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<ラグビー>日本代表が2027年大会でベスト4以上にいくためには?


1.序論

 2023年大会では、惜しくもベスト8入りを逃した日本代表だったが、特にプールマッチのアルゼンチン戦とイングランド戦では、彼我の実力差を思い知る結果となった。

 前回2019年の地元開催では、ホームアドバンテージやサンウルヴズによるスーパーラグビー参戦という貴重かつ強力な強化策によって、日本代表は初のベスト8入りするという歴史的快挙を成し遂げたが、2023年大会では達成できなかった。

 私は、イングランド戦とアルゼンチン戦のそれぞれの詳細な敗因について、ここで述べるつもりはないし、また多くの方が論評しているので、それ以上に述べるべきものもないと思っている。一方、サンウルヴズの撤退と新型コロナウイルスによる各種規制により、テストマッチが行えない期間が長期にわたったことは、個々の試合内容とは別次元でのディスアドバンテージであったことは、多くの方が指摘しているところである。

 しかし、こうした理由の他にも、細かくチェックしていけば様々な原因が浮上してくる。また、2027年に向けて日本代表がさらに躍進するためには、監督やコーチを代えることだけでは実現できないものが多々あると考えている。なぜなら、ラグビー界全体の構造改革を必要としているからだ。

 以上の文脈(コンセプト)で、私が以前から書いている意見を踏まえつつ、私見としての日本ラグビー強化策を述べたい。(注:この私見に対して、「部外者かつ素人が勝手な御託を並べている」という批判があることは、十分認識しているつもりだ。そうした方々には、一時バラエティー番組でよく使われた「一般大衆の一人としての意見」のような発言だと、ご容赦願いたい。)

2.本論

 以下の6項目に分けて、愚見を述べさせていただく。

(1)リーグワンと大学ラグビー

(ア)有望な高校生は大学のぬるい環境で育成するのではなく、リーグワンのクラブで育成すべき。選手が大学卒の資格を希望するのなら、社会人として学べる様々な方途がある。

 今回のRWCを見るまでもなく、世界のトップ国の代表には、日本の大学生世代が多く入っている。そして、20歳前後からRWCという大舞台で貴重な経験値を積み、また普段は国内のトップクラブでベテラン選手らから良い刺激を受けることによって、若い選手たちは飛躍的かつ急速に成長している。それがそのまま、RWCでの結果に直結しているといっても過言ではない。

 ところが日本の現実は、大昔の大学ラグビーを中心に日本代表選手を選出していた時代から変わることなく、高校を卒業した後に大学のクラブへ「進学」するのが当然となっている。もしこの大学ラグビーの環境が、リーグワン並みに厳しくかつレベルの高いものであれば良いのだが、実際は秋から正月にかけて、二週間に一試合だけのリーグ戦を経た後、年末年始に最大4試合程度のトーナメント戦を戦うだけである。しかも、強豪校にとっては、そのうちの半分以上は実力差が離れた相手との対戦になっている。このような切磋琢磨できる試合が極めて少ない環境では、才能ある選手たちが成長する度合いも限られてしまうだろう。

 そして、こうした大学での試合を徒に四年間重ねても選手が成長しないばかりか(また、1年生や2年生のうちは、試合にでられない場合も多くある)、いわばぬるま湯といわざるを得ない環境に長期間おかれることによって、高校時代に輝いていた選手の才能が劣化する恐れがある。実際、高校時代に輝いていた選手が、大学に入ってから沈んでしまった例が多々あった。そして、この貴重な四年間のうちに、世界トップレベルの同世代の選手たちは、よりレベルが高く、より厳しい環境の中で、多くの充実した試合を経験しながら、飛躍的かつ急速に成長しているのだ。

 こうした日本と世界トップレベルとの大きな差を埋めるためには、高校を卒業した有望な高校生は、大学クラブに「進学」せず、リーグワンのトップレベルのクラブに「就職」することが最善の解決策だろう。そして、リーグワンクラブの優れた施設や環境及び指導方法によって、20歳前後の選手が将来の日本代表候補として育成されていくことは、計り知れない利益を生むはずだ。この良い例として、既に福井翔太やワーナー・ディアンズという素晴らしい成果が出ていることが、なによりの証拠だ。

(イ)大学ラグビーは現状維持

 一方、高校生の進路問題とは別として、既に長い伝統のある日本の大学ラグビーの制度については、敢えて根本的な改革に手をつけなくて良いと思う。なぜなら、これはまさに日本ラグビーの伝統と歴史を体現している存在でもあり、その貴重さは軽々に無くして良いものではないと考えるからだ。そして、高校生の進路問題が解消されれば、大学ラグビーのぬるい環境は問題ではなくなる。むしろ、そうしたぬるい環境を維持することによって、本来持っていた大学クラブとしての楽しい部活動を維持していけば良いのではないか。つまり大学ラグビーには、勝ち負けとは別の価値を見出す場所になって欲しいのだ。

 そして大学生には、ラグビーだけに集中する生活ではなく、勉学を中心にした余暇としてのクラブ活動を楽しむようになって欲しい。また、こうなったからといって、古き良き大学ラグビーの価値が失われるとは思わない。むしろ、こうなった方が元々持っていた大学ラグビーとしての価値に戻れるのではないかと考えている。

 一方、リーグワン所属の選手が引退後の生活等を考慮して、大学卒の資格取得を希望する場合は、社会人入学制度等を利用することも可能だろう。そのため、大学には特別入学枠を作ってもらえればありがたい。また、大学クラブがリーグワンクラブの選手を自分のクラブの選手として登録したい場合は、リーグワンクラブと重複して選手登録することも許容されて良い。ただしこの場合は、大学クラブ間の実力差や格差を拡げないために、18~22歳に年齢制限することや最大2人までといった人数制限が必要になる。また、大学の試合がある場合は、大学クラブに選手起用の優先権を認める方向とするが、選手自身の意向(希望)を最大限尊重する制度にしたい。

 なお、この逆の場合(大学クラブ所属の選手が、リーグワンクラブとの重複登録を希望する)も想定されるが、私の理想としては、ハイレベルの選手がリーグワンでプレーし、リーグワンでプレーできないレベルの選手が大学でプレーするイメージとなっているので、この新制度に慣れるまでの過渡期にはある程度の効果があるかも知れないが、新制度が定着するに従って(つまり、大学クラブにはリーグワンクラブでのプレーが難しい選手が所属する状態になるため)すぐに要望が無くなるだろう。

(2)高校ラグビー

(ア)全国大会で県ごとの代表を継続するのであれば、実力から判断して二部制にすべし。

 現状では、予選参加校が極めて少ない県からも出場させている一方、全国大会の二回戦以降は、実力校との対戦が大差の試合になる、つまりゲームが壊れるだけではなく、選手の健康被害が心配されるほどのミスマッチが発生している。これは、対戦している選手のみならず、高校生という教育的観点からも好ましくない状況だろう。そして、スポーツという大きな観点からも、看過してはならないものだと考える。

 また一方では、人気スポーツとは言えないラグビーを、多くの高校生が楽しみまた生涯スポーツにしたいと思うようになってもらいたい、さらに父母などの関係者には応援しがいのあるものにしたい、などの点を考慮すれば、全国大会は実力で分けた二部制にすべきである。そして、負けたら終わりのトーナメント戦というマイナス面を是正するために、参加各校が最低2試合をできるようにしたい。試合数が増えることは、日程調整やレフェリーの手配など、開催関係者の業務が多くなるとは思うが、最大多数の最大幸福につながるものと考えた英断を願いたい。

(イ)強豪校に部員が集中するのを防ぐために、一校の部員を最大45人(2チーム分弱)に制限すべし。そのために強豪校がセレクションを行ってもやむなしとする。

 ご承知のとおり、ラグビーは15人でプレーし、高校生ではリザーブが10人いるため、試合登録は25人となっている。つまり高校クラブには最低25人いれば良いという単純計算になる。なお、クラブ内の練習(アタックアンドディフェンス)を考えれば、最低2チーム分の30人は欲しいし、リザーブ分もあればさらに良い。また、高校に3学年あることを考えれば、各学年15人として、最大45人が高校クラブとしての許容できる人数ではないか。これは、人数が増えてしまうことにより、各選手へのきめ細かい指導や安全対策ができなくなることへの有効な対応策にもなるものだ。

 一方現実には、全国大会で優勝するような強豪校には、100人以上の部員を抱えているところもある。この状況では、いくら強豪校所属といっても、3年間で一度も公式戦でプレーする機会もないまま卒業する部員が出てしまうのは残念なことだ。また、こうして一部の強豪校に選手が集中することにより、全国大会予選がミスマッチになる、あるいは部員不足で公式戦に出られない高校クラブが出てしまう(合同チームで出場)などの問題が発生している。また、これが決して些細な問題に終わらないのは、ラグビーをプレーする高校生の数が、少子化の影響以上に年々減少していることに現れている。

 そのための解決策として、強豪校は先に述べた45人を部員数の限度として、そのための入学前のセレクションを行ってもやむなしとしたい。そして、セレクションに洩れた選手は、他校を選ぶなどによって、ラグビーを継続してもらいたい。また、こうすることによって、全国大会やその予選でのミスマッチが減少できるだろう。さらに、将来代表レベルになれる原石を発掘するチャンスも増えることを期待したい。強豪校でプレーしていないがために、原石として発見されるチャンスを失っているケースを排除することは、日本ラグビーにとって良い結果に結びつくと思う。

(ウ)関東や関西などの地域ごとの試合を日本協会が実施する。

 将来の日本代表の人材発掘のためには、各校の部活だけに任せてはおけない。また、新人戦、春季大会、全国大会予選のトーナメント戦だけでは、試合数が少なすぎる。そのため、地域内のリーグを実施して、多くの高校生部員に沢山の公式戦を経験させたい。また、部員数が少ない高校同士による合同チームの参加も認めてよい。そして、リーグ戦の試合結果などを参考にして、それぞれの地域代表を選抜して他地域と対戦させる。ここまで試合を重ねれていけば、高校代表に選出される機会が多くなる他、日本協会としても人材発掘の良い参考になるはずだ。

(3)中学ラグビーの受け入れ先が少ない問題について

 日本では、小学生世代までを対象にした少年少女ラグビースクールは、それなりに充実しており、クラブ数も決して少なくない。また日本代表選手を輩出するなどの、一定の成果を挙げている(特に福岡と大阪)。しかし、中学生になったときに、部活でラグビーがある学校が少ないため、ラグビーを辞めてしまう事例が出ている。これは、非常にもったいないことだ。

 そうしたことを解消するため、リーグワンの各クラブは、クラブ所在地周辺を基準として、中学生チームを作り、中学生世代を育成する責任を持たせたい。また、わざわざ新たに中学生チームを作ることが困難であれば、例えば、クラブ所在地周辺にある既存のラグビースクールと提携関係を結び、ラグビースクール卒業生の受け皿にすることも良いのではないか。

(4)サンウルヴズ復活とスーパーラグビー参戦

 2019年大会で日本がベスト8入りした最大の功労者は、エディー・ジョーンズでもジェイミー・ジョセフでもない。サンウルヴズでの経験に尽きる。このNZ、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチン、そしてシンガポールを旅しながら、日本では絶対に経験できないスーパーラグビーのハイレベルの試合を、多くの日本代表及び準代表選手たちが長期間経験できたことは、日本代表強化に最も役立ったことは論を待たない。また、2023年大会の結果は、この意見を後押しするものとなっている。2023年大会におけるフィジーのベスト8入りには、スーパーラグビーに参戦したフィジアンドルアが大きく貢献したことは、誰もが認めるところだからだ。

 そのため、日本代表の真の強化のためには、サンウルヴズを再建し、スーパーラグビーに復帰することが急務の課題である。日本協会としては、サンウルヴズをつぶした要因は、財政問題にあったと説明していたが、たとえばリーグワンクラブや日本代表の協賛企業によってサンウルヴズの財政基盤を確立することを、真剣に検討しても良いのではないか。特にRWCという素晴らしい広告効果があった今年は、ラグビー熱が冷めないうちに、サンウルヴズ復活に向けて早急に動くべき絶好のチャンスだ。

 なお、実際にサンウルヴズが復活した場合は、リーグワン各クラブは、サンウルヴズへの選手供出を優先することとするが、一方で各クラブのチーム事情も考慮して、各クラブからのサンウルヴズへの選手派遣は、最大3名に制限する案はどうだろうか。また、(実際にプレーできる選手はほぼいないと思うが)サンウルヴズとして必要でありまた選手自身の希望があれば、大学クラブからの参加も認めて良いと思う。

(5)テストマッチとBチームの強化

(ア)テストマッチ

 日本代表強化にとって最も不足しているのは、ハイレベルのテストマッチの試合数である。シックスネーションズやザラグビーチャンピオンシップ参加国は、年間10試合程度ハイレベルのテストマッチを行っている。一方、日本のティア1国とのテストマッチは、年間1~2試合がせいぜいだ。この差は非常に大きい。

 そのため、出来る限りシックスネーションズまたはザラグビーチャンピオンシップに参加できるよう尽力したい。もちろん、相手があることなので、スーパーラグビーにサンウルヴズが参加することよりも、参入に向けた難題が多いだろう。しかし、難題が多いからこそ、その成果は計り知れないものがあると思う。

(イ)ジャパンXV(B代表チームの活用)

 日本代表Bチームとして、ジャパンXVを毎年結成し、A代表チームの海外遠征に帯同させ、可能な限り相手国B代表との試合を組む。また、それができない場合は、遠征先の強豪クラブとの試合を組む。こういう経験を積み重ねていけば、自ずとA代表の強化に直結するはずであり、また世代交代がスムーズに実現できるだろう。

 また、こうした遠征試合の他に、恒常的な試合を持つために、ジャパンXVをアジアラグビーのリーグ戦に参加させたい。なお、私の知る限りはこうしたアジアラグビーリーグはないので、アジアラグビーの盟主として、日本協会が率先してアジアラグビーリーグを結成すれば良い。これは、日本代表のみならず、アジアラグビーの向上にも大きく寄与するはずだ。

(6)セヴンズの強化

 せっかくオリンピック競技に採用されているのにも関わらず、日本代表セヴンズは結果を残せないでいる。その理由は、何よりも国内でのセヴンズ環境が整っていないことに尽きる。

 一方、フィットネス・スキル・スピードを思う存分に発揮するセヴンズで、長期にわたって若手選手を鍛錬させられれば、将来日本代表で活躍する選手を育成する舞台として有効に活用できるだろう。実際、ティア1国代表チームには、20歳前後にセヴンズで活躍した選手が多数入っている。また、セヴンズは、15人制よりフィジカル勝負のプレーが少ない一方、敏捷性に優れる日本人の特質にマッチしている競技であることは、選手に自信を持たせる面で有効だ。そして、何よりもオリンピックという大目標があることは、モチベーションの維持につながる。

 そのため、日本国内のセヴンズの全国大会を、年間を通じて複数回開催したい。開催は、高校生・大学生・リーグワンの各レベルに分ける。また、全国大会予選(参加チームは最大16チーム?)を各地域で行う。なお、セヴンズは15人制と異なって試合時間が7分なので、短期間で大会を終えることができる。世界最大の香港セヴンズでも、3日間で開催しているので、特に学生にとっては、拘束される期間が少ないため、より参加しやすい大会になるはずだ。そして、こうした大会を日本各地で開催することにより、ラグビーの広告塔となるとともに、広くラグビーの競技人口増加につながっていくものになることが期待できる。


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