紫がたり 令和源氏物語 第三百八十五話 横笛(二)
横笛(二)
春の陽気が高まる頃、薫はもう部屋中を無尽に這い回るように活発になっておりました。
その日は山の院(朱雀院)から女三の宮の元に山で採れた筍が届けられており、まだ芽吹いたばかりの小さな筍ですが、ほのかに漂う土の香りが女三の宮の御座所に春の訪れを告げております。
薫がこちらにいると聞いて訪れた源氏は、笊の上にこんもりと盛られた筍のと山芋を珍しそうに眺めました。
「これは兄上からの贈り物かな?」
「春の便りですわ。先ほど届きましたのよ」
乳母はうれしそうに薫をあやして