ニットのお直し/アランニット制作日記 12月前編
「冬型の気圧配置」と耳にするたび、どこか懐かしい気持ちになる。その日はテレビから「冬型の気圧配置」という言葉が流れてきて、日本海側では大雪となると報じられていた。いよいよ冬が到来した師走のある日、ゆきさんはニットのお直しに取り掛かろうとしていた。
YUKI FUJISAWAでは、お直しの依頼を受け付けている。ウェブサイトには「Repair」の項目があり、申し込みフォームから依頼が可能だ。冬が近づいてくると、お直しの依頼が増えるのだという。
「お直しを始めたきっかけは、お客様からの要望なんです。最初はニットを卸したお店を通して連絡をいただいてたんですけど、ウェブから直接連絡をいただくようになって、フォーマットを作ったのが2015年なんです。形あるものはいつか壊れますけど、箔という素材も経年変化が必ず起こるので、箔のお直しを始めたんです」
ゆきさんは、これまで制作してきた「記憶の中のセーター」の写真を残している。依頼があると、お客様に購入時期と現在の写真を送ってもらい、販売したときの状態と照らし合わせ、リペアに取りかかる。
「お直しっていうと、元通りに戻すって印象が強いと思うんです。最初は私も、元と同じ色の箔でお直ししてたんですけど、お客さまのこれまでの思い出に重ねて、また新たなデザインに生まれ変わらせる方がより幸せだなと。なので今は『好きな色の箔を選べます』とお伝えしてます。そこから『じゃあ何色にしよう?』って悩まれる方もいますけど、『ゆきさんにお任せで、素敵に仕上げてください』とオーダーされる方も多いですね」
「お任せで」と依頼されたら、ゆきさんはどうやって箔の色を決めるのだろう?
「たとえばこのニットは、ピンクの染と水色の染を掛け合わせたオパール染めというテクニックを用いてます。これを『青い箔にしてやろう!』みたいな強引な感じじゃなくて、そのものが持つ声や佇まいにリンクさせていきます。このニットを作ったときにはまだブロンズの箔を持ってなかったんですけど、ピンクの染めの柔らかさと相性が良いと思い、『ブロンズ箔はいかがですか?』と提案したんです。このニットの持ち主さんにもお会いしたことがあるのですが、ブロンズのあたたかみと白銀の爽やかさが、ご本人の情熱的で優しいお人柄にも似合うかなと」
2015年のニット。右がお直し後の写真。手首にブロンズ箔を追加し、首元も白銀を重ねてリペアしている。
ヴィンテージ素材を扱う「記憶の中のセーター」は、かつて誰かが着ていたものであり、そこには誰かの記憶が詰まっている。でも、こうしてお直しを重ねていくことで、新たな記憶が何層にも重なっていく。ゆきさんの作品と出会うまで、ニットの寿命は数年だと思い込んでいたけれど、大事に着れば何十年と着ていられるものだ。
「よく言われるのは、靴と同じで、1回着たら2、3日休ませることで。あとはお手入れですね。ホコリや皮脂などがついて、時間が経つと酸化したりダメージになってしまうんです。洋服を長持ちさせるには、休ませつつ定期的にお手入れをする。馬毛や猪毛の洋服用ブラシでブラッシングをすると、埃や花粉を取り除くだけでなく、毛玉予防になるんですよね。最近はアトリエショップもありましたし、作った服を着てくださっている方に会う機会が多いんですけど、どうしたらこんなに綺麗に着られるんですかって驚くこともあります。大事にしてもらってるんだね、よかったね、とその服に話しかけたくなります」
この日、ゆきさんが着ていたニットも、お父さんが輸入の仕事をしていた頃に海外で買い付けてきた「CARBERY」というアイルランドのハンドニットで、35年以上前のものだという。ウールの手編みのニットは、大切に着ることで、何十年後かに誰かに手渡すことだってできるのだ。
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【アランニット制作日記 12月後編】 へ続く
words by 橋本倫史
箔のリペアお申し込みはこちら「NEW VINTAGE お直しサービス」から。箔だけでなく、ニットのほつれのお直しも承ります。また、箔のお直しはニット以外の全アイテムお受けしています。新しい輝きを加えて、更にあなただけの特別な1つに生まれ変わらせませんか?お気軽にお申し込みくださいね。
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