価値はどのように変わるかを調査した研究 → アート挿入効果は、快楽的製品よりも実用的製品においてより効果的
Ex)高級志向型の消費者が、高級ブランドのアートの戦略的活用にどのような反応しているか、理論的に構築し仮説を検証した研究 → ルイ・ヴィトンを対象に調査した結果、アートの戦略的活用がブランドに対する感情的結びつきを生み出していたことを確認

2.組織開発におけるアート活用

アートの考え方を企業組織に取り入れることで組織に学習や変化を引き起こす介入を「アーティスティック・インターベンション」と呼びます。このカテゴリでは、音楽やダンスなどのアーティスティック・インターベンションが、人材開発や組織開発にどのような効果を持つかが検証されています。

Ex)アーティスティック・インターベンションによって、組織における「意味ある仕事」に従事したいという人間的な欲求を満たすことができるかどうかを探索した研究
Ex)アートを用いた新たな教育学モデルを使用し、複雑性が高く変化が速い現代社会におけるコンフリクトの解消や問題解決における効果的な方法を開発した研究(音楽系のワークショップ実践)
Ex)即興演劇が組織の創造性をどのように刺激するかを明らかにすることを目指した研究
Ex)個人の審美的体験が、チームでのインタラクションとその根底にある集合的な現象にどのようにサポートするか、音楽を使った介入によって検討した研究

3.創造性とイノベーション創出のためのアート活用

最後に、アート活動が人間の創造性や、企業におけるイノベーション創出にどのように貢献するかを検討した研究群です。

Ex)審美的な経験への開放性と芸術に関する経験に対して、直感的なインスピレーションが吹き込まれることによって、個人の創造性が高められることを明らかにした研究
Ex)アーティスティック・インターベンション(ダンスを活用した実践)が、イノベーション・コンピテンス(問う力、観察力、ネットワーク力など)にどのような影響を与えるかを探索した研究
Ex)大学内の施設にアーティストが居住することによる様々なステークホルダーへの効果を検証した研究
Ex)製品のイノベーションプロセスにおいて、アイデアの評価、スクリーニング、コンセプト開発といったファジーフロントエンドへの理解を深めるために、音楽構成理論の観点から検討を試みた研究

デザイン思考とアート思考の相互補完

論文の締めには、デザイン思考とアート思考を対比させながら、安直に「アート思考は、デザイン思考の次に来るもの」として位置付ける発想に警鐘を鳴らし、それぞれの考え方の利点と限界を理解した上で、相互補完的に活用することが提案されており、個人的にも共感しました。

2018年に実施したWORKSHOP DESIGN ACADEMIA(WDA)メンバー限定の研究会において、ゲストにお招きした創造性の認知科学を専門とする岡田猛先生(東京大学)からも『デザイン思考とアート思考とのロマンチックな関係』と題して、示唆的な考察をお話しいただいたことを思い出しました。

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# 岡田先生のプレゼンテーションは、WDA会員の方は動画No.053をご覧ください。

アートを活用した人材育成・組織開発・事業開発の方法論は、まだまだ発展途上で、可能性があると感じます。ミミクリデザインでも、アート・エデュケーターである臼井隆志を筆頭に、効果的なソリューションの開発・実践・研究を推進していきたいと思います。

ちなみにミミクリデザインには「アート部」なるものが存在し、定期的に社内でアート勉強会を実施したり、アート鑑賞活動が積極的に行われています。これも「社内アーティスティック・インターベンション」かも!?
※本記事ヘッダー画像は、以下の活動時のアート部の写真

アートを活用した人材育成・組織開発・事業開発のプロジェクトにご関心のある方は、ぜひお気軽にミミクリデザインまで、ウェブサイトのコンタクトからからお問い合わせください。


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