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訴えられたら一人前

僕が若い頃、26歳頃ですが、店を始めたのもその頃で「いいお客様」「悪いお客様」がいるなんて想像もしていませんでした。

下積みの頃にいろんなお客様に出会いましたが、その時は良くも悪くも他人事で別にどうでも良かったのです。いい人だったな、やなやつだったもう来るなよ、それだけのことだったのです。自分の店じゃないからですね。気に留めなかった。

付け加えておくと、飲食店からすると
「いいお客様は店のコンセプトにあった吉な人」「よくないお客様は店のコンセプトにそぐわない凶な人」
です。

ところが自分で店を始めてみるとだんだん気になってくるわけです。
「自分の家」にヤなやつがいるということが耐え難くなってきて、それがどんどんエスカレートし「お客様はバカである」と思うようになりました。
あいつらは何も分かっちゃいない、と。店での過ごし方も使い方も。

なんか毎日やだなぁと、うんざり感じていた。いいお客様もたくさんいたけれど、目につくのは正反対の人ばかり。僕が若いからというのもあり、舐められることも多かった。

あるとき、若い頃から面倒を見てもらっている大先輩と食事に行って、近況報告をしながらお酒を飲ませてもらいました。

もうベロベロになりながら飲んでいました。ちょうど店を始めて2年くらいだった気がします。
さっきのようなお客様への不満のような話は特にしていなかったのですが、急に

「そろそろお客様のこと馬鹿だと思ってるでしょ?それは正しいかもしれないけれど、そういう人が自分の店のお客様だからね」

と話してくれたのです。

つまり「いいお客様だけに囲まれたビジネス」というのは幻想で、拡大や成長をすればするほど、いろんなお客様に「見つかる」可能性が増えるということなのです。

その先輩はまた別の(ベロベロじゃない)ときに「訴えられたら一人前」と話していましたが、それは悪事を働けということじゃなくて、届けたくない層にまで届かなければビジネスとして意味がない、ということです。その先輩は建築をしているから、何かを建てようとすると周りに迷惑をかけることがある、ということもあるようで「訴えられたら一人前」という比喩になったのでしょう。

これはつまり今風にソフトに言うと「よく分からない口コミが増えてきたら一般化してきた証拠である」と言うことですね。

適当な情報を入れた文字入れインスタ投稿や、マイナスなことばかり書いた主観だらけの批評家気取りの「それフォロワー50人のお前のアカウントかLINEグループでやってれば?」という評価口コミ。

「素敵なお店ですね」
「この街に来てくれてありがとうございます」
そんなことだけ起こればいいけれど、夢まぼろしです。

お友達や身内に囲まれたビジネスは気持ちがいいかもしれないですけど、それだけだと「いい商品である」「よく知られている」可能性は低いといえます。遠くに届いていないので。

自分の家(店)に土足で上がるやつが増えれば増えるほど、喜ぶべきことなのだ、とそのベロベロ飲み会で考えるようになりました。
(たまに忘れるけど)

そして、それはこの仕事を選んだ以上一生ついてくる問題で、現実なのです。
だからこそ、そこにはある程度のルールは必要なのだけれど。

今となってみれば、若かりし頃のお客様への不平不満は影を潜め、もう興味もありません。見下してすらいたのに。

人が好きだからこの仕事をしていると言うことはもともとありませんから接客が好き、ということもありません。
ただ考えたり想像したり、気を使うことは好きです。
「あのテーブルはこのくらいのペースでお食事が進んでいる」
「デートのようだから、お連れ様がお手洗いに行ったらお会計が入るかもしれない(から戻られるまでに会計が終わるように準備しておこう)」

それだけです。
下積みの頃の「いいやつがいて、やなやつもいるけれど、ただそれだけ」の状態へと戻ったのです。
自分が店を始めてからは「お客様に何かを求める」ということが多かったのですが。
(今もルールは求めるよ)

いいお客様がいて、そうじゃないお客様もいる。

どちらもお客様なのです。そこに感情はいらないのです。

そして案外お店を支えているのは後者だったりする。そしてそれはビジネスとして、健全なことなのかもしれません。



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