見出し画像

韓国ドラマ『梨泰院クラス』考察②-セロイソスアの三角関係、明暗を分けた鍵は?

注)ネタバレあり。ドラマを見ていない方は先を読まないでください!

Netflix配信の韓国ドラマ『梨泰院クラス』が面白い!と話題になっています。私もすっかりハマってしまい、何度も見返しては自分なりに解釈を深める......という自己満足を繰り返しています(笑)。

考察①ではセロイはスアの何が好きだったのか?
という記事を書きました。

というのも、最終話まで見終わってなんとなく違和感があったんです。物語の終盤まで「セロイはスアが好き」という前提で進んでいきますが、私にはそうは見えなくて。そこで、セロイのスアに対する感情を深掘りした記事を書いてみました。(考察①はこちら>>>

 今回の考察②では、セロイに対するイソとスアのアプローチの違いを比較して、三角関係の明暗はどこにあったか?を考察してみたいと思います......!

三角関係の明暗はどこで分かれた?

恋愛模様について語る前に、まずはセロイ・イソ・スア3名それぞれの性格特徴を書き出してみたいと思います。

セロイ
『信念を貫く』生き方がモットーで、自分を曲げられない。
長家の跡取り・グンウォンに父親を殺されたことから長家への復讐が人生の目的となっており、常に喪失感を抱いている。高校時代、大学入試に向かう途中でトラブルに遭うも、自力で試験会場にたどり着き結果を残したスアの「かっこいい後ろ姿」をみて淡い恋心を抱いた。

スア
幼い頃に母親に捨てられたことがトラウマ。「可哀想な私」という被害意識が大人になっても消えていない。愛された経験がなく他人を愛することができない。「自分だけは自分を愛そう」と心に誓うも「同情されたくない」「惨めになりたくない」と周囲の目を異様に気にしてしまうのは、自己肯定感の欠如が原因?美人で賢く有能であるのに自分に自信が持てず、長家に隷属してしまう。

イソ
ソシオパス(反社会的な行動や気質を特徴とする精神疾患)と診断されており、どんな手を使っても絶対に負けたくないし、欲しいものは必ず手に入れる。努力も策略も、他人を蹴落とすことも厭わない。母親から「あなたは特別優秀よ」と認められて育ち、自分に絶対の自信を持っているため周囲の目など気にしない。自己肯定感120%!

---------------------------------------------------

こうして3人の特徴を書き出してみて、改めて思ったこと。

セロイって、スアの何が好きだったの?

セロイが好きになったスアと、実際の彼女の本質には、かなり乖離があるように思いませんか......?

スアも自分で「私は変わった」と言っていた通り、大人になってからの彼女は、セロイが好きになったスアとは別人のように思えます。

高校時代は、助けられることも、助けを求める人も嫌いだったスア。人の手助けなど必要ない、という凛とした姿勢を崩さず、孤独ながらも輝いていましたよね。そこに惹かれた、とセロイも話していました。

しかし頼るところがないという事情があったにせよ、プライドを捨てて長家の助けを借り、自分を殺して長家の人間として生きるうちに、彼女は少しずつ変わってしまったんじゃないか。

......そういえば、episode3に象徴的なセリフがありました。

未成年飲酒がバレて営業停止を喰らった際、セロイは長家の長男・グンウォンの「助けてやろうか」という申し出を断固として断ります。

この時、居合わせたイソがセロイに「商売人ならプライドなんか捨てて、一度だけ我慢すれば......」と呆れ顔を見せますが、この言葉に彼は激昂していました。

「今一回、最後に一回、もう一回。一瞬は楽になる。でも繰り返すうち、人は変わる」

一度でも自分を安売りすると、人は味をしめます。屈することに慣れてしまう。別にたいしたことないや、と思ってしまうんですよね。そして要領よく得をしたんだと自分を納得させるうち、別人になっていく。

おそらく、スア自身も気づいていたと思います。セロイが好きだと言ってくれた自分は、もういないってことに。

少し話が逸れますが、友人が「スアって愛人タイプじゃない?」と言っていて、なるほど!と納得してしまいました。

“強気の美人なのに不幸オーラと影がある”って、これ、ザ・モテる女の特徴です(笑)ただモテることと人生を共にするパートナーに選ばれるかは必ずしも一致せず、自己肯定感の低さゆえセカンドに追いやられてしまう......確かにそういう素質、スアにはある気が。

一方イソはというと、二番とかありえませんね。どんな手を使っても必ず一番を勝ち取る女ですから。

......恋敵にしたくないのは、間違いなくイソです(笑)

I-「彼の人生を甘くしてあげたい」

episode4のラストで、イソがさっそく先手必勝を決めていました。

「私が通報した」と嘘を言ってスアが先に帰ってしまった後、イソはセロイを強引に誘って二人でバーへ。初めて二人でお酒を飲みます。

「俺の人生は、少し......苦い。とても苦いんだ。夜はよく眠れない。恋しいし、寂しいし、腹が立って。少しでいいから、苦い夜を、俺の人生を甘くしたかった」

「タンバム」という店名の由来を聞かれて、セロイはこんな風に語ります。

出会って間もない年下の女の子に弱音をこぼすなんて、すでにセロイらしからぬ行動ですよね。スアには絶対、こんなこと言わないでしょう。さらには酔っ払ってその場に倒れこむという失態まで。

けれどイソは弱音を聞いても情けない姿を見てもセロイを「カッコイイ」と感じて、こっそりキスしちゃう。(しかもこれが彼の初キスだったと後から知るんですよね^^)

「彼の苦い夜が甘くなりますように。彼の人生を甘くしてあげたい。私のこの気持ちは、人間が持ちうる最も愚かなものだわ」

この印象的なセリフこそ、彼女の人として、女性としての強さを表現していると感じました。そして、セロイに対するスアとイソの向き合い方の違いがはっきりと描かれています。

「私のこと好き?」と何度も尋ねるのに、自分から「好きだ」とは決して言わないスア。対照的にイソはセロイが誰を好きでも構わず「私はあなたが好き」と言い切れる強さを持っているんですよね。

さらに自分は超優秀だから、別にいい大学を出ていい会社に勤めなくてもいい。その能力を「セロイの人生を甘くしてあげる」ために使えるし、そうすることで愛も成功も手に入れられる、と自信を持っている。

「夢を、叶えてさしあげます」

大学に行かずタンバムを手伝うと決断したイソがセロイに言ったこのセリフ。カッコ良すぎます。こんなことが言える女性になりたかった。笑

I-「長家への復讐、憎しみ、すべて捨てて私と一緒にいよう」

一方、スアはepisode12で、セロイとの関係性を変えてしまう致命的ミスを犯します。

長家の会長チャン・デヒの策略で投資話が白紙となってしまった後、耐えきれなくなったスアがセロイに対し涙ながらに懇願するシーンです。

「私はいつまで敵でいればいいの?言ったわよね。私たちの関係は私が決めるんだと。長家への復讐、憎しみ、すべて捨てて私と一緒にいよう。そして、幸せになろう」

......これ、セロイには絶対に言っちゃいけない言葉だったと思うんです。

セロイにとって、長家への復讐は人生のすべて。しかもそのきっかけを与えたのはスアでした。

考察①にも書きましたが、スアはセロイにとって、長家への復讐の先にある希望なんです。スアはいつまでも彼の光であるべきだったのに......。

人生を賭けた目標を捨てさせることなんて誰にもできません。それにもっと言えば、スアにはセロイにすべてを捨てさせる権利なんかないのです。

なぜなら、彼女はセロイのために、これまで何一つとして捨てていないのだから。

「俺たちの関係は、いつだってお前しだいだ」

確かに、セロイはスアに何度もそう言っていました。

でもこの「お前しだい」という言葉は嘘だと言わざるをえない。なぜなら、たとえスアが望もうとも長家への復讐をやめる気はないし、復讐よりスアの幸せを選ぶこともないのだから。

思うに、セロイが「お前しだい」と言っていたその本音は、スアが望めば彼女のために全てを捨てるという意味ではなく、スアが自らの意志で長家を捨てる(セロイを選ぶ)のを待っているという意図だったのではないでしょうか。

結局、セロイもスアも“自分を変えることのできない”二人なんですよね。

このやりとりの後、「振られた」と感じたスアはセロイを避け始めます。鈍感なセロイに「振った」自覚はありませんが(笑)それでもこの出来事のあと、セロイからスアを誘うことはなくなりました。

I-「わがままを言っても許してもらうには、必要な存在にならないと」

受け身のスアとは対照的に、イソのセロイに対するアプローチは、ともするとかなり自分勝手。

イソじゃなかったら、間違いなく嫌われてますよね......(笑)

"寝ている間に初キスを奪う"から始まり、忘れてはいけないのはepisode5のラスト、「ディフェンス」ですね。私の大好きなシーンでもありますw

ここでもしセロイとスアがキスしていたらその先の展開は絶対に変わっていたので、恨まれようがここは阻止して正解。ですが、この時点でイソは彼女でもなんでもないですからね。言ってしまえばただの邪魔者です。

他にもセロイがスアとデートしていた翌日「昨日“あの女”と帰ったの?」「何かあった?付き合うとか」と質問攻めにするシーンもありましたね。「関係ないだろ」と言われても怯まず、とっておきの切り札で牽制していました。強すぎる(笑)。

「付き合わないで。あの女と付き合うなら、ここを辞めます」

ただ、イソがこんなことを言えるのは、言っても許されるのは、すでにイソがタンバムにとって、長家への復讐というセロイの目標にとって、なくてはならない存在になっているからです。

思うに、この“必要な女”ポジションに就くことこそ、最初からイソの作戦(「2年計画だ」と言っていましたね笑)だったのだと思います。

愛を勝ち取ることができるかどうかは定かでなくても“必要な女”でい続ける限り、少なくともセロイはイソを手放すことができないし、大切にされるから。

“恋人”さえ現れなければ、実質セロイの一番も同然のポジションですしね。

事業拡大で「IC」が大きくなっていくにつれ、イソのセロイに対するワガママ(というより愛情表現ですが)もどんどんエスカレート。Tiffanyのネックレスをおねだりしてみたり、デートしたいと言ってみたり、隙あらば「サランへ」と叫んでみたり。やりたい放題です(笑)

けれどイソにはそれだけの資格がある、とも思います。

大学進学よりセロイを選び、タンバムの立ち上げから携わり、敏腕マネージャーとして事業を軌道に乗せ、法人化、フランチャイズ化、海外進出、成功のすべてにイソが関わっている。

さらにはセロイのために自らの身を危険にさらしてまで、宿敵グンウォンから自白を引き出したり......イソの決断は常にセロイのためでした。

けれど決して自分を犠牲にしているわけでもないんですよね。セロイの成功=自分の成功でもあり、セロイの幸せが自分の幸せに繋がる。こういう関係はもう、惚れた腫れたの恋とは違う。ちょっとやそっとで壊れません。

episode13で、イソがスアに言い放ったセリフが印象的でした。

「嫌な感じ。金持ちになってこい、私を苦しめる長家を潰せ。ぜんぶ自分中心ね。当の本人は何もしないでお願いばかりしてる」

「人の気持ちはギブアンドテイクじゃない」と、セロイはスアに対して、イソはセロイに対して語る場面がありました。

その通りだと思います。どれほど好きで、いくら心を尽くしたところで好きになってもらえるわけじゃない。

しかし一方で人は、“欲しいもの”を与えてくれる相手を好きになるものじゃないでしょうか。

いつも相手の望むことを理解しようと努力し、最初から最後までセロイの「欲しいもの」を与え続けたのは誰だったか。

その視点でセロイソスアの三角関係を振り返ってみると、イソが選ばれる結末は非常に自然で、不可避な流れだと思えます。

「나 좋아해?(私のこと好き?)」

「아니,사랑해(いや、愛してる)」

ラストシーンのこのやり取りも、二人の深い絆が感じられて良かったですよね!

余談になりますが、インスタグラムで「あなたはスア派?イソ派?」というアンケートをとってみたところ、驚くことにスア派が多かったんです。

「単純に美人だから」というドラマと関係ない理由がほとんどでしたが、中には「イソが苦手・嫌い」「スアに共感する」と答えた人もいました。もちろん「断然、イソ派!」という女性も。

『梨泰院クラス』ヒットの背景には、パクソジュン演じるパク・セロイの演技力や存在感もさることながら、ヒロインの女性二人も同じくらい魅力的だったことがあると思います。

スアもイソもどちらもいい女だし、どっちも少し、悪い。

私もすっかり二人に魅了され、こんな考察まで書いてしまいました(笑)

Prev.考察①セロイはスアの何が好きだったのか?

記事はいかがでしたでしょうか。 面白いと感じていただけましたら、是非サポートをお願いいたします。更新の励みになります。