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真っすぐすぎる父と、逃げすぎる息子。涙腺崩壊のTBSドラマ「流星ワゴン」を見て親子のすれ違いについて考える

自分の記憶が、真実とは限らない。
もしかしたら、わたしが見えていない、まったく別の真実があったかもしれないのだ。

そう思うのは、2015年のTBSドラマで、久しぶりに観た「流星ワゴン」のせいかもしれない。

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最近TBSドラマが見放題の「Paravi」が辞められず、このParaviで6年ぶりに見直した。


ParaviはTBSとテレビ東京のドラマを主に配信している月額1017円の動画オンデマンド配信サービスだ。

確か「半沢直樹」の前シリーズを見たくて入会したのだが、それ以来、懐かしいTBSドラマを見まくってしまい、さらに現在オンエア中のドラマもCMなしでサクッと見られるので便利。沼にハマってしまい、会員になったままかれこれ1年くらいになる。

なかでもTBSの日曜9時枠は「下町ロケット」「ドラゴン桜」「半沢直樹」などヒット作も目白押し、そしてグッとくる親子者と言えば重松清原作の「とんび」「流星ワゴン」、そして、漫画原作の「JINー仁ー」や、個人的に大好きな「天皇の料理番」など、骨太な作品も多い。

今回取り上げる「流星ワゴン」も2015年のオンエア当時、毎週のように涙腺崩壊して号泣し、印象深かった作品なのだが、毎回泣きすぎてその後の自分が使い物にならなくなっていたので、Paraviのラインナップで気になってはいたものの号泣すると大変なので避けていた。

だがたまたま本屋で立ち読みした「日本の絶景100選」に、記憶に残る景色が載っていて、それが「流星ワゴン」で観た景色だったことから、どうしてもまた観たくなって手を出してしまった。

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「ゆれる」に続き、またまた昔の作品ながら香川照之推しな記事だが
この作品もとんでもなく素晴らしいので、ぜひご覧いただきたい。

「流星ワゴン」の主人公の地元として登場する場所は、調べてみたところ、広島県福山市「鞆の浦(とものうら)」という場所で、漁港とノスタルジックな風景がとてつもなく印象的な場所だ。

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鞆の浦ホームページより

これは、親子の物語。
広島の田舎で、金貸しを生業にしていた破天荒で荒くれ者の父(香川照之)と、その父を憎んで、ああはなるまいと誓って育った息子(西島秀俊)。

けれど息子は東京で結婚して子供をもうけて家庭を持ったものの、家庭に問題を抱えていてうまくいかない。

悩みはてて、もうどうにでもなれ。死んでもいい。と、やけを起こしたその瞬間、タイムマシンのような車が突如現れる。

その運転手は、なんと不慮の事故で亡くなったという。助手席には8歳の息子を連れている。この車に乗れば、人生をやり直すための大切な場所にタイムスリップできると告げられる。

なんとも不思議な設定でストーリーが始まるのだが、そこから時代を遡って出会ったのは、若かりし頃の父。ちょうど自分と同じ40代の父、チュウさんと一緒に自分の人生をやり直す旅に向かう。

その途中でぶつかるさまざまな壁と、そのたびに見えてくる本当の父の想い。うまくいかないことだらけの中で、疎ましく思っていたまっすぐすぎる父を徐々に見直していくプロセス、そして父のようになるまいと、自分が追ってきた理想が、ズレていたことに気づき始める。

それと並行して走る、タイムマシンの運転手とその連れ子の物語。

わたしの父親もなかなかに破天荒で意味不明なことが多かったので、ここに登場する父親が、実はこんな思いをしていた、と明かされたときに、わたしの父も、もしかしたら彼なりの事情や思いがあったのかもしれない、と考えた。

それは、わたしにとって新しい発見だった。それは今まで金の話しかせず、わたしの行きたい場所に連れて行ってくれず、気分屋で、仕事はいつもうまくいかなくて、うちの母に苦労ばかりさせているろくでもない父が、もしかして違う視点で観たら、まったく別の人物像として書き換わる可能性があるからだ。

わたし自身が「流星ワゴン」のように昔の父の真実を知ることはもうできないが、この作品で昔の辛い記憶が徐々に書き変わっていく物語を体験しては、もしかしたら私の父も、違った視点で見ていたらこんな風に新しい気持ちで見直すことが出来たのかもしれない、という希望が持てた。

人の行動の奥にある本当の想いなんて、見えるものではないし、自分が子どもの頃の記憶で、もしとても嫌だったことがあったとしても、その裏には「大人の事情」があったかもしれないのだ。

とはいえ幼少期の記憶というのは、大人になってからの自分を支配してしまうほど強烈なものなので、自分の息子にはできるだけ良い記憶をもって育ってほしいなと思うが、やはりどうしても、親の思いというのは子ども側が求めるものと違った形で表現されてしまいやすいなと思う。

「流星ワゴン」のチュウさん(香川照之)はその典型だ。とにかくけんかっ早くてすぐに手が出る。亭主関白で偉そうにふんぞり返っている。子どものことなど気にも留めないようなそぶりで金貸しに精を出している銭ゲバ。

・・・に見えていたのだ。息子には。

本当は照れ臭くて、息子の前では弱いところを見せまいと必死だった。親なんてそんなもんで、子どもにとってはそれが真実になる。このすれ違いが泣ける。

そして息子は息子で、自分は奥さんにも息子にもいい旦那、いい父親でいると信じて疑わなかったのに、実は全然そんなことなくて、大ズレにズレているからこじれていた。それにさえ気づかず、せっかくやり直しをしているのに、またズレた解決をしようとして、現実が変わらない。

そこにチュウさんの助言や、余計なおせっかいが入り、現実が変わったりする。チュウさんは言う。きれいごとだけでは何も解決せん、と。

「ゆれる」でも家族、身内だからこその厄介ごと、愛憎があるなと思ったばかりだが、この「流星ワゴン」でも、身内とはこんなに客観的に見れなくて、こんなにすれ違っていくのか、と他人の家の中を覗いて俯瞰することができる。

そして俯瞰しつつも、自分に置き換えてドラマに入り込み、新たにわかった真実に、そして実はそこにあった真実に、そして新しく気づいた愛情に涙する。

実はこれを書いている今も、涙腺崩壊が怖くて最終回が観れていない。あとはもう寝るだけ、という準備をしてからでないと、泣きすぎて何もできないからだ。

あちこちにぶつかり、収まるところに収まっていく。そんな人生の大きな流れを見せつつも、誰もが一度は考えたことがあるであろう「もし人生をやり直せるなら」という考えに着想を得た作品で、誰が観ても思うところがある作品だろう。

ドラマなのでParaviなどのサブスク加入が必要ではあるが、気になる方はぜひ見てみていただきたい。

映画の感想をいろいろと書いてきたが、実はかなりドラマもたくさん見ていることに気づいたので、今後は心に残ったドラマについても書いていこうと思う。

今日もお読みくださりありがとうございました!


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