CHANELのお客様
うちの店舗は三越さんの並びにある。
その甲斐もありいろんなブランド企業のお客様が立ち寄る。
動線上にあるだけ、かも知れないけど仲のいいお客様も多いので素直にありがたく感じさせてもらっている。
アパレルはもちろん革製品、化粧品の会社のお客様、Tiffanyやバカラのような貴金属やガラスを扱うお店の方など、本当にいろんなお仕事の方が食事を摂りに、もしくはコーヒーを飲みに立ち寄ってくれる。
だいたい休憩中が多いのだろう。
お客様によって心持が変わるのはプロとしてどうなの?という話はひとまず置いておいて、僕も人間ですのでそういういわゆる伝統と歴史ある企業のお客様に相対すときは決まって”より一層”気合が入るもの。
Tiffanyの店長さん(今は関東に移動されたが)はいつもスーツで、長身、姿勢も良く本当に格好良かった。ルッキズムってどうなのとも言われる時代だが人間は例えば身長の高いものに惹かれるようにプログラミングされている。
こちらも手を抜けない。
そんないろんな方の中にCHANELのお客様がいた。まだうちが完全禁煙にする前ではあったがかなりの頻度でお店に来てくれた。
そのCHANELに勤めている方々はいつも決まってお昼を過ぎたあたりにお店にきていた。
3人もしくは4人で、ということが多く皆で一様にタバコを嗜みつつ珈琲を飲んで食事が運ばれてくるのを待つというのが決まりだった。
いつも女性だけだったが買い出しの途中で前を通り店舗を見渡すと男性がいたようには思えなかった。
三越の店舗はそういう店舗だったのだろうか。
皆さん礼儀正しく、姿勢や振る舞いもとてもスマートでその上いつもお仕事の話をしていて(聞き耳立てずとも聞こえてきたりするもの)よく感心させられた。
ある時、1番の若手と思われる方が
「アイスコーヒー食前で」
と言った。
新入社員のようにも思えたが上司と思わしき方とも仲が良さそうで、緊張や萎縮もなくおそらくただ若いだけなのだろうと感じた。
僕にとってはそういう
「あ、珈琲ホットで」
という類の注文の仕方の人がほとんどで(特に開業当時は僕も若かったしナメられていたので)気にもしなかった。
「そこはホットコーヒーをお願いしますだろ〜がヨォ〜〜」
と感じたことは一度もなかった。
とてもいい人だ。
ところがその中の1番の上司であろう方に
「食前でお願いします、でしょ」
と注意されていた。(関係性というのは見ていればすぐ分かる)
その方は直ぐすみませんと訂正し、注文し直してくれた。
「あぁすごいな」と思った。
シャネルの歴史の縮図はここにあり、だ。
ラグジュアリーは心地いいものであり、そうでなければラグジュアリーとは言えない。
勇敢な行為とは自分で考え声に出すこと。
醜さは許せるけどだらしなさは絶対に許せない。
ココシャネルはそう言った。
ココシャネルもその場にいたら
「ギャルソンには敬意を」と言ったのだろうか。
残念ながらココシャネルとはマブダチではないので分からないが想像はできる。
「最高に美味しい珈琲を食前にお願いするわ」
とか言ってくれる気がする。
そうでもないか。
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うちが完全禁煙にしてから7年ほどが経ったがそれから来店していただいたのは一度きりだった気がする。
「タバコが吸えること」もCHANELで働く彼女たちにとってはお店で過ごすことの大事なワンピースだったのだろう。
ぼくはCHANELにはいかない。
もう出会うことがないと思うけど、あの頃の
「食前にお願いします、でしょ。」
が心のどこかにずっと残っている。
そう。あの頃はあのままなのだ。
お互い元気にがんばろう。
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