「初めての人生の歩き方」(有原ときみとぼくの日記)第33房:生きているということは、生まれ変わり続けているということ。

 いい意味でも、悪い意味でも、人は常に変化している。いくら恒常性の生き物だとしてもだ。

 有原くんは自己改革に励んでいた。もちろん、いい意味で。時間があれば本を読み、アファメーションをし、勉強をし、バイトをし、休みなんか一切なく、まるで修行僧のように、毎日を余裕がなくなるまで頑張って、頑張って、夢のために、彼女のために、より良い未来のためにと歯を食いしばって、嫌な自分を受け止めて、内観、客観視の日々を送り、世の為人のためにと慈悲の瞑想、遠隔ヒーリング、誰に言われたわけでもなく玄関前の掃き掃除、エレベーター内の掃き掃除、夜は心理学の講座にこれから更に勉強会を増やしていく予定で、来週はエネルギー治療で頭の中を治してもらいに行き、バイトだってそうだ、嫌なことが沢山ある、社会不安障害が再発して逃げ出したくなっても、なに、もうすぐ一緒に暮らせるんだ、そのための資金だと言い聞かせ、少しでもよりよく、少しでも彼女のために、少しでもお互いの未来がよくなるように、とにかくひたすら時間を無駄にしないように、焦っていたのは認めるけど、それでも時間が足りない、これでは彼女を守れない、そんなプライド、どうでもいい責任感、独りよがりの押し付け、まだまだ書きたいことはあるし、まだまだ頭の中が燃えている、いや、凍っているのかもしれない、もう彼の頭には、正常の欠片もない。

 彼は昨晩、彼女を傷つけた。
 吐いた言葉は戻らない。
 責任も取れやしない。

 他の感情は、例えば苦しいとか悲しいなんてものは、たぶん嘘だ。

 空っぽ。

 生まれ変わるつもりが、悪い方向へ変わっていたようだ。

 また、いつか、機会があれば手紙を書こうと思っている。

 白紙かもしれないけど、彼はいま、久しぶりに泣いた。

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