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「キスされたら好きになっちゃう」

どうも、いつまでもかつて好きだった男の話を書いて、あまつさえそれで飯を食っていきたいと思っている私です。
まぁ今のところは食べられていませんが。

明け方、クリープハイプを聴いていたら突然成仏させたくなった恋を思い出したのでスマホからちびちび書いています。


「キスされたら好きになっちゃう」

誰かと真剣な恋愛をする気になれなかったし、目の前にいる男のこともそんなに信用していなかった。ヘラヘラしながら私はそう言った。
恋愛経験は豊富な方じゃなくて単に耳年増なだけだったから、初めて会ったその日に手を繋がれたり、可愛い可愛い褒めちぎられたりするのに心臓が飛び出るほどびくびくしていたけど、舐められるのも嫌で何事もないような澄ました顔して大人しく手を繋がれたまま歩いた。

隣にいるこの人は特段遊び人という訳ではなさそうだけど、別に私に惚れている感じもしていなかった。なんとなくちょっといいなくらいの気持ちなんだろうって。

なんとなくいい雰囲気で、なんとなく手が触れ合って、なんとなくキスして、気が付いたら同じベッドで朝を迎えて、みたいな。

あわよくば、くらいの感じ。

大人になれば、言葉で契らず、流れに身を任せる「恋ですらない何か」があるって知ってはいたけれど、今まで自分がその当事者になることも、これから先もなるつもりはなかった。

だから流れを遮るつもりで何度もおどけた調子で「キスされたら好きになっちゃうからダメですよ」なんて言ったのに。

唇に湿ったあたたかい感触がして、その瞬間顔を反らした。
たぶん少し悲しかったし、ショックだったんだと思う。
ぽとぽと雫が頬を伝う。

混乱していた。
私に好きになられるのは困るだろうからこの人はキスをしてこない、と勝手に信じ、勝手に裏切られたから。

キスされて半べそをかいているなんてかっこ悪いにも程があるから細い涙が止まるまでそっぽを向いていた。

相手がその時どんな顔をしていたのかは分からない。
今思えば泣き顔を見せつけ、狼狽えた相手の顔を見ておけばよかったのかもしれないとも思う。

「泣いている?」
と馬鹿正直に聞かれたので、どうせバレているのに
「泣いていない」
とよく分からない嘘をついた。
「キスされたら好きになっちゃうからダメって言ったのに」
「もう知らないですよ」
と努めて明るく負け惜しみを言ってみたけれど
「好きになった?」
とどこか不安そうに聞き返され、何も答えられなくなってしまった。


キスされたから好きになったのか、本当はすでに好きだったからキスを受け容れたのか、今でもよく分からない。

でも、もし次があるならばお願いだから、好きって言うより先に黙ってキスをしないで。

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