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仕事の効率が悪い人にも、それなりの良さがある。マンションの修繕工事で目からウロコが落ちた話。

わたしは効率の良いことが大好きなので、仕事の効率が悪い人を見るとイラっとする。

けれど、それが全部悪いってわけでもないのかな、と思った瞬間があったのでそのことについて書いてみようと思う。

今年、うちのマンションが大規模修繕で、その現場責任者がとんでもなく頼りない。現場責任者は、たぶん私より年上の、おそらく60手前くらいのおじさん。しかし、マンションでの事前説明会では、すべての説明がしどろもどろだった。

住民からの質問には、「たぶんそうです」とか「そう思います」とか「えーっと・・・わかりません」だの、まともに答えられない。

マンション修繕説明会に集まった、やる気満々のおじさんたちは、当然このしどろもどろな現場責任者に矢継ぎ早に質問し、怒りだし、説明会はえらく紛糾した。

なぜかこういう時には、女性ではなく、おじさんがやけに元気になる。仕事モードになるのか、とにかく挙手と質問がめちゃくちゃ多い。そして無茶ぶりも多い。

説明会の中で、足場を組むのにBSアンテナが干渉するので、修繕期間は外してほしいという話になり、テレビが大好きな世代のおじさんたちが怒り狂った。「うちは絶対にアンテナを外さない!」と言い切った爺さんもいた。

しどろもどろでのらりくらりの現場責任者は、のらりくらりと「うーん、困ったなぁ。どうしよう。考えます。」と答えた。そんな予測可能な質問の答えも考えてこなかったのかよ、と心の中で突っ込んだ。

わたしたち住民が毎月何万も積み立てて、10年以上ぶりに修繕するのだ。大手の会社が請け負ったとはいえ、こんな人が現場主任なんて、まじでヤバいんじゃないのかと不安になる。

紛糾したBSアンテナの件については、業者に頼んで、有料で足場にBSアンテナをつけるサービスが付加されたらしい。

けれど、全戸に配られた手紙にはその説明が全く書かれていなかった。わかるのは、取り外し、修繕後の取り付けを有料でやります、という内容だけだった。

説明が分かりにくかったので、内容を詳しく聞くために事務所に電話したら、どうも説明会でみんなが怒っているので、なんとかテレビを見られるようにせねばと、有料でBSアンテナを足場につける策をひねり出したようなのだが、悲しいかな、その説明が書かれていないので伝わっていない。

いちおう親切で「それ、伝わってないですよ、どこにも書いてないし」と言ってみたら、「え、そうですか?わかんない?」と相変わらずな感じ。

そんな感じでのらりくらりな現場監督のもとに、修繕工事が始まった。ちょっと心配だったけど、実際に始まって見たら、請け負った会社は大手だけあって、当然現場作業はほとんどが下請け。来ている車両を見たら、個人の会社の車がずらりと並んでいた。たぶん、下請けのほうが現場を知っていて、ノウハウをわきまえているので、現場責任者があんなユルい感じでも問題ないのかもしれない。

そして、工事が始まっても、現場責任者は相変わらずゆるかった。修繕工事の際にはベランダにモノを置いてはいけないので、ベランダを片づけなくてはいけない。暑かったし、仕事もあったし、ベランダを片づける期限を確認したくて事務所に電話すると、「えーっとね、わかんないので調べます」という相変わらずな回答。

最初は、そんなことも分からないのかとイライラしながら聞いていたが、返事がいいかげんな分、全体的に適当。「うん、ちょっと期限過ぎても大丈夫」とか「片づけてほしかったらそのとき言うから大丈夫、ふふふ」みたいなテキトーな感じ。

うちのベランダにはバラがたくさんあるので、仮設の植栽置き場に鉢を移動しなくてはいけなくて、それもどうしようと思っていたら、その現場責任者が「電話くれたら手伝いますよ」と言ってくれた。ものすごくライトに。

試しに電話してみたら、「今から行きます」ってめちゃくちゃ早く来てくれて、笑顔で運んでくれた。台車1回では無理そうだったので、もう1人ゆるそうな担当者も一緒についてきた。

嫌な顔一つせずにバラの鉢を台車に乗せてくれたのは良かったのだが、その現場責任者はさすがの天然ぶりを発揮して、エレベーターに自分が先に乗ってしまい、おかげでわたしが乗れないのに「あわわ、どうしよう」とか言ってるし(一回その人が出て、わたしが先に乗れば済む話)、エントランスにある数段の階段を、台車で降りるときに、進行方向にそのまま突っ込んで鉢を落としそうになるし、もう隅から隅まで完璧にやらかしている。

一緒に来た担当者に「ほら、台車で荷物を載せて段を降りるときは反対向かないと荷物落ちちゃうよ」と、小学生でもわかりそうなことを言われているし、「植栽移動手伝います」とかライトに言ってゆるっと来たのは良いが、台車で荷物を運ぶ術さえ心得ていない。本人なりに一生懸命やってるのだろうけど、たぶんこの調子だと、この人はいままでの人生で何万回も怒られてきたんだろうと思うほどの痛快なポンコツぶりだ。

でもこの現場責任者、今までもめちゃくちゃボロカス言われてきただろうに、委縮というものを一切しない。「うーん、困ったなぁ」と頭をかきかき。相手がめちゃくちゃ本気で怒っているのに、「テヘペロ」的な雰囲気の笑顔を余裕でぶちかますのだ。

わたしは自分でも効率モンスターの自覚があるので、要領が悪い人を見ると相当イラっとするのだが、この現場責任者の徹底したポンコツぶり、そして何をどれだけ言われても「うーん、困ったなぁ、うふふ」みたいな雰囲気に負けて、最近は癒しさえ感じるようになってしまった。

のれんに腕押しというか、もう裸の大将レベルで、のらりくらりかわすので、こちらの怒りも「言っても無駄だ」になり、なんだか怒っている自分がばかばかしくなるレベルなのだ。

おじさんなので、まったく可愛くないが、「野に咲く花のように・・・」と歌いだしたくなる平和さがある。

ちなみにバラを運んでもらっている最中に、一緒についてきた担当者が「昨日は植栽移動のお手伝いをしていたら、陶器の鉢を割っちゃったんだよね、ははは」と言っていた。

マジでシャレになってないし。

陶製の鉢ってものによってはめちゃくちゃ高いんだぞ。弁償もんだぞ。それを笑っていられるあなたたちのようなユルい世界の住人がうらやましい。

そんなふざけた話をしながら、うちのバラを植栽の場所まで運んで、置き場所までもニコニコ運んでくれた。植栽置き場って、植栽以外置いちゃダメってことになってるはずなんだけど、プランターとか置いてる人がいた。

「これって置いていいんですか?」って聞いたら、現場責任者が相変わらずのゆるさで「まあ、ダメって言ってるんだけど、グレーだよね、ふふふ」と笑っていた。

おかげさまで捨てたくないけど室内で保管したくないプラスチックの大きな桶は、植栽置き場にこっそりおかせてもらうことにした。ゆるいのも悪くない。

そして足場がいよいよ上がってきた先週。テレビっ子の旦那には「BSアンテナを外すよ」とだいぶ前から予告していたのに、実際にアンテナが外れたら、旦那がいきなり慌てだした。「明日、吉高由里子のBSドラマがあるのに予約できないじゃないか!」と。

だからずっと前から言ってたじゃない、と伝えたけれど、そこはさすが、話を聞かない、そしてテレビ命の旦那、わたしの話には耳も貸さず、現場事務所へすっ飛んで行った。

わたしが聞いていた話では、足場があがってきたら、いったんアンテナを外すけど、有料で申し込んだ人には、なるべく早く業者を呼んで足場にアンテナを設置しますということだったので、今日の今日でアンテナ設置なんて絶対ムリだよと旦那には言っておいた。

そのあとわたしは出かけることになっていたので、そのまま直接交渉してもらおうと放置して出かけた。そして夜、わたしが帰宅したら、なんとBSアンテナがちゃっかり足場に設置され、BSが見られるようになっていた。

わたしが聞いていた話では、どう考えても不可能な感じだったのに、旦那はどんな無茶ぶりをしたのかと思い、恐ろしくて詳細を聞けなかった。まあ、ついたからいいや、とこの件は放置することにした。

すると翌週になって、例の現場責任者から電話がかかってきて「BSアンテナの業者が来る日程調整をしたい」という。

あれ?すでにうち、設置されてますけど。と言ったら、そのゆるい現場責任者が「だって、ご主人がどうしてもすぐに見たいって言うから・・・しょうがないから現場の社員に行かせて、とりあえず付けた」だって。

え、もうBSバッチリ映ってるけど、業者さん来てもらっても何か追加でやることあるんですか?と聞くと、現場責任者は「うーん、別にないかも」と相変わらずのゆるい返事。

でもいちおう有料のサービスだし、でもやったのはその場にいた社員だし、結局これって料金発生するんですかね?と聞いても「うーん、どうしようかなぁ」といつもの調子。

だんだん面倒くさくなってきて、じゃあ、いちおう設置はしてもらってるけど、専門業者に確認してもらって、そのときに有料となれば有料ということにしましょう、となった。ていうか、聞いても答えが返って来ないから、結局わたしがそういうことにしたんだけど。

そんな感じで、いつでも安定してゆるい現場責任者。どんなに怒り狂っても、どんなに詰め寄っても、「うーん、どうしようかなぁ、困ったね、テヘペロ」な感じで、よく考えたらある意味メンタルが最強だなと思う。

紛糾した説明会だって、あそこまでボロカス言われたり、詰め寄られたらわたしだったら凹んで胃が痛くなったり眠れなかったりするだろうに、彼は見事にいつも通り、のらりくらりで乗り切った。

最初は、なんで大手の会社にこんな激ユルの人がいられるのだろう、と思っていたけれど、逆にこの手の打っても響かないタイプがクレーム対応には最強のキャラだ。

マンションの長老たちは手ごわい。無茶ぶりもすごい。だから真面目に対応しちゃうタイプは、きっと神経が持たない。

ということは、これからの厳しい時代を生き抜くには、このように、ユルくて図太くいることも必要なんだな、まじめに必死でやってるだけでは、自分がすり減ってしまうな、と思った。

今までは正直、効率が悪い人って会社では使えなくって、給料泥棒的で、もはやいるだけで悪なんじゃないかと思っていたけど、実はそんなことはなく、ゆるくてのらりくらりの人も、力を発揮する場所というのがあるのだなと学んだ。

きっとその本人も気づいていないであろう最強メンタルで、きっと本人は素だけど、周りが驚く「テヘペロ」加減で、のらりくらりと人生を乗り切ってきているのだろう。

まさかこのふざけた現場責任者に人生の幅を広げてもらうことになるとは思わなかったが、そういう視点も大事だなぁと思った。

とはいえ修繕工事はこれからが本番。まだまだトラブルがありそうな予感だが、そこをどう乗り切るか、不安半分、楽しみ半分で見守っていこうと思う今日この頃だ。

今日もお読みくださりありがとうございました!






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