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どうぞお先に

わたしはかけっこが得意ではなかった

一緒に走り始めたのに
足の早い子に抜かされるのはまだ良いけれど
足が遅いもの同士で
最後のデットヒートを繰り広げて
なぜか張り合いたくなってしまう自分が嫌だった


高校生のころ
真冬なのになぜか半袖短パンになって
持久走をする行事も大嫌いだった

早朝、街で唯一の大きな運動公園に集まって
学年ごと、男女ごとに分かれて走る

胸が痛くなるくらい凍てつくような空気を
必死に吸いんでは白い息を吐き
かじかむ身体を必死に温めるように足を進めた

短距離走ならばゴールが目の前に見えるから
頑張ることができるけれど
長距離はただただ辛いだけだ


むしろわたしは運動会で一等賞を取るよりも
習字で金賞をもらえるほうがよっぽど嬉しい

どちらも実力勝負ではあるけれど

習字や絵画に関しては
先生の感性に委ねられる部分があるから

金賞をもらえたときは
なんだか先生に認められた気分になって
とても嬉しかった記憶がある


だけど習字で金賞をとっても
人気者にはなれなかった

クラスの人気者といえば
足が早かったり運動神経が良かったり

サッカー部でよくシュートを決めるイケメンや
そんなに上手くないのに容姿が可愛くて
ユニフォームが似合っているというだけで
チヤホヤされるテニス部の女の子


恨み嫉みではない、断じて・・・・(言えば言うほど)


つまり学生のころは
目に見えてわかる魅力に惹かれて
それに誰も文句を言わない万人受けこそが
”人気”だったわけだ


そして私はそっち側の人間ではなかった

どちらかというと
運動よりも文芸の方が好きだったし

人気者よりも図書館の隅っこで本を読む
もの静かなメガネ男子に心惹かれた

目に見えてわかる魅力よりも
うちに秘めた魅力のほうがよっぽど風情がある


わたしは順位やステータスというものに
まったく魅力を感じられない

もちろん大好きなアーティストが
ランキングで1位になったり
賞を受賞することはとても素敵なことだし
喜ばしいことだと思うけれど

わたしは私自身のそれらに魅力を感じられない

20代前半のころは
それなりに思うところはあった

まわりはどんどん結婚していくし
仕事で成果を上げている同期が羨ましかった

10代および20代前半のころは
結婚や仕事が目に見えた成功のステータス

まるで短距離走に負けたような気分になった

一等賞でゴールテープを切って
みんなに幸せを祝われて
フラワーシャワーなんてされたりして

ぼんやりと見えるゴールの先で
人気者が笑っているのがなんだか悔しかった

だけど今のわたしはあのゴールテープを切りたいと
思っているのかと言われたらそうではない


けして若いうちに結婚したり昇進することが
良いとか悪いとかいう話ではないけれど

わたしは目に見えた幸せを手にして
まわりから賞賛されることに

”幸せというステータス”

を見出してしまっていることが違和感だった


それを感じるようになったのは
30代手前のここ最近の話


早いか遅いかで言ったら
世間一般的には早いほうが賞賛に値するだろう

だけれど早咲きか遅咲きかで言ったら
遅咲きのほうがより感動的だ

今では名の知れた有名な画家も音楽家も
この世を去ってから評価をされた

天才が生涯をかけて絵に向き合っても
生涯をかけて音楽に向き合っても

生きているうちに賞賛されていないわけだ

それでも筆を走らせ続けたのは
走り続けること自体に幸せを見出していたから
なのではないだろうか


『好きこそ物の上手なれ』

とはよく言ったもので

自分ではなんてことなくて
むしろ好きだから継続していることなのに
他人からしたら難しいと言われることがある


たとえば私が仲良くしている同僚に
手芸や絵を描くことが得意で
アイデアがどんどん浮かんでは
サッと物を作り上げることができる子がいる

「こんなの簡単だから誰にでもできますよ〜」

と謙遜とかじゃなく
それが当たり前かのように言っていたけれど
不器用な私からしたら羨ましい才能だ

それを彼女に伝えると驚いていた

そんな彼女はいま
わたしの言葉がきっかけとなったようで
手芸販売を仕事にしようと模索している

(職業カウンセラーか、私は・・・)


自分には才能がないだとか
こんなこと続けていてなんになるんだとか
劣等感にかられることもあるけれど

誰しも人にはできないナニカがある


それは形に見えないものかもしれない

努力すること自体が才能だし

結婚して家族のために家事をこなし
平穏な日常を保つことも才能

早起きすることも
夜更かししても日中眠くならないことも

・・・たぶん才能だ

(例えが思い浮かばなかったんじゃない)


それを活かせる場所はきっと無数にある
才能の数だけ生業となれるものは存在する


いまが辛いと思う人もいるだろう

それはきっと自分が手にしたかった
短距離走のゴールを勝ち取った人が目の前にいて
今まさに自分の横を走り去った人がいるから


だけど長い目で見るとそうではない


いまが辛いと思う本当の理由は

ながいながい長距離走の途中にいて
息を切らしてゴールに向かい走ろうとしているから

足が速い人に追い抜かれるのは当たり前だ
なぜならその人はそれが才能だったのだから

悔しい思いをしても
辛いと思っても走り続けることも才能だ

恨んでもいいし憎んでもいい

きっとそれが原動力になるから

だけどほんの少しの皮肉を込めて
走り去る人たちに涼しい顔をして
笑顔で言ってやろう


「どうぞお先に」


花崎 由佳

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