PSYCHOな蓮美ちゃん

 ある夜更けのこと。その女の子は自室でスマートフォンの画面をしきりにつつきながら、ぽつりとつぶやきました。
「うーん、思ったより伸びないなあ」
 蓮美ちゃんはこの春に高校入学したばかりの高校一年生。入学を機に念願だったスマートフォンを買ってもらい、周囲よりやや遅めの『スマホデビュー』を果たしたのでした。すぐに今はやりのSNSに登録し、ひと通りの使い方も覚えたのですが、自分の投稿への反応は芳しくありません。
「今日はもう遅いし、明日、学校で誰かに聞いてみよう」
 深夜にメッセージを送るのも躊躇われたので、その夜は眠ることにしました。

「ねえねえ、SNSでいっぱい反応もらうのって、どんな投稿したらいいかなあ」
 翌日、昼休み。蓮美ちゃんは早速、いつも集まっておしゃべりしている友人たちに相談を持ち掛けました。
「反応? あぁ、手っ取り早くイイネ増やしたりバズったりってことね」
「そうだなー、やっぱり動物系かなあ、『ネコかわいい!』とか」
「わかりやすくて、カラフルなやつもいいんじゃない? 『スイーツおいしい♡』みたいなの。もちろん写真つけて」
 ユーザーとして蓮美ちゃんよりちょっとだけ先輩の友人たちは、口々に様々なアドバイスをくれます。皆から刺激を受け、蓮美ちゃんにもやる気がみなぎってきました。
「ありがとう! 色々試してみるね!」
 蓮美ちゃんは学校が終わるとすぐさま帰宅し、新しい投稿の準備にいそしんだのでした。

 そのまた翌日。蓮美ちゃんは顔いっぱいに笑みをたたえて、前の日と同じように同じメンバーの輪に加わりました。明らかに上機嫌の蓮美ちゃんに、友人たちも興味津々です。
「やけにゴキゲンじゃん、何かあったの?」
「わかるー? 昨日言ってたSNSの話、アレが上手くいったの。バズるってやつ?」
「へえ、まだ一日しかたってないのに、すごいね」
「そうなの。夜遅くに投稿したんだけど、寝て起きてもまだ通知がやまなくって」
 蓮美ちゃんは少し眠そうにしながらも、スマートフォンを掲げて得意げです。実際、話している最中にもバイブレーションが途切れません。

「で、どんな投稿したの?」
「うん。写真つきで『ネコおいしい!』って」
 瞬間、場の空気が凍りました。けれど蓮美ちゃんは特に気にする様子もありません。
「コメントもいっぱい来ててね。中には意地悪言ってくる人もいるんだけど……」
「え、それ炎上……え?」
「大丈夫なの!? それ!」
「大丈夫大丈夫。はっきり見えないように加工してるし」
「そうじゃなくて!」
 友人たちは声を押し殺しながらも、慌てふためいているようでした。
「じ、冗談よね……?」
 その中の一人が、恐る恐る問いかけてきます。蓮美ちゃんはアハハ、と朗らかに笑いました。

「ウソじゃないよ。ほんとにおいしかったんだから!」

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