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国は憎みあっても、人の心はつながる。 「スウィング・キッズ」に見せつけられた”カルチャーは国境を軽々と越える”という事実。

イデオロギーなんか、クソ食らえ。ファック・イデオロギーだ。

国は憎みあっても、人の心はつながる。
踊りは国境を越える。

思想、ジャッジ、イデオロギー。
人が何かを信じること、信念を持つことは大事だが、
それを政治利用されると人が分断される。


そんなものなんか、なければいいのに。
ただ、幸せに生きられればいいだけなのに。
と願わずにはいられない作品に出会った。

それが「スウィング・キッズ」。
公開当時気になっていたのだが見逃して、ネットフリックスで鑑賞。

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予告編はこちら


舞台は朝鮮戦争下、南側に設けられた収容所で、実在の場所だ。
南側(韓国)にある捕虜収容所で、共産主義の思想を持つ人や、資本主義の自由に憧れる人、そこを管理する米軍兵、さまざまな人々が入り乱れる中、この捕虜収容所の人気集めのために新所長が考えたのが、元ミュージカルダンサーの黒人、ジャクソンにタップダンスのチームを組んで披露し、南(韓国)は魅力的だとアピールすること。

米軍の中であからさまに差別されている黒人のジャクソンを筆頭に、舞踊に長けた主人公ギス、4か国語を操る若い女性、アカ(共産主義)と間違われ収容所に連れてこられ、妻に会いたいと願う庶民、元振付師の中国人、とこれまた寄せ集めのメンバーで始まるタップダンスチーム。

絶望的に言葉が通じないまま、なぜかダンスを介せばお互いが通じ合うジャクソンとギスを中心に描きつつ、収容所の厳しい現実や、政治や思想に扇動される人々をもしっかりと捉えて問題提起していく、ポップで楽しくもあり、悲しくもある秀作だ。


ダイバーシティ、ジェンダーレス、ボーダレス、サステナブルとかいろいろな洒落た意識高い系の言葉が飛び交う中、結局、またも分断が進んだような気がするコロナ禍に観る「スウィング・キッズ」は強烈だった。

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重いテーマながらポップでライトに見始められる秀作

監督は、わたしが日本版でハマった「SUNNY 永遠の仲間たち」の監督だということで、ポップな展開が得意な監督なのであろう。朝鮮戦争という重いテーマを感じさせないオープニングで、気負いなく見始めることが出来る。

だけど当然、朝鮮戦争下の話だし、捕虜収容所が舞台なので、ドギツイシーンもある。なんでこんなことが起こるんだろうと目を伏せたくなるシーンも多々あるし、イデオロギーってなんなんだろうと考えさせられる部分も多い。

でもこの暗いシーンを上書きして余りあるほどのタップダンスシーンがそれを救ってくれる。

わたしがダンスが大好きで、リズムのあるものが好きで、フラメンコを習ったりしているせいもあるかもしれないが、60年代のポップなアメリカンヒットソングがかかり、それに合わせて見事なタップダンスが披露されると、この厳しい時代の収容所という背景を忘れさせてしまうくらい素晴らしい空間に変わってしまう。

わたしだけでなく、登場人物の面々も、共産主義者でありながら、アメリカのダンスに心惹かれて良いものかと苦悩するが、それでもタップダンスを見ると心が「踊ってしまう」というシーンがたくさんある。

頭と心はつながっていない

科学的には、脳が指令を出し、身体を動かしているのだろうし、「頭が心をつかさどっている」と思いがちだが、この映画を観ると、実のところ「頭と心はつながってないのだな」と思う。

頭で考えている事とは裏腹に、心が踊りだしてしまうようなこと、そんなことで人同士がつながっていく。

国同士の喧嘩とか、思想とか、どうでもいいじゃないかと思わせる。

辛いシーンもたくさんあるけど、メンバーが心を合わせて踊る姿は私たちの魂まで踊らせる。

実のところ、頭で分かっていても(理性)、心(感性、感情)がついてこないことはよくある。

こうしたほうがいい、と思ってやることはたいてい「心がやりたくないけど、頭がやるべきだと思っている」ことが多く、だいたいの場合心が弾まない。

逆に、したくてたまらないことは、心が勝手に踊りだす。いくら頭が制御しようと思っても、感情が動くのだ。

好きなことをするのも、恋をするのも、理屈ではなく心が動くことであり、それは頭で「好きなことをしたほうがいい」とか「この人を好きになったほうがいい」とか考えてするものではなく、どんなにいけないとわかっていても、心が勝手に動いてしまうもので、頭で制御できないことなのだ。

それを制御しようとするから心がおかしくなったり、いろいろ問題が起こる。理性や理屈で縛られることが多い世の中である。その最たるものがイデオロギーだったり政策だったりする。

本作でも、頭では思想やイデオロギー、信念に基づいて行動しようと思っていても、それにそむいてしまうはずの西洋ダンス(タップダンス)に思いを馳せると、心は自由になり、どこまでも夢の世界に富んでいく。心が躍り、思わず身体が動いてしまう主人公の姿が描かれる。

ひどい状況の中で好きなことが出来ない主人公の姿は見ていて辛いが、それでも、どんな状況下にいても、心を縛ることはできないという勇気を与えてくれる。

言葉の壁を利用したユニークなストーリー展開

この作品の何が面白いって、米軍と韓国(朝鮮)語では、まったく意思疎通ができない部分をうまく利用している部分。

通訳として雇われている軍人も、まともに訳さずに適当に通訳していたり、それをうまく利用して悪だくみを企てたりできる。

「あいつはバカだ」とお互い言い合ったところで、お互い1ミリも言葉が通じないのでさっぱりわからない。

昔「BROTHER」という北野武監督のヤクザ映画があったが
どうせ日本人には分からないだろうと英語で日本人をバカにしていたマフィアを北野武が銃で撃ちまくった後に

「ファッキンジャップくらいわかるわバカヤロウ」

と言ったのを思い出させるが、

今回はほんとうに意思疎通できないまま話が進む。
通訳と称して軍部にいる人さえマトモに通訳しない。

字幕を見ている私たちは当然全ての会話がわかるのだが、登場人物同士が理解しあえていないのがなんとなく不思議な感じでユニークだ。

ほんのときどき、4か国語を操る女性が通訳をするが、それ以外はほとんど言葉の通じない同士のコミュニケーションだ。実際の現場は、こんなもんだったのだろう。言葉の壁を悪用する者も出てくるし、言葉と言うのは本当に神が作ったバベルの塔なのではないかと思わせる。

そしてその言語を介して意思疎通のできない状況なのに関わらず、タップダンスチームを率いるジャクソン(英語)と、ギス(韓国語)が、ダンスを踊れば心が通じ合い、分かりあってしまうのがたまらない演出となっている。

わたしは言葉の壁が嫌いで、意味不明の文字があると読みたくなってしまい、つい最近もBTSにはまったことでハングルを独学し始めてしまったのだが、そういう「バベルの塔」を取っ払った先にある魂の響き合いを見せるために、言語の壁を使うというのは、あまり見たことがない演出ですごく好きだなと思った。

豪華キャストで迫力のタップダンスシーン

キャストに関しては全くノーマークで見たのだが、いやはや、タップダンスシーンがとんでもない迫力で素晴らしいものだった。

とってつけただけでは到底モノにならないほどのパフォーマンスだったので、当然ただの役者ではないだろうと思ったが、後から調べたら結構有名な人がキャスティングされていた。

K-POPグループ「EXO」のD.O.が主演を務め、タップダンスチームが人種やイデオロギーを超えてダンスで絆を深めていく姿を描いた韓国映画。ブロードウェイミュージカルの最優秀ダンサーに授与される「アステア賞」の受賞者であるジャレッド・グライムスがジャクソン役を演じる。

eiga.comより引用

K-POPに関しては長くなるのでまた別の記事で書くが、K-POPに関して1ミリも興味がなかったところから、ここ2か月でうっかりBTSの沼にハマった私だが、そもそも「顔の区別がつかない」という理由でK-POPグループはBTS以外誰も知らない。全部同じに見えてしまうのは、おばちゃんの特徴だ。やっとBTSのメンバーを頑張って覚えたのに、もうこれ以上似たような人は覚えられない。

しかし、この主役の男性は、「EXO」というK-POPの人気グループのメンバーだそうだK-POPのグループのダンスはとにかくキレキレでそろっているので、本作の主人公を務められるくらいの身体能力の持ち主なのだろう。役作りのためにタップダンスを猛練習したらしいが、猛練習というか、すでにタップを生まれたときからやってたんじゃないの??というくらいこなれた動きで観客を魅了する。

しかも米兵役のジャクソンは、ブロードウェイで活躍していた俳優さんだというではないか。ジャクソンが最初にタップを踏むシーンから目が釘付けで、カッコよすぎるとは思ったが、これはこれはまたブロードウェイ俳優と筋金入りだったか。

そもそも舞台が朝鮮戦争下の捕虜収容所という暗めの設定だし、ミニシアターで上映されるような小品だったので、地味なキャストで作られているのだとタカをくくっていたが、それは見事に覆された。

カルチャーは国境を軽々と超える

これは話がややこしいので、詳しくはまた今度にするが、私が最近ハマってしまったBTSもそうだ。

どちらかと言うと韓国の言葉がきつく感じて語感が好きではないし、割と整形上等な方向性で韓国系の音楽やドラマが苦手だっただった私だが、ある瞬間からBTSだけ別枠になり、その後あれよあれよと沼にハマり、今まで絶対に見ようとしなかった韓国ドラマを見るようになり、ついに読めなさすぎるハングルを読みたくなってハングルの練習を始めてしまった。

こうして、長年持ち続けていた韓国への苦手意識を軽々と超えてしまった。

カルチャーは国境超えてしまうのだ。しかも軽々と。

国と国とはケンカばかりするけど、人と人とのつながりは、国境がないのだ。

どんな国の人でも歳が離れていても、どんな立場の人とは気が合う人とはあうし、心を通わせることができると思っている。

ファック・イデオロギー、イデオロギーなんかくそくらえ。
心が躍ることを追い求められる、自由な世界へ。

時代背景や社会的な問題も描き、作者の強いメッセージも感じながらも、収容所内で寄せ集められたメンバーの迫力の舞台に胸を打たれる。

小さい公開ではもったいなく、もっといろんな人に観てもらいたい作品だと思った。2021年9月現在、ネットフリックスで視聴できるのでぜひ観てみていただきたい。




今日もお読みくださりありがとうございました!



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