湯に入る
会いたいと思うのはたいてい夜のことなので、いったん眠ると忘れてしまう。なみなみと湯をはった浴槽に身を沈めていきながら、湯があふれるかあふれないかのところで耳をじっとすませている。
偶然を装ってほんの少し身体を深く沈めた途端、湯があふれてくる。一度あふれてしまえば、どんなに湯が流れてしまっても気にならない。湯は音になってとめどなく流れてゆく。
風呂は熱いのが良い。
上がったあとは、いくつかつまらないことをする。そして手足が冷えたころに布団に入る。一人だったり二人だったりするが、二人のときはときどき干し草の匂いがする。夜中にオレンジジュースを飲む。
朝になると、すべて忘れている。
会いたいと思うひとのことを、夜のうちに何かに書いておこうと思った。
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