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【連載エッセイ】踊る!LA紀行⑥

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05 鉄格子越しのレッドカーペット

私が幸運にもアカデミー賞の日にハリウッドにいれることを知ったのは、アカデミー賞前日だった。

高校時代の友達が同じく留学でロサンゼルスにいることを知っていた私は連絡を取ってみると快く会おう!と言ってくれて、チャイニーズシアターの前で待ち合わせをすることにした。その日が奇しくもアカデミー賞の前日だったのだ。
その日のチャイニーズシアターがあるHollywood Highlandはすさまじいお祭り騒ぎだった。大きなオスカー像が置かれ、その周りには今であれば絶対に避けたい密な状態で、そこらじゅうでパフォーマーやクリエイターがお金を稼ごうといろんな人に声をかけていた。かく言う私と友達もその1人で、あるクリエイターがCDを渡してきたから「Free?」と何回も聞いて「Free!」と言うものだから(正直欲しくはなかったので)しゃあなしに受け取ると、「1$!」と手を出してきた。「いや、freeちゃうやん!!」とばりばりに関西人な友達と2人で突っ込み、受け取ったCDを突き返したことをよく覚えている。

このあと、友達とはIn-N-Out Burger(イナウトバーガー)に行ってごはんを食べて、サンタモニカに連れて行ってもらってヨーグルトのアイスを食べたり、Victoria's Secretに行ったりした。高校卒業ぶりに会ったものだから、ロサンゼルスには似つかわしくない今だから話せる高校の頃の話をたくさんした。ロサンゼルスにいたときに心置きなく日本語を話した数少ない思い出だ。

その友達にアカデミー賞当日にレッドカーペットの近くに行けば日本の芸能人に会えたりするらしいよ、と教えてもらったので、野次馬精神が燃え上がった。丁度次の日はHollywood Highlandの隣駅、Hollywood Vineの最寄りのスタジオにレッスンに行くつもりだったから、帰りに寄ってみようと思い立った。たとえ誰にも会えなくてもせっかくだからレッドカーペットを一目見たかった。

ということで、次の日、私はレッスンのあとはアカデミー賞だ!!とうっきうきしながらスタジオに向かった。いつもより心なしか早くHollywood Vineの駅に着いた。あまりにも早く着いて少し不思議に思った。そのままスタジオに向かい、レッスンを受けた後、情報収集のためWi-Fiを求めいつものスタバに向かった。
いろいろと調べているとどうやらチャイニーズシアターなどが最寄りとなるHollywood Highlandはアカデミー賞の日は電車が止まらないことが判明した(そりゃ早く駅に着くわけだと納得した)。それはすなわち、Hollywood Highlandの駅まで歩かないといけないわけでもあったが、いつも駅間を歩いていた私にとってはとくに造作もないことだったので、激甘キャラメルマキアートを飲み干して、いざアカデミー賞に向かった。

Hollywood Highlandへの道は、それなりに慣れた道ではあったがいつもと雰囲気は明らかに違った。いつもより人は多かったし、なにより空気がわくわくに包まれていた。いつも寄っている雑貨屋さんを通り過ぎ、そのまま歩いていると、いよいよレッドカーペットとそれと私たちを隔てる鉄格子が見えてきた。レッドカーペットよりしっかりすぎる鉄格子に何とも言えない高揚感を覚えた。鉄格子に沿って歩いていると、大きな人だかりが見えてきた。大きな外国人にまみれながらその人だかりに入っていくと、どうやらレッドカーペットの近くに行くための列にまぎれこんでいることがわかった。レッドカーペットが近くにやってきた実感が湧いてきた瞬間だった。根気強く人の塊についていくと、ようやく警備員さんの近くまでやってきた。みんな手をあげてone!やらtwoやら言っているのを見て入りたい人数を言っているのだと気付き、とりあえず私もone!と叫んでみた。そう多くもない何度かのone!を叫んだ頃、警備員さんが私を指してくれて、やったやったとその警備員さんの前に行くと、テレビで見たことがある金属探知機をかざされ、特になにも言われることなく、その先に通された。

金属探知機のその先は、相変わらず鉄格子とその先に見えるレッドカーペットだけだったが、金属探知機をかざされたことにまた妙にテンションが上がっていた。正直今までの道沿いとあまり変わらない景色だったが、周りの高揚感は遥かに違った。テレビのカメラもあったし、オスカーの看板もしっかり見えてただのレッドカーペットではないように思えた。近くの人は自撮り棒を使って上から外を撮影しようとしていて、反自撮り棒主義の私はそれはずるいわと見上げながらこっそり思った。そんな私は一生懸命つま先立ちをして、ぴょんぴょんと飛び跳ねてレッドカーペットを目に焼き付けた。

結局その場にいたのは30分程いたがで、遠くで何度かきゃー!!という黄色い声援が聞こえたのみで、私がいた場所からは鉄格子越しのレッドカーペット以外見ることはできなかった。マックスだった高揚感も次第に冷静になっていき、ここにいてもこれ以上なにもなさそうだなと冷めてしまった私は、少し名残惜しい気もしたが来た道を戻ることにした。警備員さんがいたところに戻ると、手を挙げている人がたくさんいた。その人の間を縫って人だかりから脱出をした。
後ろを振り返って、その人だかりをもう一度見た。その人だかりに少しだけ優越感を覚えてふふっと笑った。

そのあとで、私は初めてレオ様がアカデミー賞をとったことを知った。レッドカーペットを見ただけで大したなにかを見たわけではなかったが、あの映画のお祭りに少しだけでも参加できたことは今でも私のちょっとした自慢である。


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気になる方はぜひ遊びに来てください◎


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