韓国ドラマ『梨泰院クラス』考察①ーセロイはスアの何が好きだったのか?
注)ネタバレあり。ドラマを見ていない方は先を読まないでください!
Netflix配信の韓国ドラマ「梨泰院クラス」、期待以上に面白くすっかりハマってしまいました。
「愛の不時着」が最高傑作だと思っていましたが「梨泰院クラス」も負けてない!今の時代を生きる男女の人生観や恋愛観について色々考えさせられるという意味では、梨泰院クラスのほうが深みがあったようにも思います。
この梨泰院クラス、原作は韓国のデジタルプラットフォームに掲載されたWEB漫画。ドラマ化前から数々の名セリフが評価されていたそうですが、ドラマでも印象的なセリフがたくさんありましたよね。
ドラマの主題は、主人公であるパク・セロイの“信念を貫く生き方”にあるわけですが、女性目線でこのドラマを見ると、やはりセロイの初恋の相手であるオ・スアと、セロイに直球アプローチで攻め続けるチョ・イソの恋の行方から目が離せません。
最終話までドラマを見た方はご存知の通り、セロイが最後に選ぶのは.........まさかの、イソ!
ドラマの冒頭では考えられない結末だし、少年漫画のセオリーとも違う気がして(少年漫画って、ひたすら好みの相手を追い続けるイメージw)意外だと私は思いました。
でもだからこそ、そこには作者の意図やメッセージが乗せられている気がして、ぜひ考察してみたくなったのです。
さっそく、名シーン・名セリフを振り返りながら掘り下げていきたいと思います!
考察①セロイはスアの何が好きだったのか
セロイって、スアの何が好きだったのでしょう。
強気の美人が好みであるというのは間違いないとして(笑)......大学受験に遅刻しそうになりながらも決して人の手を借りようとしない芯の強さに惹かれた、というような描写がありましたね。
スアには自分なりの「信念」があって、自分の人生を必死で生きている。
頭が固くて自分を曲げられないセロイが、同じように信念を持ち、しかしそのせいで生きづらそうにしているスアに親近感を覚えた......というのも確かに理由の一つだとは思います。
しかし彼女がセロイにとって、15年ものあいだ執心し続けるほど特別な存在になったのは、おそらく初恋だからとかスア自身の魅力とはまったく別の理由からではないかと思うのです。
I-「今から夢は、金持ちになること」
episode2 グンウォンへの殺人未遂罪で服役中のセロイ。面会に来てくれたスアと再会するシーンでのセリフが象徴的でした。
この面会シーン、セロイのこの先の人生を左右する大きなきっかけになっています。というのも、セロイが長家への“復讐”を心に決めたのは、まさにこの瞬間だから。
面会後、セロイはこんな風に語っていました。
ー誰かを恨んで生きても父さんは戻らない。だからそんなこと、考えもしなかった。しかし「復讐」という単語で、空っぽの心が満たされたー
そしてこの時、「復讐」をセロイに教えたのは......スアでしたよね。
「店を開きたいと思っている」とはじめて野望を語ったセロイに、スアが「復讐?」と尋ねた。彼は「違うよ」と誤魔化します(というより、この瞬間までは違ったのかもしれない)が、この瞬間にセロイは気づいたのではないでしょうか。
亡き父親の意思を継ぎ店を出し、必ず成功して長家を凌駕する大企業になる。この野望こそ長家への最大の復讐となり得る、と。
そして......セロイの野望を聞いたスアは、こう続けました。
「まだ私のことが好き?」
「貧乏な男は嫌いよ。将来金持ちになる?」
この時、頼るところを失ったスアは、セロイとの因縁を知りながらも長家から奨学金を受け取っていますよね。そして野望の話をする前に、そのことを「ごめん」と涙ながらにセロイに謝罪しています。
力を手に入れて見返したい。長家に対してはもちろん、スアに対しても、セロイはそう思ったはず。
「今から夢は、金持ちになること」
この言葉を聞いたスアは純粋に、自分への愛の告白だと感じたでしょう。
でもセロイにとっては......長家への復讐という人生を賭けた苦い使命に、スアへの恋心という甘い夢を重ね合わせて出てきた言葉だったのではないでしょうか。
I-「そういえば告白もされてないわ。私はキープなの?」
セロイの自分に対する感情が純粋な恋心じゃないと、頭のいいスアは早い段階で気づいていたように思います。
episode2で、服役を終えた後、22歳になった二人が梨泰院で偶然の再会を果たしたとき。スアはセロイに抱きつき、甘え、家に泊まる?とまで誘っていました。高飛車に振舞っても、セロイが出てくるのをずっと待ってたんですよね。
それなのにセロイは「まだ金持ちではない」と言って自らを断った。......復讐と関係なくスアのことが好きなら、こんな絶好の機会をみすみす逃すでしょうか。しかもまた長い間会えなくなることがわかっているのに。
スアはセロイにとって、長家への復讐という壮大な野望の先に立つご褒美的な存在なんじゃ......?
穿った見方かもしれませんが、そんな風にも感じさせるシーンでした。もちろんセロイ自身にそんな自覚は1ミリもないですけどね。
だいたい女性から誘わせて断るなんて......スアはかなり傷ついたはず。
さらにepisode4でのデートシーンで「今もアピールしてる」などと言いながら煮え切らないセロイに、スアが詰め寄ったときのセリフです。
「そういえば告白もされてないわ。私はキープなの?」
するとセロイは、笑いながらこんなことを言うんですよね。
「お前も俺も今は仕事優先だろ。それに俺の仕事がうまく言ったら、お前は職を失う。その時に告白したら......」
「冗談だよ」なんてセロイは笑いますが、なかなかに残酷なセリフです。
この言葉でスアはおそらく、自分の置かれている立場に気づいてしまったのではないでしょうか。
自分はセロイの敵側に立つ人間であり、そして皮肉なことに、そのことによってセロイの心を深く掴んでいるという事実に。
そう考えたら、デートに乱入してきたイソの挑発に乗り「未成年飲酒を通報したのは私」だなんて嘘をついたスアの心情も、少しは理解できる気がします。
いつか自分が惨めになってしまう前に、いっそ悪者になって嫌われて、セロイに対する恋心にケリをつけたかった。そんな気持ちからだったのではないでしょうか。
「知ってる?あんたには悪いと思ってない。なぜなら私は自分が一番大事だし、一番不憫だから」
実際は通報なんてしていないのにこんな暴言を吐いたのも、自分を勝手に長家の復讐に巻き込み、言ってみればモチベーションにしているセロイへの腹いせのようにも聞こえます。
※追記
ドラマでは意図的に漫画原作より恋愛要素を強められているらしいです。
大きなところでは、漫画原作では実際に通報したのはスア(!)。原作のスアは、ドラマよりもっとずっとドライでクールなキャラクターに描かれているみたいです。
そういえば、セロイの店で未成年のはずのイソを目撃する前、スアとセロイは店の経営について話していますよね。その際「精算書を見せて」と口を出したスアを「必要ない」とばかりにセロイが突っぱねるシーンがありました。また「お前もちっとも変わらない」「今もかわいい」と言うセロイに、スアは「今の方が良くない?」と返しています。
スアは不本意ながら長家の奨学金を受けて大学を卒業し、長家に就職し、仕事に身を捧げてようやく今の自分を手にしたわけで、そんな自分に誇りもプライドもある。でもセロイはそんなスアをただ「昔と変わらずかわいい」と評した。......ここ、素直に喜べない気持ちが理解できてしまう女性、少なくないはず。私もです(笑)
原作のスアはドラマより、わざわざ梨泰院で、しかも長家の目の前で商売を始めたセロイに対して敵対心を抱いているのかもしれないですね。
I-「お前が何をしようが、俺は揺るがない」
イソが「通報したのはスアじゃない」とフェアに伝えたことで、セロイはようやくスアの苦悩に気がつきます。
episode6で、スアをバス停まで追いかけていき「なぜ嘘をついた」「俺に嫌われたいのか」と問いかける。スアは「私は長家の人間だから」と強がりますが、そこでセロイは彼女の手を握って「ごめん、身勝手だった」「自分のことだけ考えてた」と謝るんですよね。
けれどセロイが気づいたのは、スアが長家とセロイの板挟みで苦しんでいるに違いないということだけ。間違ってはいませんが、スアを苦しめている原因は別のところにあります......。
「忠告したわ。私を好きになるなと」
この時、そう言ったスアは、溢れる感情を抑えているように見えました。
確かにスアは高校時代、セロイに「私を好きにならないで」と宣言していました。そして「なぜダメなの?」と聞いたセロイに、こう答えていましたね。
「頭の固い男は女を苦労させるから」
......まさに、スアが当時心配していた通りになってしまったというわけです。
「長家は俺が始末する」
「あの会社から解放してやる」
走り去るバスに向かって叫ぶセロイですが、この言葉も結局は長家への復讐が先にありますよね。「俺に何をしてもいい」なんてハッキリ言い切れてしまうのも、スアに対する恋心が、消えることのない復讐心の先にあるからではないでしょうか。
「お前が何をしようが、俺は揺るがない」
セロイはスアに、そう何度も宣言しています。
「何があっても俺は変わらずスアが好きだ」というまっすぐな愛の告白に聞こえなくもないですが、けれどよく考えてみたら「相手が何をしようと変わらない恋心」って、一方的だし不健全じゃないですか。
......相手の言動に一喜一憂して、必要以上に感情を揺さぶられるのが恋愛のはずなのに。
それでも好きな人からあんな風に熱く追いかけられたら、女としてはやっぱり嬉しいに違いなく......つくづく、セロイって罪な男だなぁと思わずにいられません。
※追記
ドラマではイソが過労で倒れたことをきっかけにセロイがイソへの気持ちに気づくことになりますが、原作漫画ではもっとダイレクトに、この「お前が何をしようが俺は揺るがない」というセリフがキーになっているそうです。
イソが休暇を取って海外に行っているあいだに、久しぶりの再会をしたセロイとスア。その際、こんなやり取りが交わされます。
スア)
「イソがいなくて元気がないの?」
「......私のこと好き?」
セロイ)
「何度も言ってるじゃないか」
スア)
「私が何をしたって動じないって言ったじゃない」
「今、あなたを不安にさせてる人は誰なの?」
「何度も言ってるじゃないか」と逃げるシーンはドラマにもありましたが、見ているこちらまで胸が締め付けられるやり取りで、印象的なセリフです。
そして原作漫画では、ついに「好きだ」と口に出すことができなくなったセロイに、スアが自ら本当の気持ちを気付かせてあげるんですね。
......スア、いい女だなぁ(涙)
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