CryCry_田村 悠一郎

写真と詩と日記がわりに。たまに小説

CryCry_田村 悠一郎

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干からびた胎児

   第一曲〈兵士〉  残酷に殺せ、できるだけ凄惨に。それがこの戦争を終わらせるために必要なことだ。上司はそう言って私たちを送り出した。厚い雲が覆う空の下、二十人が乗ったボートは波間に揺られながら、上陸作戦の合図を待っている。数十メートル先の海岸には大砲や鉄柵のバリケードが物々しく鎮座している。敵部隊はどこかに隠れているらしい。不気味なほど静かである。空白のような時間が一刻、一刻と過ぎ去っていく。一人の兵士が十字を切る。一人の兵士がお守りを握っている。一人の兵士が緊張のあま

    • 月に舌、照らす夜。

      コンテンポラリーな夜に 僕は月の照らす 艶やかなあなたの舌を見た 流れていく軽やかな言葉足らず 逆さまに吹く風に 上手く返事できない どんなに手を伸ばしても 届かないことは知っている だけど、伸ばさずにはいられない そこらじゅうに散らばった扉 選び方を間違えたなら 血を吐き出しても 笑い返して だって、どうなってもいいの 此岸を憂うあなたに 見えなくなるけど 手遅れにはなりたくないから もう一度だけ光を飲みこむ

      • 赤鳥(seki_chou)

        騒がしい街をつきぬけて 咽び嘆く目頭に溜まる膿を 吐き出せず 足早に帰途に着くにつけて なにかと無関心な群衆もまた ひとつの風景として ぼやけた残像として 自らを生かす道に沿って続いている 夜になろうとも 電灯が眼下の影を濃くして 溶け込むことを理性のように阻む 普段は意識にない ささくれだった毛穴から 飛び散る飛沫のような怖気 右手に走る鼓動のない車道に 間仕切りはなく 飛び込んでしまえと ささやくのはだれか 空気と空気の間に ゆらめくヒダのようなものがみえる 生

        • 天井シェルター

          意趣返し 憂さ晴らしかのように 左手の人差し指が動く癖を 目の前の恋人とやらに 叩きつける速度にだれも疑問をしない お前だってだって 怒りを嘲笑に換えて泣きながら真顔を絶やさない人 かなしくはないのか 普通の生活のための中毒性 起こりうる諸問題の中枢を刺激せずに 暴論と正論の異様に濃いラーメンをすすって 発狂したスープ 吐きかけ合うような 見えないでも飛び散っている様を 醜いと美しいの異様に濃い水を飲み下して 吹きかけ合うような 界隈をにぎわさない殺害方法 かなしくはないの

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        干からびた胎児

          アティテュード(attitude)

          さぁ、片脚で立ってみろ 空蝉のような背の割れ目 朽ちる眼に水を注ぐ 苦味を砕いて腹を啜る どうしても革靴の匂いに慣れない 反射嘔吐で白けた世界 トートバッグを振り回して 反動で自分が飛んでいくような そんな腐海みたいな反骨が欲しい 私は味方であって、仲間ではない 私は敵であって、被告ではない 有益な情報だけを抜き去っていては どうしても触れられないものもある 型落ちの玩具みたいに 廃棄処分されるだけ 言葉にすると、灰になる 果たしてドビュッシーは月に到達したか 目覚

          アティテュード(attitude)

          トリトメノアメ

          簡単ではないよ 間違えたりもする 襲ってくる雨に 解像度の高いカメラを使っても ぼやけるのは僕の手が震えているから また振り出しに戻って あなたにはまだ追いつけない 自分だけの体でも、重すぎて また眠ってしまいそうで 好きという言葉に 胸のヒリヒリが収まらない いつも言い訳ばかりで いいわけはないんだけど あとヒトコトが、あと一歩が 踏み出せない臆病さが卑屈にさせて とりとめのない、あなたのしぐさ めまいがするほどに 綺麗で僕にはちょっと 刺激的でカメラロールを閉じる

          トリトメノアメ

          薔薇の涎

          切望するコウノトリ 品性の欠片もなく圧死は必然 首だけになった無垢な魂 風に撃たれた鋼の心臓 罵詈雑言ばりの ありふれた商店街に ニコチンとタールに汚染された肺に 振り下ろされたハンマー 疑念の振動が脳髄を薄める ここ数年ばかり アラフィフの言葉がしみる 穿ってばかりの若者を蹴散らした 据え置きの石棺にはあがなえない ノッポの狂った時計の暴動 赤き薔薇の五本の指に入る症状 排他的少女環状線に乗り継ぐ 土砂降りに流された吐瀉物 豪奢な焼けすぎた肉を齧り 何十年ぶりかの契り

          揺曳(youei)

          十四歳の某国に向かう途中、数百の蔦に絡まれて 雨降りの中、慰められる 胡乱に転じてくすぐり運転、交換手を忘れたままで 度重なる葉脈の合図に拍手を送る コーヒーメーカーが故障する瞬間 目が冴えて敵わない 畳敷きの部屋に煉炭が転がっている 混沌とした思考のなかで叫び声を聞いた 完全に感性は崩れ去り 削ぎ落としたはずの刃の刃先が揺れている 死臭は、現実的でないと銀色の柄が呟いた 深く長い虚のようなものだろう 未就学児のように幼く泣きわめく 反芻する幻聴の蛾

          忽然と姿を消した骸 鯵の木に実がなって 骨の軋む濁音に咽び泣く 陽が射す方を向いても 影の武者は刀を振り回し 冷たい水の凍るまでの時節 零落する点描画家の皺 石切場にて一生を終える鹿 脳震盪を起こして墜落する鷹 落ちていた羽を銭に換える猿 雨の日妻は毒を吐き散らし 枯れ木を集めて炉にくべる 冬至の世迷言を信じるに 星が落ちて、夜は果てる 寿を身体に刻んだ非業の狂人よ めくるめく敗退の歴史に純朴なる顔で 不味い飯を喰らいながら春を待てるか 包装紙の端を折る鶴は真空を切り

          アクロリズム

          おれは電磁気の嵐に巻き込まれ 保安官たる犬が 電子操業の犬として その脳内国家を異聞録とされた 猫はどうした 改編か この星では詩にもなる この頃往来は動を生とせず 静として制とともに雑多に並べる ショーウィンドウを見よ [ショーウィンドウ]ではなく 感動後の感傷のように 鏡ではなく 反射を故意と置いて おれに爪研ぎを買っておくれ フリスビーを 化合加工食物を ケージを 魚肉を獣肉を 首輪を鈴を モノの証を もはや病的とも言える服従心は ジュテームを飛び越えて 路傍の石と

          花と便

          信じるに足る、と詰めた 手前味噌はただ腐っているだけ 年増の破綻は触れようがなく救いがたく ガーコガーコ出来損ないの音立てて崩れてく 待ってとっとと 悪くする、するりと 砂のようなとおりを口の端から垂らして へその穴に生糞を溜めて 放屁でお茶を濁しながら 砕けた前歯で現れては ひと時をふた時にもみ時にもして 帰っていく そうしてまた寝転がる 背中に生きる菌糸は ただ心地良さのために 細い糸を揺らす ひた隠しにした醜さも 死に際には剥がれて融ける 股の間に 小さな花が咲

          赤子シャトル

          動けば 解け 動かなければ 固まる それらに当てはまらなくとも 連面と続き やがて壊れていき その次を思い生き そうとも知らず 真っ白くて平等なコットの群れのなか ひたすら眠り ひたすらなき 天井の光の白と閉じた瞼の裏の黒をいっしんに受けながら これからを思うことなく 朝も夜もなく なにを待つのか 眺めてみると 色彩の薄い肉の上 濃い水を溜め込んだ 水彩の黒が 天井の光を反射して 揺れて 揺れて 揺れて ここではなくなった未来を たぶん 宇宙にみている 明くる日は雨だ

          写真と欲望

          シャッタを切って ファインダから目を離して 画面を確認して、削除する その間に幾人かが視界の隅に出たり入ったりすること 雑踏に補完されて 慣らされた人間たちのいるところ コンクリートや様々な壁面に 入っている亀裂 芽を出して伸びる蔦 それら全てが 永遠ではないことを教えてくれる 息を吸い、吐いてそのことを忘れるまでの 数瞬が切り取られて、言葉足らずにヒットアンドアウェイ その幕間に美辞麗句を並べる 足先の冷たさは 触れた時間の温かみは どこへいったのかもわからない 美

          ブルーの言葉

          ブルーは何を言っているのか 盗作者の種を撒く 棺のような重さの如雨露は右手の精気を吸い取る 悔恨ばかりの庭先を求めて すぐさま目先の街をこねくり回す どうか道を違えて違えて欲しい 私の愚かのために 正当なる道を壊してまで ブルーは犬を噛み締めている 血走った目は鋭い刃を乳房の喉元に突きつけた イメージの問題を湛えている ふたつの奥歯に挟まった意思は 傀儡の嘆きを疎かに古い櫛で梳かす うずもれたままで 聞こえもしないノックを待っている ドアノブには赤錆が着いて パラパラとトラッ

          骸(むくろ)

          往来から 一直線 突き抜けるような 太陽のおひざもと ひからびた しなびた 鳥の亡骸は 雀の亡骸は コンクリートに コンクリートの歩道に 丸々とした身体を横たえて ちょぎれた羽をそよ風にはためかせている 近づいて しゃがんで見つめると 少しだけ ひしゃげた身体の真下 コンクリートに滲みた みずたまり 雀の涙 あなたの幸せを知りたい あなたの幸せを何も知らないままに妬んでしまう前に わたしが世界でいちばん不幸だと勘違いする前に 羽ばたいていて 揺らめいていて ──

          My age 足す引く

          みんなホンマはアホなんや と、ちょございに みょうちくりんにだけど背すじにのこることば だからお前だけがアホなんとちゃうんや と、偉そうに酔いどれの こそばゆく甘たるくて 息臭く 世を笑う 夜を笑う 貪り削り、唾を吐き血反吐を吐き よお笑う 苦々しい 通りすがり うちらをくさす うちらの知らないことを知っている 通りすがり 話してくれるならば うちらとって世界の広がりそのものだけれど ただ何も言わず見下げるなら どちらからしても 通りすがり 意識は霞み 洋々黒くなりゆく