さがしもの

 まだ小学生の僕が『自分探しの旅をしている』なんて言ったら、びっくりされるかもしれない。どこに在るかもわからない、僕自身とはまた別の『自分』。けれどどうしてもそれを探し当てたくて、小学生最後の夏休みを使って電車で色んなところを旅した。都合、日帰りばかりだけど。
 もうちょっと、具体的な手掛かり……みたいなものがあればいいけど、そんなものもなく。色々と新しい発見があったり、ときにはちょっぴりムカシの自分を思い出したりもして楽しい反面、なかなか見つからない『自分』に、気落ちすることもあった。

 夏休みももうすぐ終わり、この時のために地道にため続けていたお小遣いという名の旅費もそろそろ底を尽きる、というときだ。僕はある日、夢を見た。
 暗い山の中に連れていかれる、なんだか気味の悪い夢――そう、他の人ならきっと気味の悪い夢、で済ませてしまうだろうけど、僕にはこの夢が、もっと特別なもののように思えた。僕が人生の目標にまで掲げ、探し求めてやまない自己は、山の中とか、それに近い場所で見つかるに違いない。
 インターネットで行ける範囲にある山の場所を調べ、そこまでの経路も調べると、とにかくなるべく多くの場所に行ってみることにした。小学生の足では限界もあるし、時間も資金も足りないかもしれない。なるべく早く見つかってくれ――と、そんな願いが通じたのか、二つ目に訪れた山の中、街から近い割に人の少ない雑木林で、僕はついにさがしものを見つけることができたのだ。
 足元に目をやると、土中から白っぽいものがはみ出ているのがわかる。僕は念のためにとリュックに忍ばせておいた小さな園芸用シャベルを取り出し、丁寧に土をどけていく。想像したとおり、その白いのは骨だった。もちろん人骨だ。一部か全部かは不明だが、長い年月の間に白骨化したのだろう。元の姿はわからなくとも、感じるものがあるから人間は不思議だ。
「やっと見つけたぞ、前世の僕」
 本音を言えば、この手で全体を土の中から救出してやりたい。しかしここから先はひとまず警察の仕事だ。僕はスマートフォンを取り出すと、大げさに驚いたフリをしながら警察に通報した。

 前世といっても、僕の場合はどうも全部を覚えているというわけではないらしかった。覚えているのは死の直前のことが大半だ。怪しい男たちに車で連れ去られ、目隠しをされ、やがてひどく殴られ――そこで記憶は途切れている。他に覚えていたのは、わけも分からず殴られる歯がゆさと、男たちに対する強烈な怨み。そのことを考えると、小学生の僕でもはらわたが煮えくり返る。
 とにかくいちばんのさがしものは見つかったので、後は警察の捜査が進むのを期待しながら待つばかり、あの時の男たちの行方が掴めるのを祈るばかりだ。呪い殺すにも顔や名前がわからなければちょっと難しい。
 自分も他人も探さなきゃいけないなんて、難儀な人生だなあ、やれやれ。

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