勝田 俊哉

弾き語りをしたり、文章を書いたり、猫と一緒にきままな毎日を送っています。よろしくお願い…

勝田 俊哉

弾き語りをしたり、文章を書いたり、猫と一緒にきままな毎日を送っています。よろしくお願い致します。

最近の記事

【短編小説】マイホーム

 私のキーホルダーにはもう三十年ほど使用していない鍵があります。 なぜ使わないのに大切に持っているかというと、私にとって一生忘れられない鍵だからです。  それは私の生涯で、最初で最後のマイホームの鍵なのです。  私は29の時、中学の同級生と結婚しました。翌年に長男が生まれ、その2年後には長女を授かりました。決して裕福ではありませんでしたが、子供にも恵まれ、順風満帆の家族生活だったと思います。  長男が小学校にあがる歳になり、さすがに新婚当初から暮らしていた1DKのアパートで

    • 【短編小説】あおいろの味~bar YoYo ebisu物語①

       ゴウダさんは半年ほど前から週に一度ぐらいの頻度で来店されている。 体は大きく強面で、いつもカウンターの一番奥に座り、話し掛けられたくないようなオーラを出している。  ゴウダさんという名前も、時々ご一緒される取引先らしい方が 「ゴウダ専務」と呼んでいるので知ったぐらいである。  ところがそのゴウダ専務、顔に似合わずと言っては失礼だが、いつも爽やかなブルーの色合いが特徴の、チャイナブルーを注文される。余程好きなのか、おかわりも同じチャイナブルー。そしてグラスを見つめる時、わずか

      • 【随筆】杉並第二小学校新旧校舎で感涙

         2月初旬、一通のメールが届きました。 母校である杉並第二小学校の同窓会事務局からでした。 何年か前の同窓会に参加し、メールを登録していました。  2024年3月2日(土)に新校舎の内覧会と、旧校舎取り壊しに伴うペイントイベントを行うと書かれていました。  私は杉並第二小学校が大好きで、卒業から40年以上たった今でもその頃のことがまるで昨日のことのように思い出されます。それだけ幸せな小学校時代を過ごすことができたのでしょう。両親に感謝しなければいけません。  当日になり

        • 【短編小説】サイレン

          ……ウーーーーー ウーーーーー…… 『善福寺川の、水位が、上昇して、おります。危険ですので、外出を控え、川には、近付かないように、して、ください』 サイレンの長さに合わせたような、やけに間延びした放送が流れる。とても急を要する状況には思えない。一応窓を開けて外の様子を見ると、柿の葉の濃い緑色が横殴りの雨に打たれて左右に揺れている。  これで今日は水撒きをしないで済む。  空梅雨の終わりを告げる雨に感じたのは、それぐらいのことだった。  生まれてからもう四十年、ずっとこの家

        【短編小説】マイホーム

          【短編小説】右から左

          「祐輔、聞こえるか?」  気付くと電子音は消え、秀一の声が響いている。 「ヘッドホンをはずして出てきていいぞ」    言われるままにヘッドホンをフックに掛け、扉を押して外に出る。この装置、以前もどこかで体験した気がしたが、改めて外側から見て思い出した。聴力検査だ。音が聞こえた時に押すボタンがないだけで、ヘッドホンも、扉の重さも、全体の大きさもそっくりだ。  ゆっくりと部屋の中を見回す。2024年2月のカレンダー、旅行して集めたという錆びた昭和の看板、アイドルグループのポスタ

          【短編小説】右から左

          久保田早紀さん「オレンジエアメールスペシャル」のこととか。

          ここ数日の出来事を一気に。 2/6(火)にYaYaさんに皆さんの演奏を聴きに行き、 宮田君が久保田早紀さんの「異邦人」をカバーしていたのをきっかけに、清志郎さんとアルバムの話になり、それで思い出したのが久保田早紀さん4枚目のアルバム「エアメール・スペシャル」。 僕が人生で初めて購入したアルバムが「異邦人」が入っているデビューアルバム「夢語り」で、それに続いて「天界」「サウダーテ」と購入しました。 初期三作品と言われるこれらの作品はポルトガルでレコーディングしたものもあり

          久保田早紀さん「オレンジエアメールスペシャル」のこととか。

          いつも採血に苦労する話

          月曜日に予報通りに雪が降り、翌朝一番で健康診断でした。 雪を避けながら病院に到着。健康診断で僕が一番苦労するのが採血です。血管が出ないのです。 昨年大腸の内視鏡の時には、点滴で鎮静剤を入れるのですが、やはり血管が出ず、手の甲に点滴の針を刺し、そこから注入しました。 鎮静剤使用なので大腸は何も感じませんでしたが、手の甲だけがジンジン痛いという、何の検査なのかわからない状況でした。 そして今回も一度やってみて出なかったので一番最後にやることになりました。全ての検査が終わってか

          いつも採血に苦労する話

          久しぶりに真昼の月夜の太陽さんで演奏しました。

          ずっと更新していませんでしたが、名前も本名に戻し、気持ちも新たに更新していきたいと思います。 これからもよろしくお願い致します。 もう先月のことですが、1月30日(火)に約一年半ぶりぐらいに真昼の月夜の太陽さんに出演してきました。 久しぶりにグランドピアノを弾くので不安もありましたが、とても感触が良かったです。 この日感じたことは、お店によって、そこにしかない音があるということです。 自分の時は必死でわかりませんでしたが、共演者のお二人の演奏を聴いていて、特にそう思い

          久しぶりに真昼の月夜の太陽さんで演奏しました。

          閉店後の館内に響き渡る悲鳴-虹色百貨店第5回

          吉田係長との思い出は話せばきりがないほどたくさんある。 今日はその中で一番強烈だった話をしたいと思う。 ある日、返礼品として同じ商品100個の注文が入った。お客さまが全てお持ち帰りになるという。当然在庫がないので商品を取り寄せ、入荷後は開店中は包装する余裕がないので、残業で包装することになった。 ちょうど繁忙期で、それぞれの係員が残業しての作業があったので、吉田係長がその返礼品を全て包装することになった。 閉店後の館内は、BGMもなく、空調も切れ、シーンとした中で各自

          閉店後の館内に響き渡る悲鳴-虹色百貨店第5回

          虹色百貨店の空色の仲間たち-第四回

          驚きの連続だった面接を経て、僕は無事入社することになった。 研修が終わった翌日の朝、いつも通り研修をしていた部屋に全員集まると、名前を呼ばれた順番に整列した。それが所属ごとの割り振りだった。 やがて僕の並んでいた列にやってきたのは、食器売場の課長で、連れられていった配属先は和食器売場だった。 課長の簡単な話を聞いたあと、早速店頭に立つ。まだ商品のことも何もわからないが、接客を通して覚えていくというやり方だった。 不安と共に店頭に立っていると、しかめっ面をしながら僕に近

          虹色百貨店の空色の仲間たち-第四回

          虹色百貨店の空色の仲間たち-第3回

          衝撃の最終面接が終わり、僕はすっかり落ち込んでいた。 相撲部屋の気合い、百貨店めぐりの用意周到さ、中島みゆきの個性と比べて自分があまりにも平凡に思えたからだ。きっと彼らは今に至るまで、就職活動を必死にやってきたのだろう。それが受け答えに出ていた。中島みゆきは別にして。 この先どうしよう……。 そう思っているうちに、ゼミの教授との卒論作成面談が始まり、就職活動どころではなくなってしまった。 最終面談から一週間ほどたち、その日も教授との面談を終えて家に帰ると、 「虹色百

          虹色百貨店の空色の仲間たち-第3回

          虹色百貨店の空色の仲間たち-第2回

           最悪の筆記試験内容だったのにもかかわらず、面接に進めることになった。一次面接も何とか通過して、ついに最終面接の日がやってきた。控室に入ると、どこかで見た顔が座っている。よく見ると、なんと同じ大学で顔見知りの大山だ!!  彼とは軽音楽部で一緒だった。バンド活動に挫折して一年で辞めた僕に対して、大山は最後まで活動して部長にまでなった。並んで面接したら彼のほうが充実した学生生活を送ったのが一目瞭然だ。  終わったな……  そう思った。なんでよりによって同じ場にいるんだろう。

          虹色百貨店の空色の仲間たち-第2回

          虹色百貨店の空色の仲間たち-第1回

           毎日のように、同級生からの「内定をもらった」という話を耳にする。「すごいなー」と、どこか上の空で言いながら、今日も家でゴロゴロしている。  就職活動を全然していない。だからといって、何か他にやりたいことがあるわけでもない。単に学生から社会人になりたくないだけだった。それならそれで、何か見つかるまでアルバイトで過ごすとか、思いきって海外に行って見聞を広めたりすればいいのだが、情けないことに、人と違ったことをやる勇気がまた、欠如していた。 「そろそろ活動しないとな」  そ

          虹色百貨店の空色の仲間たち-第1回

          虹色百貨店の空色の仲間たち-はじめに

          はじめまして。ゆいろ空と申します。noteの記念すべき第一回目の投稿です。先ずは私が人生で初めて就職した、とある百貨店について、事実に基づいた物語を書いていきたいと思います。出てくる個人名、団体名は架空のものです。  もし、新卒で入社した会社がこの虹色百貨店でなかったら…。今頃路頭に迷っていたかもしれません。それほど素晴らしい会社でした。少しでもその魅力を皆さまにお伝えできればと思います。 では次回より、初めて会社説明会に行き、面接を受けるところから始めたいと思います。拙

          虹色百貨店の空色の仲間たち-はじめに