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長編小説「我ら瓦礫のうえに立つ」

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1995年の阪神淡路大震災を題材にした長編小説です。被災したマンションのその後の3年にわたる復興の物語を綴りました。 [第1部 被災](1)〜(19)、[第2部 復興](1)〜(…
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記事一覧

−序−

2020年1月17日夕刻、私は西宮市にある自宅近くの駅から電車に乗り、三宮駅前の東遊園地…

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[第1部 被災](1)

見知らぬ惑星に突然放りこまれたような 1995年1月17日、早朝。 フトンの中で目を開け…

ジェイロウ
8か月前

[第1部 被災](2)

週末まで 2日目の朝になった。兄に代わって、今日は僕が父親の入院している病院に行くことに…

ジェイロウ
8か月前
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[第1部 被災](3)

廃墟の中をくぐり抜けて 日曜日、とうとう雨が降り出す。何日も貯め込んでいた水を吐き出すよ…

ジェイロウ
8か月前
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[第1部 被災](4)

住民集会 2月に入ると、寒さが深く、厳しくなってきた。僕と妻は毎日皿にクレラップをひいて…

ジェイロウ
8か月前
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[第1部 被災](5)

「オピニオン235」 春が過ぎ、梅雨の季節になった。 ある朝、玄関のポストに分厚い書類の…

ジェイロウ
8か月前
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[第1部 被災](6)

猫のおじちゃん   このころ、この「オピニオン235」にはちょっと毛色の違う意見も載っていた。投稿したのは僕と同じE棟に住む池谷さんという人で、この人は西宮・芦屋・神戸の被災マンションを訪ね歩き、その1つ1つについての復興の現状をレポートしていた。それによると、震災後半年を過ぎて、すでに修復を完了したマンションがかなりあり、そのうち数戸が売りに出され、売買が意外に高い値で成立しているものもある、ということだった。おそらく、この時点ではまだ復旧しているマンションの絶対数が少な

[第1部 被災](7)

初顔合わせ お盆休みに入った日の夕方、家のベランダの水槽で日なたぼっこをしているカメに餌…

ジェイロウ
8か月前
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[第1部 被災](8)

C棟の利益代表 インスタントラーメンとお茶漬けを食べて少し横になり、夏風に吹かれながらペ…

ジェイロウ
8か月前
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[第1部 被災](9)

渡り廊下をつたって こうして新しい理事の最初の顔合わせは終わったが、現在の理事の任期は9…

ジェイロウ
8か月前
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[第1部 被災](10)

理事会始動 震災の年の夏が真上に来て、入道雲がそこ・かしこに出るようになっても、僕の家の…

ジェイロウ
8か月前

[第1部 被災](11)

みんなでワイワイやれば怖くない 理事会に毎週出席するにつれ、このマンションは2つの難しい…

ジェイロウ
8か月前
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[第1部 被災](12)

震災1周年 年が変わって、1996年。 震災1周年になる1月17日の正午、阪神間の各地で…

ジェイロウ
8か月前
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[第1部 被災](13)

このマンションから手を引け 「よう、」その年の5月下旬、週末の夜、阪急の夙川駅の改札を出るところで、僕は背中を叩かれた。振り返ると、瀬戸さんが珍しく幅広のスーツ姿で立っている。 「雨、降っとる?」と眼鏡の奥にある小さな目を神経質そうにくりくりと動かしながら上を指差す。 「ええ、少し」と僕は手持ちの紺の傘を広げた。駅前ターミナルにはタクシー乗り場があり、すでに家路を急ぐサラリーマンが列をなしている。 「三島君は自転車?」 「いえ。いつもはそうだけど、今日は朝から降ってましたか