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もうコロナ以前には戻れない、というより戻る気がない。

新型コロナウィルスの感染拡大防止のため、現在、多くの企業が在宅勤務を基本に事業を継続しています。私の勤め先も例外ではありません。

私の勤め先は通信事業者なので、そもそも在宅勤務の拡大は商機であり、自社が率先してそのような働き方を実践し、それをショーケースとして顧客に見せていくべきポジションにいる企業です。数年前までは育児や介護などの理由を抱えた社員だけが在宅勤務を許されていましたが、働き方改革の波に後押しされてそれを全社員に解禁したのが2017年ごろのことでした。

それでも、新型コロナウィルスが流行する前までは、社員の在宅勤務率は1割に満たない数字でした。通信事業者の中でも筋金入りの純日系企業と言っていい私の勤め先は、設備と技術はあっても、マインドが昭和です。現場監督たる中間管理職の中心的世代に「コミュニケーションの基本は対面」というような価値観が今でも根強いのです。

もちろん、それは全面的に否定されるべきものではありません。対面からしか生まれないものもあります。クリエイティブな作業ほど対面のコミュニケーションは重要になると思いますし、そうでなくとも他愛ない雑談から思いがけないヒントを得ることはしばしばあるものです。でも、少なくとも私の勤め先では、実際のところ業務の多くは対面であることを必要としない、と言って差し支えないと思います。

ともあれ、そのように昭和的な価値観を多分に引きずっていたところへ、今回の新型コロナウィルスの流行が起こりました。それまで在宅勤務の制度を活用をしたことがなかった社員も、今回ばかりは在宅勤務せざるを得ず、今や9割以上の社員が常時在宅勤務をしている状況で、事業は継続できることが証明されました。

ところで、このマガジンでずっと書いてきたことは、端的に言えば、ワーママが制約を抱えた働き方をしながら、制約のない人たちと同じ土俵で対等に戦って、評価や昇格などの少ないパイを取り合うのはそもそも無理ゲーだ、ということでした。

ところが今やどうでしょう。自由に家を出ることができないという、想像だにしなかった制約を全社員どころか全国民が突如抱えることになったのです。

山口周さんがTwitterに下記のようなツイートをしておられました。

ここに掲げられている10個の変化は、実はワーママをはじめ、ケア責任を負いながら働く人にとっては、少なからず個人的に通過してきたことです。

例えば2. に照らせば、仕事における最も原始的な物理要素、すなわち「オフィスにいること」は、ワーママにとっては容易なことではありません。日々の送り迎えや買い物、食事の準備、突発的な子どもの体調不良などに対応するのはたいてい母親だからです。コロナ以前から日常的に在宅勤務制度を活用していた人も少なくないでしょう。
3. についても、マネジメントは、多重役割を負うワーママには自ずと必要なスキルセットでした。それゆえ、ワーママならばオフィスから解放されることで少なからず生産性が「上がった」と感じている人もいると思います。10. では副業・兼業に言及されていますが、「専業主婦」という言葉に照らせば明らかなように、ワーママは仕事をしながら家や子どものことをマネジメントしているという意味でそもそも「兼業」です。さらには私のようにパラレルキャリアを目指して活動している人は3足目、4足目のわらじを履いていることになります。そのような働き方は在宅勤務あってこそ可能になるもの。ですから仕事だけでなく、家事や育児、自分の時間を持つことも含めてトータルで考えればなおさら、生産性は上がったと感じる人が少なくないと思います。

働きながらの子育ては確かに大変だけれど、それは同時により本質的なこと、会社にとって、そしてそれ以上に自分にとって真に重要なことを見極める良い機会でもありました。だから、子どもを持って働くことで生まれた変化は決してネガティブなものとは限らず、むしろトータルではポジティブに捉えている人も少なくないと思います。

ワーママにとっての問題は、むしろそれらがマイノリティだけが経験する特殊な状況だったがゆえに、周囲からの理解を得難かったことでした。在宅勤務をするのにことさらに気を使い、事細かに業務報告をする必要があったかもしれませんし、業務分担で上司や同僚に気を使わせてしまうことに負い目を感じていた人もいるでしょう。あるいは「物理要素」すなわち毎日オフィスにいて仕事に長時間コミットするという「武器」を持った同僚に対し、自分たちは丸腰で評価や昇格面談の場に臨まなければいけないこと、またその現実が上司や人事担当者に理解されないことなど・・・つまりは少数派ゆえの悩みだったのです。

しかし、今や制約は全員に共通のものになりました。もちろん、外出ができないことそのものはワーママにも極めて重くのしかかる制約であり、一刻も早い状況の改善を願ってやみません。ですが、こと働き方という観点においては、ワーママにとってこの状況はある種、夢にまで見た世界だったのではないでしょうか?自分たちがマイノリティではなくなり、「配慮」される対象ではなくなり、皆それぞれの制約を抱えていることが当然になり、互いに持ちつ持たれつ働く。

ひとたびこの状況が(災禍という思わぬきっかけであったにせよ)実現した後では、もはやコロナ以前の、日々通勤電車に揺られる生活にはとても戻れない、戻りたくないというのが本音ではないでしょうか。少なくとも、9割の社員が在宅勤務をしていても業務が継続できることが証明された今、毎日わざわざオフィスに通って働くことの必要性はこれまで以上に深いレベルで問われるべきです。

もちろんこれは白か黒かの二元論ではなく、どれくらいの頻度でオフィスで顔を合わせるのが生産性が最も高いか、どんな会議やイベントなら集まってやる意義があるか、といった観点で、それぞれの職場が自分たちにとっての最適解を見つけるべきことです。

人事部の仕事としては、今後は働き方に関わる制度は可能な限りルールを緩和する方向に向かわせながら、同時にそれぞれの現場に裁量を与える必要がこれまで以上に生じてきます。そもそも、ビジネスアワーに合わせて始業・終業する必要のある職場もあれば、海外とのやりとりが多く、働く時間帯が人によって全くバラバラという職場もあるのです。全社を一律のルールで管理することの合理性は、とっくの昔になくなっていたのです。

現場に裁量を与えるためには、管理職の力量が問われます。これは一朝一夕には解決しない重たいイシューです。日本企業の多くが、プレーヤーとして優秀な成績をおさめた人を管理職に登用してきましたが、それは裏を返せば、社員のマネジメントスキル(ポテンシャルを含め)を見極められる人がいない、あるいは新任の管理職に対してマネジメント教育をする能力が人事部にないということです。一流のプレーヤーが一流の指導者になるとは限らない。自明のようでいて、多くの日本企業においては見過ごされてきたことですが、このことは今後、未だかつてなく重くのしかかってくることになるでしょう。先送りにしてきた問題にいよいよ正面から向き合わざるを得なくなります。

私は今、グループ内でグローバル事業を統括する会社の人事部で働いています。もともと買収により傘下に入った欧州系の企業が母体となっているため、資本こそ日系ですがカルチャーは外資系のまま。国や所属会社を横断するバーチャルな組織をマネジメントする、"ガチ”のグローバル人事部です。人事部そのものもバーチャルな組織なので、コロナ以前からすべからく"リモート"で業務を行っていました。そのような組織が、上述したような課題にどのように対処しているのか、私自身は非常に高い関心を持っています(もしかしたらそんなことは課題にはなり得ないのかもしれませんが・・・)。
このあたりも自分なりに観察を継続して、いずれまとめてみたいと思います。

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