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イベントレポート|柴崎友香×横道誠「私は「この私」を通じてしか世界を経験できない」

2024年7月8日(月)に本屋B&Bで開催された、作家の柴崎友香さんと文学研究者の横道誠さんのトークイベントに参加しました。今回はそのレポートをお届けします。

イベントの概要

イベント詳細 - 本屋B&B公式サイト

小説家・柴崎友香さんの最新刊『あらゆることは今起こる』の刊行を記念して本屋B&Bで行われたトークイベントです。20年以上自身のADHD的な要素を捉えてきた柴崎さんは、2021年にADHDの診断を受けた経験をもとに本書を執筆されました。対談相手はASDとADHDの当事者研究本『みんな水の中』の著者、横道誠さん。柴崎さんと横道さんが発達障害についてそれぞれの経験を共有し、文学作品を通じた発達障害の理解を深める内容です。

イベント参加のきっかけは、2冊の書籍との出会い

柴崎さんの著書『あらゆることは今起こる』は、私がnoteを始めたきっかけとなった作品です。

私は2024年の2月にADHDの不注意優勢型と診断を受けました。それから自己理解を深めるためさまざまな情報に触れていくなかで、6月初旬にこの書籍を手に取りました。自分が発達障害であることについてどのように受け止めたらよいかわからないまま、薬を飲んでも副作用ばかりで仕事の辛さは劇的に改善するわけでもない。精神的に行き詰まりかけたとき、たまたま一人で札幌へ行く用事があり、この本を旅のお供に連れていきます。

それが、私の転機となりました。この本には柴崎さんの見ている世界が表現豊かに描かれていますが、そこには共感と気づきがあまりに多かった。印象的な部分に付箋を付けながら読んでいたら手持ちの付箋を使い切ってしまったほどです。せっかく札幌に来たのに観光もせず、時計台横の喫茶店で一人、一時間に一度鳴る鐘の音を何度も何度も聞きながら読み耽りました。
この作品を読んで、私も、私の見ている世界を、他の人に伝わるように翻訳して伝えたい、と思ったのがこのnoteを始めたきっかけでした。

そして、旅先の札幌の書店で購入したのが、同じく「シリーズケアをひらく」から出ている横道さんの著書『みんな水の中』です。「水の中にいる感覚」は横道さんの感じているものと少し違うようにも思いますが、自分にも共感できるところがありました。引用している文学作品が興味深いものばかりで自分の文学世界が広がることが楽しく、特異な言い回しにも共感と愛着を感じました。そのお二方がトークイベントをされると知ったのは、イベント1週間前の7月1日、横道さんのツイートからでした。「こんなの、私のためのイベントじゃないか!!これは運命だ!!」と歓喜してその場ですぐにチケットを購入しました。

柴崎友香×横道誠 二人の経験する世界

19:30~21:30の2時間のイベントは、お二人の対談形式のトークセッションの後、質疑応答、最後にサイン会という流れで進行しました。

お二人が登壇する前の会場写真

メインとなる対談の中では、お二人が出会うきっかけのお話から始まり、柴崎さんの作品とご自身がどのように繋がっているかを横道さんが深掘りをしたり、ADHDの脳内多動が現れるお二人の子どもの頃のお話、お互いの似ている部分と違う部分、文学作品の好みに現れる自身の発達特性、『あらゆることは今起こる』『みんな水の中』の担当編集・白石さんの作品への関わり方、ADHDとASDの診断の歴史と今後、人間の顔を認知できない特性のエピソード、ADHDは今後「多動衝動」と「不注意」に分解される説、左右盲にはダンスが難しいこと……など、各作品に書かれたことにも触れながら、このイベントでしか聞けない濃いお話をたくさん伺えました。

お二人の作品を手元に置き、一生懸命メモを取りながらお話を聞いた。学校の授業もこれくらい真剣に臨めたらよかったのに


質疑応答「自分の世界を言葉にすることで救われますか?」

私、お二人の対談を聞きながらどうしても質問がわいてきてしまって。質疑応答タイムの前に2杯めのガソリン(B&Bにちなんでクラフトビール)を注入し、勇気を出して挙手して質問させていただきました。

質問

ご自身の感じてきた世界を言葉にされてきたお二人に質問です。自分の世界を言葉にすることで、自分は救われますか?

ADHDの診断を受け、自分と他の人の見ている世界は違うものだと気づきました。それが面白くて、どんどん自分の見た世界を他の人に向けて翻訳したくなります。
だけど、言葉にすることは自分の内面を見つめること。言葉が自分を縛る呪いになったり、ネガティブな方面に考えを深めたり、定型発達の人との違いに注視してしまうようになり、言語化って良くないのかも、と悩みます。
それについてお二人の考えをお聞かせください。

横道さんの回答

「言語化っていうのは、そう言語化して良くなる言語化と、そう言語化して良くない言語化があると思うので、ハッピーになる言語化をしてください。

認知行動療法的な発想ですが、考え方次第というか。自分の視野を広げたり、自分の感性を耕すような言語化。それを探求者がやっていくということですね。書くことによって落ち込むようなものは良くないと思います」

柴崎さんの回答

「はい、私も本当同じような感じです。考えすぎると、自分はすごくダメなんじゃないかとマイナス方向に行ってしまう。悪いところばかり考えてしまうときもあるし。でも、マイナスに掘り下げても良いことないんですよね。自分自身にも良いことないし、そうすることで周りとの関係が改善するわけでもないし。だから、自分が楽になることはやったらいいし、 そうでないことはやらなくていいと思うんですよね。

この本を出してから、結構いろんな人に「自分はこんなに言語化したり、内面をこう掘り下げたりしてなかったので、 自分ももっとやろうと思います」とか、「自分はやってなくてダメなんじゃないか」と言われたりすることもあるけど、全然そんなことはなくて。私は、やりたいからやっている。元々考えることが好きだからやっていて。しかも本も出せるし(笑)。それでやっているだけなので、やらないといけないってことは本当全然なくて。

他の日常生活での工夫とかも、「これやらないといけない」ということではなくて、自分自身が楽になるならやればいいと思っています。その他のことは別にやらなくてもいいっていう感じですかね。

あと、全部が言語化できるわけではないので、言語化は自分を捉える叩き台くらいに思っています」

お二人の回答を受けて(感想)

そうか、「言語化すること」自体の良し悪しではないんだ。ハッピーになる言語化、楽になる言語化をすること。なるほど……!!

私は考えることが好き、いや、好きというか思考の癖、当たり前になってしまっているし、人は言葉を使って考えるから言語化は必然だし、それをしている最中は楽しいからついやってしまうんです(それに対して陽キャの夫から「考えすぎだよ~」と言われてもやもやしていた)。

考えること、言語化すること自体は、好きだったり自分が楽になったりするのならやったらいい。ただし、そのベクトルには気をつけて。と自分なりに解釈しました。

ご回答、本当にありがとうございました。

大切な2冊にサインを頂きました!

栞代わりのポストカードが何枚も挟まっていて恥ずかしかった
サイン、独特!!!

最後に

対談の中で柴崎さんが「すべての親御さんに読んでほしい」と何度も強くおすすめされていた『発達障害の子の勉強・学校・心のケア~当事者の私がいま伝えたいこと』と、以前から気になっていて今日もお話に挙がった『発達障害者は〈擬態〉する――抑圧と生存戦略のカモフラージュ』は、次に読む本のリストに加えます。その他にも気になる作品がたくさんあり、こうやって読みたい本が増えていく、世界が広がっていくのは楽しいなあと改めて思いました。

対談の終了後に横道さんが「今日は取材が入っていないから記事にならなくて、もったいないですね!」と冗談交じりに仰っていましたが、本当にその通りです。もったいない!

そのうちこの速報レポートとは別で、記事として残そうと思います(大人の事情が許し、私の衝動が続けば)。


今夜はとても充実した時間でした。
登壇されたお二方、ご関係者のみなさま、ありがとうございました。



最後までお読みいただきありがとうございます!

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