日本人エンジニアが、日本でも海外エンジニアと競争せざるを得ない時代
日本でエンジニアの転職先として人気のあるITベンチャー企業が、
駆け出しの日本人ITエンジニアに提示するような安い給料で、
海外のコンピュータ・サイエンスを学んだ英語話者ITエンジニアをリモートで雇う―――
もしこんなことが当たり前になったら、日本人エンジニアの転職事情は激変するでしょう。
なぜなら
【日本に生まれ育って日本のIT企業に就職を目指す】だけなのに
【海外でコンピュータをバリバリに学んで英語も使いこなす人材】と
転職市場で勝負しなくなるといけなくなるのですから。
けれど、これは【もしもの話】ではなく
「この先数年で現実に起こりうる未来」ではないか。
業界の中にいると、最近こんな予感を感じています。
その背景には、こういったITベンチャー系企業において下記のような事象が進んでいるからです。
・コロナ前から日本人IT人材の枯渇により、英語前提で開発組織を設計することが増えつつあった。
・コロナにより完全フルリモートで働ける環境が急速に整った。
英語で組織開発できるITベンチャーほど成功率が上がる
エンジニア採用とは関係なしに、昨今成長ベンチャーとして人気のある企業ほど、経営層本人が英語で海外投資家と渡り合っている傾向が強いです。
以前は、起業チームに英語力があっても大したアドバンテージになりませんでした。(中略)
今なら、英語で交流できるスキルは、それを隠し持っていた起業家にとって大きな武器になり得ます。
「日本を調査し、この分野に注目する外国人投資家が増えている。競争が比較的激しくないため、バリュエーションもより魅力的だからだ」
英語を使って海外の投資家を味方にできる企業ほど、豊富な資金を手に入れて勝ち残れる可能性が高くなるわけです。
似たようなことは投資家からの資金調達だけでなく、企業の成長エンジンとして重要なエンジニア採用にも当てはまります。
そもそも日本人・日本語のエンジニア人材マーケットより、英語圏のエンジニア人材マーケットのほうが圧倒的に量・質共に勝る。
日本でITサービスを開発しようにも(企業が求めるレベルの)日本人エンジニアが枯渇している状態なので、
英語圏エンジニアを組織に起用・活用できるようになった企業だけが成長し生き残れると言っても過言ではないのです。
社内公用語の英語化を進めた楽天はその先駆者でしょうし、最近ならメルカリが開発組織のグローバル化で有名でしょう。
【完全リモートワーク対応】がもたらす【越境労働】
本来であれば、日本における英語IT人材採用の動きは数年、いや十数年かけてゆっくり起こるものでした。
最大の番狂わせは、やはりコロナ。
ITベンチャー系企業ほどフルリモートで働いても問題ない環境が急速に整いました。
コロナ前であれば、日本で英語IT人材を採用するといっても、多くの場合「日本に移住」を求める必要がありました。
それがもはや移住の必要すらなく英語IT人材の採用に乗り出せるようになったのです。
実際わたしも、コロナ以降
「海外からフルリモートで英語IT人材を採用した」
という事例を見聞きするようになっています。
つまりコロナによって、英語のデキる経営層から見れば英語IT人材にアクセスできる障壁が圧倒的に下がったのです。
そしてこれは、一般の日本人エンジニアからすれば 参入障壁の低下により、(日本の企業であっても)英語IT人材と競争する必要が出てきたということ。
スキルの割に格安で採用できる【越境人材】
日経の記事でこんな言及があります。
新興国のコストは割安だ。テレワークができる仕事を米国とコロンビアで比べると、米国人労働者の方が10倍(労働コストが)高かった
まず安定した電力とパソコンのある中所得国の中産階級が利益を得るだろう
特にこの部分、真剣に日本在住エンジニアは向き合う必要があります。
なんせ日本では
・ 大学でコンピュータ・サイエンスを学んだ学生は少ない
・ その人材も、必ずしも英語ができるわけではない
・ そんな人を採用しようとすると高い年収を提示しないといけない
そんな状態です。
なのに、中所得国に目を向けると
・ 大学でコンピュータ・サイエンスを学んだ
・ (母国語の教材がないので)大学の授業は英語だった(=英語はできる)
・ でも(日本と比べると、物価の違いにより)安い給料で働いている
こんな人材がゴロゴロいます。
この国の人たちにとっては、例え日本人の非コンピュータサイエンス出身の駆け出しエンジニアに提示するような安い年収でも、段違いの厚遇なんです。
そんな給料で日本のITベンチャーに就職しに来るわけです、リモートで。
日本人エンジニアに求められる価値が変わる
もちろん海外の英語IT人材だけで、日本人エンジニアの価値を全て代替できるわけではありません。
・日本のマーケットにプロダクトを売り込むため、営業やプロダクトオーナーなどと一緒にプロダクトのあるべき論を日本語で議論できるエンジニア
・プロダクトの開発にあたり、日本独特の商習慣などを深く理解し、ビジネスロジックの実装を迅速に行えるエンジニア
こういった人材であれば、安易に英語IT人材で置き換えることはできないでしょう。
プロダクト開発の「フロント寄り」の部分は日本人でないと難しい。
逆説的に言えば、サーバー・クラウドインフラなどの「バックエンド寄り」の分野では言語的・文化的障壁が少ないのです。
日本の言語・文化を知っていることよりもむしろ
・コンピュータ・サイエンスをしっかり学び、コンピュータの中身を理解できている
・英語で海外のナレッジを収集できる
ことのほうが圧倒的に有利です。
この動きを踏まえると、これから日本においてIT人材の性質は次の2タイプに収斂していくのではないでしょうか。
1. 英語もできて高度なコンピュータ・サイエンスも学んだエンジニア(バックエンド寄り)
2. 日本特有の文化・商習慣・コミュニケーションを熟知し、サービス設計に反映できるエンジニア(フロントエンド寄り)
日本語しかできないならば、日本人特有のバリューを発揮せよ。
さもなくばグローバルのIT人材に匹敵する英語とコンピュータ・サイエンスのスキルを持て。
そういう時代が、本当にすぐそこまでやってきていると感じるのです。
これからの時代に危ないエンジニアのタイプ
この変化によって、具体的にどういう層が危ないかと言えば2つあると思います。
1. 駆け出しエンジニア
こちらは海外人材云々抜きに、そもそも今も色々と厳しいと聞きますが・・・。
英語で組織開発する体力がある企業ほど、日本人だからといって駆け出しを採用して教育するのではなく、海外人材であっても優秀で十分な教育を受けた人材を採用する動きが加速するでしょう。
人気のある自社サービス開発企業を目指すのならば、
・海外人材と競合できるくらいの技術スキル&英語スキルも目指す
か
・技術スキルだけでなく、企業が提供する事業ドメインの深い知識を身につける
の、どちらかを目指さなければ厳しいと感じます。
2. 技術オタクタイプ
1と違って現時点ではこのタイプは【危ない】とは一般的に認識されてないないと思います。
が、実はこの変化の影響を最も受けるのはこの技術オタクタイプではないかと。
具体的な人物像でいうと
・仕事では技術力一本でやっていきたい。
・日本語のコミュ力や独特の文化的知識など、技術に関わりたくないところはやりたくない。
・英語もやりたくない。
という、いわば気難しいエンジニアみたいなやつです。
そういう人っているの?と業界外からは思われるかもしれませんが。
ITエンジニア人材の地位がさほど高くなかった一昔前なら、好き好んでこの職種を選んだ層は、こういう性格は珍しくありませんでした。
(個人的な所感では、むしろ昔はこういうタイプが多数派だったのではと・・・)
このタイプは、日本におけるIT開発組織のグローバル化と共に
「日本語しかできないけど、日本人特有のバリューを発揮できない人材」 として、急速に市場価値を失っていく危険性があります。
コロナ禍をきっかけに、ITベンチャー企業で急速に浸透した完全リモートワーク。
当初こそは私自身「働きやすくなって良かったー」くらいの考えしかありませんでした。
が、最近はその結果としての「グローバルな人材との競争」の足音が迫っているように感じてなりません。
果たして日本のIT人材のうち、この覚悟ができている人はどのくらいいるのでしょうか。