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グレーシャー•ブルー未来に残したい風景

冬に雪が降るのは当たり前のことだ。

当たり前のことだった。

雪は冬の間にたまに降るものだ。

この15年の間に、毎夏、最高気温が更新され続け、氷河はみるみる後退した。
2万年という地球の歴史が、溶けて消える。

海の中に。
大気の中に。

跡形もなく。静かに。

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昔、小さな氷河をジップロックに入れてこっそり持ち帰ったことがある。
冷凍食品や水道水の氷に紛れて冷凍庫で眠る、2万年の記憶。

焼酎を入れたグラスに、ひとかけらの氷河を浮かべて、その端っこをカリカリとかじってみる。
思いがけず、味は普通。

こくり。
焼酎を喉の奥に流す。

ひっそりと、2万年の記憶を体に取り込む。

ひひひひ。
ついニヤニヤしてしまう。

またこっそり山から持ってこよう。



しかし、「また」はもうなかった。

雪が降らない年はありがたい。
過ごしやすいし、運転が楽だ。
雪かきは骨が折れる。
寒いのは嫌だ。

ここ数年は雪が降るとニュースで騒ぐ。
北緯50度の北の国で。

「昔は雪がたくさん降ったものよ。
人間も今に比べてずいぶん謙虚だったわね。
雪とも上手に付き合ってたのにね」

その代わり、涼しかった夏は、干ばつの夏となった。
毎年、かつての降雪と同じくらい当たり前に山火事が起きる。

色だけはトロピカルな美しい水に足を浸す。
きいん、と痛いほどの感覚が頭の先まで走った。

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足は一瞬にして真っ赤になり、火照った体が一気にクールダウンした。
もう一度足を入れるのは、なかなか勇気がいりそうだ。

顔を上げると、はるか遠く遠く、容赦無く太陽に照らされた岩肌に、小さな氷河が張り付いていた。


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#創作大賞 #エッセイ部門

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