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マナビDXクエスト2022 参加体験記

2022年9月から2023年2月まで約半年間開催された「マナビDXクエスト2022」(以下、マナビDX)に参加しました。

2023年にもマナビDXが実施される予定と聞き、少しでも参考になればと思い、マナビDXとはどういうものか興味を持っている方、マナビDXへの参加を迷っている方に向けて「マナビDXとはどういったものなのか」を私の体験をもとに紹介します。

※ 以下の内容はマナビDX2022及びその前身のAI Quest2021に参加した個人の記録です。公式の記載と異なる可能性があること、2023年にマナビDXが開催されるのか、開催された場合、2021年、2022年と同じサービスや教材が提供されるかは保証されていないことにご注意ください。

マナビDXって何?

マナビDXとは経産省が主催するAI/DX人材を育成するための教育プログラムです。
半年ほどかけてAI作成のためのプログラミング技術やDXに関わるIT技術、そしてそれらを実装するためのビジネスマインドを学びます。この教育プログラムの特徴は受講生同士の「学びあい」を主眼に置いている点です。

くわしいことは上記のリンクを参照してください。とはいえ、上記リンクはいささか膨大で抽象的な内容なので、以降の記事の中で具体的に何をしているのか触れていきたいと思います。

結論

はじめにマナビDXに興味を持った方、参加するか悩んでいる方向けた私の結論です。
マナビDXは非常に良い内容でした。参加して満足しています。興味を持った方、参加するか悩んでいる方はぜひ申し込みをしてみてください。

自己紹介

まずは私個人がマナビDXの参加するまでの背景を紹介します。
私はメーカーに勤める30代です。昔からプログラミングに興味はあったのですが、始めるきっかけがなく、コロナで暇になったことをきっかけにプログラミングを独学で始めました。

しかしHello Worldからプログラミングをはじめてみて感じたのは、独学によるプログラミング学習の限界です。
プログラミングをやる中で、自分が何をすればいいのか、やっていることが正しいのか、何のためにやっているのかが分からななくなり、学習のモチベーションをうまく維持することができませんでした。

独学に限界を感じ、プログラミングに関して他の人との交流や意見交換をしてみたいと感じていた折、2021年にマナビDXの前身であるAI Questの存在を知り、応募したのがマナビDX(AI Quest)参加のきっかけです。

参加時のプログラミングのスキルは参考書に従ってテーブルデータから簡単なPythonの機械学習のモデルを作ることができる程度でした。
そのため応募時には「ほかの受講生のレベルが高くてついていけないのでは?」という懸念もありましたが、参加してみるとデータサイエンティストの専門家もいる一方で、私よりもプログラミング経験が浅い人も多く、参加者のレベルはかなり幅広い印象でした。

「自分がビリでなかった」と安心したのも束の間、AI Questが始まってみると、モチベーションが高い受講生も多く、そのプログラミング経験が浅い方が凄まじい努力で教材に取り組み、成績優秀者として表彰されるという光景を目の当たりにすることなりました。

そのような環境に身を置くと自然と自分もモチベーションが沸いてきて、あきらめかけていたプログラミング学習に身が入り、引き続き翌年リニューアルされたマナビDXに参加するに至ります。

(やることがなくて暇な人向け:過去の私のプログラム独学の遍歴です。AI QuestやマナビDXに参加するまでのいきさつなどを書いています)

マナビDXの詳細

ここからはマナビDXの内容と教材について詳しく説明していきます。

まず参加費は無料です。無料なのに、いくつかの有料サービスが無料で利用できます。
2022年のマナビDXでは補助教材として有料のプログラミング教育サービス「SIGNATE」を約半年間使用することができました。またチャットアプリSlackを使用するのですが、Slackもプログラム受講中は有料版を使うことができます。これだけで2万円程度のサービスが無料で提供されることになります。

(※2023年以降のマナビDXで同様のサービスが提供されるかは保証されません)

SIGNATEには、Pythonをはじめて触る人から機械学習モデルをはじめて勉強する人に向けた良い教材が揃っていて、マナビDXの教材に取り組む前の学習に最適でした。

学習はすべてオンラインで行われます。様々な集まりや連絡はzoomやSlack、オンライン会議サービスHEEREを使って行われます。

続いて教材の内容です。

AI教材/DX教材

2022年のプログラムは2タームに分かれており、各タームは約2~3か月間の期間で実施されます。

各タームには、AIまたはDXの教材が3〜4コース用意されています。参加者は、自分の好きな教材を選ぶことができますが、希望者多数の場合は第2希望以降に振り分けられることもあります。

このAI/DX教材は基本の流れは「デジタル化に関して困っている中小企業の経営者がITコンサルタントであるあなたに相談する」というストーリーで始まり、「この中小企業に対してAIやDX案を作って提案すること」が課題になっています。

提案に至るまでの「この企業が抱える問題点は何か」「各問題点の優先順位や解決難易度は?」といった細かいステップが課題に切り分けられ、課題を解いていくことで、提案までのステップを知ることができる造りになっています。

教材の中核はプログラミングなどを通じて「AIモデルやDXプランを作成する」ことですが、それだけでなく

  • 企業の真の課題は何か

  • この企業に最適なAIやDXの実装方法は何か

  • 経営者に分かりやすく説明する資料作成

といったビジネスサイドの検討も必要になっていて、単純なプログラミング技術だけを問われるだけでないところが実践的です。

実際の過去の教材を主催する経済産業省が公開しているので、参考にしたい方は下記ページの教材サンプルを参照してみてください(実際に提供された教材とほぼ同じものです。2023年以降の教材にも採用される可能性があるため、教材のネタバレに注意してください)。


現場研修プログラム

2タームのうち、前半のタームを一定以上の成績で修了すると、後半のタームでは通常のAI/DX教材に代えて、現場研修プログラムに参加することもできます。

この現場研修プログラムは、受講生同士でチームを作って、事務局が用意したデジタル化に課題を抱える実際の中小企業の悩みを前半に培ったスキルで解決するというプログラムです。

私は2年間で、AI教材、DX教材、現場研修プログラムすべてに参加しましたが、現場研修プログラムはマナビDXの目玉教材だと感じます。

AI教材/DX教材もレベルは高く面白いですが、これらは教育のための模範解答が用意された架空のストーリーの教材です。
一方で現場研修プログラムは、企業のが実際に困っていることにAIやDXで解決を目指す本物の実践の機会です。実際に取り組んでみて初めて分かるAI/DXの難しさを肌身をもって感じることができます。

受講生同士とチームを組んで企業の方と打ち合わせしていくという取り組みまでの環境づくり、提示された企業のデータだけで本当に企業の望むことがAI/DXで解決できるか分からないという緊張感、必ずしもITリテラシーがあるとは限らない企業の方も理解できる明快な解決案の提示ーーー、この困難さをAI/DX教材で感じることは不可能でしょう。取り組みの障壁はとても高いですが、やってみると非常に刺激的かつ責任感も感じました。

現場研修プログラムで痛感したのはデータサイエンスの技術はAI/DXの必要条件の一つでしかないということです。
自分の考えを実装するデータサイエンスの技術だけでなく、提案内容がその会社にどのような意義があるのかを人に伝え、納得させ、動かすこと。この重要性と難しさを体感しました。

そして「人に伝え、納得させ、動かすこと」はAI/DXに限らず、普段の業務の上でも必要な普遍的なビジネススキルです。現場研修プログラムに参加したことで、世間で騒がれるAI/DXというキーワードは、コンサルティングファームやIT業界がやっている彼岸の話ではなく、普段の自分の業務の地続きなのだと感じることができました。

教材以外のマナビ

マナビDXの「学び」はこれだけには留まりません。

マナビDXの醍醐味は、一人で教材に取り組むだけではなく受講生と一緒に教材を解いていくところにあります。

AI/DX教材には模範解答はありますが、それだけが正解ではありません。プログラミング実装に関して運営からの丁寧な講義があるわけでもありません。
分からないこと、疑問に思ったことは受講生同士でslack上で議論したり、教えあったりする受講生同士の「学びあい」で解決することが運営から強く推奨されています。

マナビDXの受講生は、現役のデータサイエンティストから営業職や事務職、製造業から小売業、フリーランス、サラリーマン、学生、主婦…様々なバックグランドの異なる人たちです。これら背景の異なる人たちと、どうすれば受講生同士のディスカッションから学びを得られるか、逆に自分がどういった価値を提供できるかを考え、実行することは、言葉で書くとなんてこと無いようにみえますが、思った以上に刺戟的です。

例えば「Slackで発言する」ことだってはじめての人にとってはかなりの心理的障壁です。

私も今までSNS含めコミュニティの中で発言した経験がほとんどなく、その心理的障壁は高かったです。それを乗り越えて、当初の目的である「プログラミングでほかの人がどのような勉強をしているか、どういった考え方でプログラミングを行っているかということを質問すること」のために、途中から積極的に質問をぶつけていくことができたことで、独学だけでは分からなかったノウハウや知見を得ることができました。

上記リンク先のインタビューされている受講生の方々はマナビDX受講生の中でも特に技術に優れ、他の受講生にその知識を広く伝えたり、コミュニティの活性化のための多くの貢献をされた方々です。
このような人たちのおかげで、知見が得られるだけでなく、モチベーションの向上にもつながりました。

2回目の参加の際には、運営の方や発信力やスキルの高い方に対してコミュニケーションをとり、情報や知識を得る機会を作ることができました。この経験は、AIやプログラミングの知識といったことを越えて、普遍的に「学び」とは何か、コミュニティとはどうあるべきかということを考えるきっかけになりました。

参加にあたってのFAQ

参加を考えるにあって、気になりそうなことをまとめてみました。

ITスキルはどれくらい必要か

私が参加した2年ではどちらも募集時にテストがあり、テスト成績が悪かった人は参加できませんでした。なので、最低限テストに合格するITスキルは必要です。

22年は募集テストにデータ分析が出題されました。レベルとしては男女の身長データ1000件がcsvで与えられたときに男女別に身長の平均値や分散を算出させる程度です。Excelを使ってこの程度の操作ができれば、プログラミング技術はなくても合格すると思います。

(※過去の実績です。21年と22年では教材自体の難易度はほとんど変わりませんでしたが、21年のテストはテーブルデータを用いた機械学習モデルを作成と、22年よりもかなり難しいテストが出題されました。23年にテストが実施されるか、実施された場合、22年と同様のテストになるかは実施要綱が公開されるまでわかりません。)

ただし、Excelの操作以外にもう少しIT知識を持ってマナビDXに挑んだほうが効果的な学習ができると思います。

具体的にDX教材の場合は、
・伝えたいことを1枚のスライドにまとめられること

AI教材の場合は、それにに加えて、
・最低限Pythonで簡単なプログラム(Fizz Buzz)が書ける、理想的には簡単な機械学習モデルを参考書をもとに書けること
ができたうえで参加することを推奨します(プログラミング技術が不要な人はDX教材だけ参加することも可能です)。

公式の資料の32ページあたりよると2022年のマナビDXのAI/DX教材の修了率は57%となっていて、43%は修了できていませんでした。

経産省の資料より引用

特にPythonで機械学習モデルを作成するAI課題やPowerPointによる報告資料を作成するビジネス課題は難易度が高く、個人的な体感では、その課題で脱落した受講生が多くいた印象です。

せっかく受講する以上、これらの課題で振り落とされないよう、参加を希望する教材の内容に応じて事前にPowerPointやExcel、Pythonの学習をして参加したほうが良いでしょう。導入テストが簡単だったとしても、決して教材のレベルは低くありません。

前述したSIGNATEはExcelの操作やPythonでのプログラミング学習の教材が揃っています。2023年以降もSIGNATEの無料提供がされるかは不明ですが、もし提供されればExcelやプログラミングに不安がある人はマナビDXが始まる前の事前学習にSIGNATEを利用することをお勧めします。


課題取り組み時間は?

もし課題に参加するとして、マナビDXが仕事や学業に対してどれくらいの負担になるかは特に時間のない社会人にとっては気になるところです。

運営は1週間で6時間を標準に教材を設計していると説明しています。教材をなぞって学習を進めるだけなら、運営の言う通り週6時間、最低限、週3~5時間でも修了に耐えるものはできます。

しかし、AI/DX教材ともに満足いくレベルの成果物を作ろうと思ったら週10時間以上費やしても全く足りません。私はおおよそ平日1~2時間、休日3時間で週10時間以上はマナビDXに取り組んでいました。取り組みは教材以外にもわたり、slackに投稿したり、投稿内容を参考書代わりに課題に取り組んだり、自主的な交流会に参加したりとしていました。

また現場研修プログラムでは、短い期間で企業の方に何からの報告を行う必要があるため、どうしても週6時間以上の活動になるチームがほとんどだと思います。
私は現場研修プログラムに参加した際には、平日夜に企業の方とミーティング、休日を使ってチームで打ち合わせを行ったり、報告前日は仕事が終わった後に深夜まで資料を作成したりとかなりの時間を使いました。

多くの時間を使って取り組んだことで、成績上位に入賞し、いくつかの賞もいただきましたし、現場研修プログラム修了後も引き続きチームでその企業の課題に取り組んだりと大きな成果を出すことができました。
成績上位だったり、表彰されたような方のほとんどは週6時間以上を割いて成果を出していた印象です。

ただ約半年すべての期間でマナビDXにフルコミットすることは物理的にも精神的にも大変です。

取り組み時間が取れるか不安な人は、仕事などの状況を考えながら、上位入賞を目標に時間をかけて取り組むか、まずは修了を目指すか、ターゲットを明確にすることをおすすめします。

また、各課題の提出期間はゆとりがあるので、早め早めに課題に着手することで、締め切り前に慌てないようにすることもポイントです。

マナビDXを充実するために必要なことは?

繰り返しになりますが、マナビDXは「学びあい」ということを大きなテーマです。マナビDXをより充実した場にするためにはプログラミング技術やIT知識以外の「学びあい」のスキルも求められます。

私はそのスキルには2つの要素があると思っています。

1つ目は積極性。
マナビDXではslack等への投稿、自主勉強会・交流会の参加や企画、現場研修プログラムへの参加を推奨していますが、AI/DX教材と異なりこれらは修了要件ではありません。まったく参加せず修了することも可能です。

しかし、これら「学びあい」をせずにマナビDXを修了することはせっかくの機会を無駄にしてしまい、もったいないです。また、現場研修プログラムでは自分たちでチームを組んでいく必要があり、参加するためにはどこかで自分から立候補が必要です。

残念ながらマナビDXの全受講生2000名程度のうち積極的に意見を発しているのは決して大きな割合ではなく、全体の20-30%程度ではないかと思われます。


コミュニティ内に飛び込んでいくことに躊躇もあると思いますが、「学びあい」そのものがAI/DXのための必要なノウハウに通じる部分があると感じます。より多くの知見を吸収するためには自分からコミュニティに入っていく積極性が必要となります。


2つ目に「学びあい」の土台の人間性。
このマナビDXでは属性、業種、年齢、性別、学歴が幅広い方が受講しています。業界が違えばやり方も違いますし、受講生のプログラミング技術の差はとても大きいです。

自分の中での常識が通用しない場面もあれば、冗談が通じないことも、受講生同士のコミュニケーションエラーが起こることもあります。

大事なことは丁寧なコミュニケーションと相手への尊重です。SNSへの投稿とビジネスメールの中間程度のコミュニケーションの温度感と受講生(および運営の方)に対する尊重の気持ちをもてるようにしたいものです。

ふたたびの結論

さいごにもう一度、私の結論です。

マナビDXは非常に良い内容でした。参加して満足しています。ここまで読んで興味を持った方、参加するか悩んでいる方はぜひ申し込みをしてみてください。


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