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さよならアクトン。三鷹から青山へ。

ロンドンに到着した日からちょうど1ヶ月。わたしは引っ越しの準備をしていた。ホームステイ先の契約を終わりにし、一人でアパートを借りることにしたのだ。日本の知り合いのつてで紹介してもらったところだから、選ぶも何もない。そこのアパートの担当者に会いに行き、〇〇さんの知り合いっていうんじゃ無下にできないわね、ってな感じでOKしてもらった。〇〇さんには本当に感謝しかない。そんなわけだから、当然贅沢は言えない。いや、とんでもない、むしろ贅沢言うまでもなく、それはとても贅沢なところにあったのだった。

日本で言うなら、青山?表参道?麻布?そんな感じのエリアであるチェルシー。最寄り駅はサウスケンジントン。美術館や博物館の多い、観光にも人気のある街だ。交通の便も良い。学校へも行きやすい。

引っ越しの当日は、大したことはなかった。大きなトランク1つに全部を詰め込み、1ヶ月間お世話になったインディアンイングリッシュのお宅を後にする。たかだか1ヶ月だけどなんかいろいろあったな…。前にも書いた通り、留学生はわたし一人ではなく、イタリア人とヨルダン人の男の子もいた。そして、ステイ先のおうちの玄関はオートロック式だった。といっても、電動のじゃなくて、一度ドアを閉めると外からは鍵をかける必要のない、あれである。つまり、鍵を持たずに外に出ちゃダメなアレである。

わたしは毎日朝起きると、外の空気を吸いに玄関の外に出ていた。いや、うそごめん、シガレットを吸いに。すぐに戻るから、ドアは少し開けたままにしておく。ある朝、いつものようにそうして家に戻ろうとするとドアが閉まっていた。あれっ、何かのはずみで閉まっちゃったかな、仕方がない、鍵を差して開けよう。と、鍵を鍵穴へ差し込もうとすると、そこには鍵が差さっていた。柄のない鍵が。目を疑った。世の中に、こんなにも無意味なものがあるだろうか?すっぽりと鍵穴に収まった鍵は取り出そうにも取り出せない。当然鍵を廻すこともできない。何度か掴み出そうと頑張ってみたが、どうしたって掴みどころがない。この話自体、掴みどころがない。

仕方がないのでピンポン押すことにした。実はわたしは一番早起きで、家族じゅうみんなまだ寝ている時間。気が引けたけれどどうにもならない。ピンポン、ピンポン、ピンポンピンポンピンポンピンポン・・・出ない。誰も出てこない。だいぶ経ってからホストマザーが起きて出てきた。鍵穴を指さすわたし。なんだこりゃー!とホストマザー。どうやら、昨日夜遅く、酔っ払って帰ってきたヨルダン人の男の子がやっちゃったんだろう、ということだった。どうやったらそんなにぽっきり鍵折れるんだよ・・・とは思うけど、まぁ、折っちゃったのが鍵開けた後でよかったね。

いろいろあったな・・・なんて言うわりに、思い出すのはこんな話である。他にも事件はあったけど笑、引っ越しの当日はインドからおばあちゃんはじめ親戚一同が集まるんだとかでステイ先はバタバタしており、じゃあね、ありがとう、とお世話になったお礼を言い、涙はお互い一滴もこぼさずお別れした。そう、イギリスのホームステイはそんな感じなのだ。それが良さでもあるかもしれない。もし、ドラマみたいなホームステイが経験したいなら、間違いなく他の国をお勧めするけれどね。

さよならアクトンタウン。あたいはケンジントンへ行くわ。と、三鷹から青山へと引っ越していくのであった。続く。

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