「流浪の月」は共感を呼ぶ。

怪我の功名といってもいいのか、読もうと思って読めていなかった「流浪の月」を読みました。言わずもがな、2020年の本屋大賞受賞作品。

僕は大いに本屋大賞を信頼しています。そんな受賞作品ばっか読んでミーハーな、というリトル自分的なものはいますが、そんなことは無視して面白いものは面白いのだ。

そして、読み切って感じたことは「共感」でした。

どこか世間と自分が切り離されているような感覚になったことはないでしょうか。僕はあります。どうしても理解されない、目の前の相手にですら。


少女誘拐事件の加害者と被害者との関係を描いている。読んだ後は、「加害者」「被害者」というラベルもしたくないが、この世界の大多数の人はそう思っている。

家庭的に複雑な事情を抱える少女(更紗)が救いを求めるように青年(文)の部屋に転がり込む。世間から見れば、男が少女を誘拐したように見えるが、その二人に流れる時間は穏やかである種の満ち足りたものだった。

世界のどこかにはあるのかもしれないが、普通の世界線とは違っている。それでも、僕は終始共感の感情を抱いていました。

この本は・彼女のはなし・彼のはなし とお互いの視点で交互に描かれていて、それがまた深みを出しているのだ!

人とコミュニケーションを取るときには、基本自分視点でしか捉えられない。行動の結果がお互いに噛み合っていても、そこ至る個人の理由は自分の領域を出ないでいて、その絶妙な形で噛み合っているピースをみていると、ある種神的な目線で物語をみているようでした。

物語の主軸は大人になってから、再び二人が出会うところから。

この出会ってからの二人の距離感がたまらない。恋愛的な関係は超越したもので引き寄せられていって、安直だが恋愛以外で男女が共生しうる世界がここにはあると思えました。世間から見れば相変わらず二人は事件の加害者と被害者でしかないことに、僕もリアルタイムで苛立ってました。それほどに共感させられてしまう。

周りは二人のことを安易にレッテルを貼って、どんどん真実とかけ離れていってしまう。加害者には実際にはしていないことも創造されて、被害者の少女にも、ただただ哀れみの言葉が投げかけられる。僕は苛立つと同時に、自分も外側の人間だったらわかってあげられるだろうかと身につまされてしまっていました。もしかしたら、今も誰かにそうしてしまっているのかもと。

そう思うととても怖くて、怖くて、お前はどうなんだと投げかけられているような。。

当の本人たちですら、相手の反応に怯えてり一喜一憂したり、過去の僕の恋愛も自分が思っていなかったようなことを相手が感じていたのかも。

そういうことありませんか、自分の中で相手の頭の中を想像して堂々巡りしてどんどん苦しくなっていくこと。まさにそれです。結局相手のことはずっと分からないままなのかもしれない。


そして大人になった時の更紗の彼氏、亮には終始苛立ちを覚えました。悪気のない女性軽視的な言動。やられている本人はそこまで嫌悪感を抱いていないように書かれているが、絶妙な差別感がむず痒い。本当はもっと伝えたいが文章力のなさにより伝えきれないのが悔しい。なんで暴力するんだ!それ前にも同じこと言ってたぞ!とおそらく作者の思惑通りに感情を揺さぶられてしまいました。でも、中で描かれている彼の過去を鑑みると、彼もある種の被害者なのかもしれない…


人とわかり合うのはどうしたらいいのだろうか。相手の頭の中を想像しないといけない。ただ伝えるだけでも解決しないこともある。答えはどこにあるのだろうか。

この二人は各地を転々としながら二人で暮らしていった。第三者には理解されない二人だけの関係の中で。二人はそれでいいと心に決めていたのだ。

それがまた心地よかった。周りにどう思われていようと二人の世界線の中で生きていこうとする強さ。世間に立ち向かうでもなく逃げるでもなく、ただ生きていくこと。僕が彼らに出会ったらなんというだろうか。どんな言葉も意味をなさない気がする。人間の関係はどうしようと解決しないことがあるのかもしれません。


主軸は二人の男女ですが、その周りに位置する家族や世間がとてもリアルなのです。特に今、人間同士がいがみうことが多い時にどうしても重なってしまう。また聞きのまた聞きのまた聞きで得たような情報に翻弄されてしまっていないだろうか。僕が今読んでしまったためにそう思ってしまいました。


同じような感情になったこと過去に自分にもあったな、そんなシーンがいくつもいくつも出てきます。読んでみれば皆さんにも必ず一つはあると思います。

一冊で何人もの命を垣間見れた気がしました。いい作品は往々にしてそうなのかもしれません。学んだこと、というと大げさかもしれませんが、得られるものが多い作品だったなと思います。

今頃、二人はどうしているのか、今もそんなことを考えてしまう。

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