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採用面談は「候補者へのキャリアカウンセリングの場」と捉えるべき?旧友・伊達洋駆さんとの対談で得られた気づき

昨年のことになりますが、Indeed Japan主催の「キャリア社員が継続活躍できる組織の作り方」というテーマのセミナーで、ビジネスリサーチラボ代表取締役の伊達洋駆さんと対談させていただく機会がありました。

伊達さんとは、実は大学院生時代からの十年来の友人でもあるのですが、こうして外部のイベントでご一緒させていただくのは、この機会が初めて。なんだか感慨深いものがありました。

拙著『問いのデザイン』が「HRアワード2021」最優秀賞に選ばれ、伊達さんがその翌年、『越境学習入門』で「HRアワード2022」最優秀賞を受賞されたこともあり、人事系の話題でまたコラボレーションしたい気持ちが高まっていたところです。

そしてこの『越境学習入門』の副題は、「組織を強くする『冒険人材』の育て方」。まさに私が提唱している「冒険的世界観」の概念との親和性も感じる1冊です。

そこでイベントでは「ほら、伊達さんも『冒険の時代だ』と言っていますよ!」と勝手に援用させていただきつつ、冒険的世界観の話をさせてもらったのですが、これが非常に楽しい時間になりました。

面接に来ている人ですら、多くは「キャリアの軸」がわからない

伊達さんのご専門は採用や組織行動論で、関連する研究知見についてもご紹介いただきながらいろいろお話しいただいたのですが、私の冒険的世界観のメッセージングに乗っかってくれて「採用とオンボーディングを、『冒険的採用』『冒険的オンボーディング』に変えていく必要がある」というディスカッションで盛り上がり、私としても大きな気付きがありました。

以前の記事で「冒険的なキャリアデザイン観」を実現するための「戦略的トラベリング」という考え方について提案したことがあります。キャリアの軸足を形成しながらも、意図的にあるタイミングでその軸をずらすことで、創発的なキャリアステップを踏んでいく考え方です。

しかし、現実には、明確な意志と意図を持って非連続的なキャリアを形成することは容易ではありません。伊達さんによれば、多くの求職者は「自分の仕事のニーズ」を言語化できていないのだそうです。すなわち、すなわち「転職すること」は決意しているのだけれど、自分が具体的にどのようなキャリアを形成したいのか、明確な要望については言語化できないままに転職活動に突入しているということです。これはとても興味深い事象だと感じました。

転職のための採用面接では、当然ながら経歴や強みなど「過去」を確認した上で、これからどうしたいのか、志望動機やキャリアビジョンなどの「未来」について質問が飛んできます。

しかし求職者は、表面的には「こんな仕事ができます」「こんな業務に関心がある」などと答えることはできても、その奥底で、自分は何に興味や関心を持っていて、この会社のどこに惹かれたのか、今後どうなっていきたいのか、といった"冒険の指針"となる部分については、自分でもよくわからないままに、面談に臨んでしまっているというのです。

いま、企業に求められる「冒険的採用」「冒険的オンボーディング」

そして、これに対し伊達さんが「企業は採用面談の場を“採用候補者のキャリア開発の場”と捉える必要がある」と提言されていたのが非常に印象的でした。それが冒険的世界観に必要な採用やオンボーディングの考え方なのではないか、と。

つまり企業は、キャリアコンサルティングやキャリアカウンセリングをするようなつもりで、採用候補者がどういう人生を歩みたいのかを言語化することに、面談の時間を使う必要があるというのです。

これだけ聞くと、「冒険的採用」「冒険的オンボーディング」には、一見すると手間や時間ばかりがかかり、メリットが少ないようにも思われるかもしれません。しかし伊達さんは、対談の中で、「こうしたカウンセリング行動が採用候補者の入社の動機付けに直結する」というエビデンスを紹介してくれました。

また、こうした相手の暗黙的な内面に向き合うコミュニケーションの過程は、「仲間になる」上で必要不可欠なプロセスでもあります。

軍事的世界観においては、基本的に「採用」と「オンボーディング」のプロセスを分け、採用面談を通じてスキルマッチングやジョブマッチングをクリアした人をオンボーディングで仲間にしていく、という考え方をします。しかし、このやり方では、お互いの興味・関心やビジョンを共有した本当の仲間になることができません。

冒険的世界観の組織を実現するためには、採用の段階から仲間になっていくプロセスと捉え、より拡張的にオンボーディングに取り組む必要があるのです。そのためには、採用面談のスタンスや質問の仕方を根本から変えていく必要があります。

また、面談を担当する人事や現場のメンバー自身が、何をしたくてその会社にいるのか、これからどうなっていきたいのか、といった自分の仕事のニーズを言語化し、自己開示できるようになる必要もあります。面談をする側が自分のニーズをわかっていない状態では、相手の価値観やニーズを言語化するような深い質問をすることができませんし、せっかく相手が本質的なことを喋ってくれても、それに気づくことができないためです。

単に質問の仕方を変えただけでは、結局また表層的な採用面談が繰り返され続ける。本質的には、日頃から内省的な職場づくりに取り組む必要がある。そんな話で、おおいに盛り上がったのでした。

研究と実践をどう位置づけるか。アカデミア出身経営者の中でのタイプの違い

伊達さんとの対談を通じて得られたもう1つの気づきは、伊達さんと私の研究者としての微妙なスタンスの違いです。

イベント後には久しぶりに2人でしっぽり飲みに行って振り返りをしたのですが、安斎は、かなり自分の研究テーマ・対象に執着していて、ああしたい、こうしたい、こうすべきだ!と、エゴがあって、強いメッセージで聴衆を扇動しようとしている。

他方で、伊達さんは、企業活動に関するさまざまな領域を研究の対象としながらも、ドライに、研究対象と絶妙な距離をとっている。研究者としての好奇心と主張は持ちながらも、業界の先行研究を概観して、その領域の良さも課題も忖度なく、客観的に伝えるスタンスに徹している。

安斎は元々はワークショップの可能性に魅了された実践者で、自分自身のプログラムデザインやファシリテーションのスキルについて「もっとうまくなりたい」「よりよい技を追い求めたい」という欲求があって、それが研究の原動力になっていた。ワークショップを卒業して以降、自分の実践の変遷に紐づいてテーマが「問いのデザイン」に昇華し、いまはそれが「冒険的世界観の経営モデル」になっています。

一方、伊達さんは、越境学習から採用、組織行動論やマネジメントについて幅広いテーマで著書を書かれていますが、いずれかの領域に強く肩入れすることなく、ニュートラルでいます。最近も「心理的安全性」についての新刊を出版されましたが、「心理的安全性」という概念に軸足を置いて熱心に普及しようとしているのではなく、この概念の限界やダークサイドも含めて客観的に考察されている点が印象的でした。ここにこそ、伊達さんの魅力があるように思います。

二人とも「アカデミア出身の経営者」であり「現在も研究を続けている」点で共通していますが、伊達さんはマルチな研究者として概念群と距離をとり、安斎は実践者として現場に没入し続ける。そんな微妙なスタンスの差が垣間見えて、面白いなと感じたアフタートークでした。

こうした伊達さんの魅力がよく表れていたのが、以前CULTIBASEで配信した以下の『「心理的安全性の誤解」の誤解』という動画コンテンツです。専門家としてフラットに心理的安全性を分析する手腕はまさに伊達さんならではで、非常に好評の神回でした!アーカイブ動画も残っておりますので、気になった方はぜひご視聴ください。


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