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女優・青柳いづみさんとの出会い/アランニット制作日記 3月後編 その1

 今月で最終回を迎える、「アランニット制作日記」。その締めくくりに、「記憶の中のセーター」を実際に着てきた人に話を聞かせてもらうことにする。ふたりめにして、最後に登場してもらうのは、女優の青柳いづみさん(左)だ。

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藤澤 最終回はニットがいいかなと思って、今日はアラン諸島で買ったニットを着てきました。

青柳 アラン諸島って、外国の?

藤澤 そう。アラン諸島に行ったときに買ったやつ。

青柳 これは箔押ししないの?

藤澤 しないの。資料として買ったのでほとんど着てないんですけど、今日久しぶりに着ました。

 青柳いづみさんは、マームとジプシーやチェルフィッチュに出演している女優だ。ゆきさんと青柳さんが初めて接したのは、2016年に東京芸術劇場・プレイハウスで上演された『ロミオとジュリエット』(作・演出=藤田貴大)だ。青柳さんがロミオ役を演じたこの舞台は、大森伃佑子さんが衣装を手掛けていた。その衣装に箔のデザイン装飾を施したのがYUKI FUJISAWAだった。

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藤田貴大(マームとジプシー)演出『ロミオとジュリエット』/2016年

青柳 最初に会ったのは『ロミジュリ』のときだけど、そのときはそんなにしゃべってないよね?

藤澤 そうだったね。大森さんと芸劇で待ち合わせたとき、エスカレーターの上まで香菜さん(マームとジプシーで制作を担当する林香菜さん)が迎えにきてくれたのをおぼえてる。「どうもどうも!」みたいな感じで、すごいフランクな人だと思ってびっくりしたのを憶えてる。

青柳 それで、劇場で会ったのかな?

藤澤 地下にある稽古場みたいなところに案内してもらって。その日は衣装合わせの日で、サイズを測る日だったかも。

青柳 じゃあ、稽古が始まったばかりのときだ。しゃべってないね。

藤澤 うん。そのときは「皆さん、こんにちは」って感じだったし、その後も『ロミジュリ』のときはしゃべってないかも。

青柳 うん、しゃべってないと思う。ゆきさん、第一印象怖いし。

藤澤 うそ、私が?

青柳 すごい年上だと思ってたから。先輩って感じだった。目つきがね、すごい先輩ぽいよ。あとから中高運動部だったと聞いて納得したもん。

 『ロミオとジュリエット』のときはほとんど言葉を交わさなかったふたりに、ふたたび接点が生まれるのは2018年のこと。川上未映子さんの詩を藤田貴大さんが演出し、青柳いづみさんの一人芝居で上演する『みえるわ』という作品が発表されるとき、青柳さんは詩の一篇ごとに異なるデザイナーに衣装を依頼した。そのひとりがゆきさんだった。

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川上未映子×マームとジプシー『みえるわ』より『治療、家の名はコスモス』/2018年

青柳 ちゃんと話をしたのは、『みえるわ』の衣装をお願いして、「一度会ってお話ししましょうか」っていうのが最初なのかな。

藤澤 そうかもね。それまでは衣装の若林(佐知子)さんが取りもってくれたから、若林さんとは連絡とってたけど、いづみちゃんの連絡先は知らなかったもんね。

青柳 先輩の連絡先は自分から聞けないからね。『みえるわ』のときは、自分が着る衣装を自分で決めて、自分で依頼に行くスタイルでした。そこで上演する予定の詩からイメージを膨らませていくなかで、「治療、家の名はコスモス」という詩はゆきさんにしかできないと思ったんです。

藤澤 『ロミジュリ』のときは大森さんがメインだったから、直接依頼してもらえて嬉しかったな。あんまりしゃべる機会はなかったけど、『ロミジュリ』で藤田君の作品をはじめて観てすごく感動したから、「なんで今まで知らなかったんだろう?」って思ったんだよね。名前は聞いてたけど、演劇をほとんど観たことがなくて、劇場に足を運ぶことがほぼほぼなかったから。

青柳 それまで?

藤澤 そう。「知らなくてもったいないことをした」ってぐらい衝撃で、だからもう一回連絡をもらえて嬉しかった。なんだろう、演劇って3次元なんだってことに感動したの。私は布を扱っていて、布は立体にもなるけどかぎりなく平面で、0.何ミリの厚みにあるテクスチャーの表現なんです。でも、演劇は人間が限られた空間におさまっているんだけど、その空間以上の広がりがあるじゃないですか。しかもあんなにシンプルな舞台装置から広がっていくのがすごくて、見えない世界が彩られていく様子にびっくりしたんです。

『みえるわ』では、7篇の詩が上演された。つまり、衣装を手掛けるデザイナーも7人いたのだが、そのひとりひとりに、青柳さんみずから依頼をしていた。そこには「この詩の衣装は、この人に作ってもらわなければ!」という強い信念のようなものがこもっていた。

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川上未映子×マームとジプシー『みえるわ』より『治療、家の名はコスモス』/2018年

青柳 たしかに、ありましたね。謎の信念。

藤澤 あのとき、いづみちゃんが本を3冊ぐらい送ってくれたんです。

青柳 そんなにあげたっけ。「とにかく読んで欲しい!」って送ったのかな。

藤澤 そのとき、「ゆきさんと一緒に考えたい」と言ってくれて、安心したのをおぼえてます。衣装をお願いしますと丸投げされたら、答えを出さなきゃって気持ちになるし、「この解釈で合ってるかな?」って心配になっちゃうじゃないですか。でも、演じる女優さんがそう言ってくれたのはすごく心強かったです。

青柳 作り方の過程はすべてのひとで違ったんですけど、ゆきさんとは「一緒に考えたい」と思ったんですよね。喫茶店で会って、何回か話し合いましたよね。最初に藤田君のイメージとしてあったのは、テニスしてる女の子みたいな格好だったから、それに対してゆきさんが「こういうことができるよ」って、具体的に話してくれて。今まではイメージだけで話をする場合が多かったけど、ゆきさんはすごく具体的な人だなって思った。作品について具体的に考える時間が持てた。

藤澤 たしかに、具体的な話をしました。そこから稽古場にもお邪魔して、「ここは穴が空いてるほうがいいのか、空いてないほうがいいのか」とか、「色はどうなのか」とか、やりとりしながら決めていった気がします。

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 そうして完成した衣装とともに、『みえるわ』は全国10都市を巡演した。その10都市の中には沖縄があり、沖縄だけは二箇所の会場で上演されることになった。この沖縄という土地が、ゆきさんと青柳さんをより近づけるきっかけとなる。

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【アランニット制作日記 最終回 3月後編 その2】 へ続く

words by 橋本倫史

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