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書評:『日本の食と農の未来〜「持続可能な食卓」を考える』

日本の食料自給率は落ち続けている。国内で消費される食料のうち、国内産でまかなわれている比率が食料自給率と言う。農林水産省の発表では、2020年のカロリーベースの食料自給率は37%と、2018年と並んで過去最低の水準となった。

経済のグローバル化によって、世界の様々な国から農産物を輸入できるようになり、私たちの食卓を豊かになった。しかし、国内産の農産物が減ることは、食料安全保障上の懸念事項となる。食料安全保障とは、国の責任で全ての人が将来に渡って合理的な価格で食料を入手することだ。

国内の農業に目を向けると、農業生産者の高齢化やなり手不足など解決すべき課題が多く、食料自給率の低下を改善する有効な手が打てていない。『日本の食と農の未来〜「持続可能な食卓」を考える』では、有機農業や地域再生に造詣が深い筆者が、現場レベルから見た日本農業の再生の道を提言している。

筆者の基本的な問題意識は、「食べる」と言う日常的な行為とそれを生産する「農業」という営みの間の距離がどんどん広がっていることだ。それが自給率の低下にもつながっている。この「食と農のつながりの再構築」には、五つの方策が必要と言う。

  1. 担い手の育成

  2. 有機農法の普及

  3. 他業界との連携によるフードチェーンの構築

  4. 農業を軸とした地域再生

  5. 都市農業の再生

解決の方向性として、「3. 他業界との連携によるフードチェーンの構築」は、宮城大学のの大貫名誉教授がその著書『フードバリューチェーンが変える日本農業』でも指摘している(詳しい内容はこちらを参照ください)。

また、「4. 農業を軸とした地域再生」は、アメリカで始まったCSA(地域支援型農業)が目指すところと重なる。CSAの詳しい内容については、こちらを参照ください。

本書で指摘されている「2. 有機農業の普及」が進んでいない状況の説明は、読んでいて「なるほど」と納得させられた。

有機農法とは、「科学的に合成された肥料や農薬を使用しない」「遺伝子組み換え技術を利用しない」ことで、環境への負荷を減らす農法のことだ。自然との共生を目指す有機農法は、私たち消費者が安心安全な食材を口にできるだけでなく、地球環境にもやさしく良く、いいことづくめのように思えるが、日本は他の国に比べて有機農法が盛んでないようだ。

耕地面積に対する有機農業の比率はが取り組み面積の割合は、2018年で世界平均1.5%で、国別に見ると、イタリアで15.8%、スペインで9.6%、フランス7.3%となっている。日本は増加傾向にあるものの、0.3%と正解標準からは低いレベルにある(農林水産省発表)。

筆者は、有機農業が広まらない背景として

  • 従来の方法とは異なるので、地域の農家や普及員などに相談できない

  • 販路が確立してない

  • 周りの農家からの理解が得にくい

確かに、自分だけ目立つようなことをして狭い地域社会の中で孤立してしまうことは、特に新規就農者にとって大きな心配の種なってしまうだろう。

日本農業の再生は、農家だけが懸命に何とかしようとしてもなかなか解決しない。行政や地域社会、そして私たち消費者も自分ごととして向き合うべき問題だろう。成果が出るまでに時間のかかる取り組みになるが、本書の中でいくつかの成功事例が紹介されていることは、読んでいて希望が持てた。都市に住んでいても、都市近郊で展開しているシェア畑の契約や援農ボランティアなどの「食と農」の距離を縮める方法がある。試していみたい。

『日本の食と農の未来〜「持続可能な食卓」を考える』小口広太、光文社新書

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